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第8話〜遭遇戦〜バウンダーウルフ 予兆編

今話から土曜日の夜に上げることにしました。

あと言い忘れていましたが、小説家になろう用のツイッターを作りました。更新情報等を載せるのでよろしくお願いします。

それでは本編へどうぞ。



バウンダーウルフは10体のアンダーウルフを率いて、こちらに向かってきていた。その大きさも他のアンダーウルフとは違い、ファミリー用の車位の大きさがある。それに加え、真っ黒な体毛は太陽の光を反射していて、艶やかに輝いていた。


『ウォオオオォォォォォーーーーンンッ!』


バウンダーウルフが気高く鳴いた。それに連られ、アンダーウルフ達も鳴き出す。そして、その鳴き声が合図だったかのように、一斉にアンダーウルフ達が加速し始めた。


「来るぞ!やつは威力偵察のつもりだ。11対3の戦闘は始めてだから、気を抜くな。いつも通りやればいい。行くぞ!」


「うん!」


「ええ!」


まずは小手調べなのか、一体目のアンダーウルフが正面から向かってきた。俺はすかさず、敵の体当たりが当たる寸前で左に避け、両手に持つ剣で平行に腹の辺りをかっさいた。だが、そこできずく。手に重みが全くないことに。


「なっ?!」


きずいた瞬間、首を後ろに向ける。すると、アンダーウルフの胴体部分に防具らしきものが着いているのが見えた。それも、なかなか厚そうな革だ。


(どうやって着けたんだ。)


俺は避けて斬った勢いで地面に着地し、そのまま次の攻撃に入ろうとまだ背中を向けている一体目にめがけ、防具を着けていない箇所に思いっきり上斜め斬りをぶちこもうとした。


──刹那、視界の左側にもう一体の灰色の影が写る。すかさず俺は後ろにジャンプして避けようとする。が、体が追い付いてこなかった。それもそのはず、異世界に転移させられてまだ1週間たっていない身だ。戦闘経験もまだ浅いひよっこ。条件反射もそこまで鋭くない。


俺はそこで二体目に攻撃を食らう──かに見えた。その時突然、左側の視界にいた二体目が重力に従い地面に吸い寄せられ、視界から消えていくのが分かった。そして、俺はそのまま左側を何の心配もせずに、一体目に向かって両剣を降り下ろした。


「キャアアァン」


一体目は後ろ足を斬り落とされた痛みに耐えきれず、そのまま地面に投げ出される。だが、最後の足掻きだと言わんばかりに前足だけを使い、方向転換をしこちらに這ってきた。


その様子はとても見るに耐えなかった。必死に必死に生きようとするその行動。元の世界の俺だったら、ほっとけないだろう。だが、今は違う。どちらかが生きるか死ぬかの瀬戸際。戦いに情などいらない。俺は、一体目の首めがけ剣を降り下ろす。


瞬間、首はスパッと飛び、血が地面に跳ねた。そう、戦いに情などいらない。俺は再び、敵を切り落とすためアンダーウルフが密集している方に向かおうとした。


「アホかっ!」


突如、美しい罵声と共に空手チョップが頭上に飛んできた。何事かと後ろを振り向いて見ると、普通に怒った顔の美香がいた。


「痛っ。なにすんだよ。美香。」


「なにすんだよじゃないよ。1人で戦って勝てると思ってるの?調子に乗ってきているのは分かるけど、すこし冷静になって。私達もいるんだからね。」


「そうだよ、ハルアキ君。私達だって戦えるんだから、頼っていいんだよ。」


俺は思い出した。戦闘に身が入りすぎて、自然と心配していなかったが、二体目をやってくれたのは他ならぬ美香達だったことを。その証拠に、一体目のすぐそばで横たわっている二体目は、全身が黒く焦げており、首元に斬り傷がある。


俺は冷静になる。そうだ俺は1人じゃない。


「分かった。俺が悪かった。次からは、ちゃんと周りを見て連携するよ。」


「はい、良くできました。」


「俺は、子供か!」


その様子を見ていたアンダーウルフ達はこちらを警戒している。否、警戒しているのではなく、バウンダーウルフの命令を忠実に待っていた。完璧な従属関係。それは、まさに理想とするものだった。仲間がやられても己の欲望で、単独行動をしない。なんて忠実な犬だろうか。


『ウォォォーーン』


再び、バウンダーウルフが鳴いた。しかし、それは始めの威力偵察の時に鳴いたものより、いくらか小さかった。


「なにか、仕掛けてくる。」


俺は察知した。これは、野生の勘だろうか。人間に備わっているものが目の前の敵に警戒しろと警鐘を鳴らしている。


「警戒しろ。」


俺は美香とニーナにそう告げた。


──瞬間、ついに敵の親玉が部下達を連れてこちらに向かってきた。その途中、部下達は四方に散らばり始めると各方面から、俺達一人一人にめがけて、2、2、4の割合で向かってきた。


俺達の立ち位置は今、左から俺、美香、ニーナの順番だ。遠距離攻撃専門のニーナが一番やりやすいと考えた親玉は、さっさと殺すため、部下を4体ほど彼女に寄越してきた。


「まずいっ!ニーナっ!」


俺は、すかさずフォローを入れにニーナのほうへ向かおうとした。だが、それは許されなかった。すでに俺専門の犬共は、歯を剥き出しにしながら、眼前に迫っている。これでは、フォローに行けない。


「くそっ、『フリーズ』」


俺はとっさに犬二体の足付近にめがけて、〈氷魔法〉フリーズを放った。みるみるうちに辺りの地面は、凍り始める。アンダーウルフは、突然足が凍って動けなくなったのであわてだす。俺はその隙に、ニーナ達の援護に向かおうとした。が、またしてもそれは許されることはなかった。


───突如、左方向から重い一撃を食らう。それは3ヶ所同時であり、太もも、横腹、二の腕を赤く染めていた。


「お兄ちゃんっ!」


真っ先にきずいたのは美香だった。美香は攻撃を仕掛けてくる2体を上手く交わしながら、苦し紛れに少しずつダメージを与えている最中、疾走と近づいてきた黒い物体を見た。


俺は衝撃で、右方向に飛ぶ。だが、地面に激突しそうなところで上手く受け身を取れたので、落下ダメージは入らなかった。


「あぁぁぁぉぁーーー!!!!くっそ、いってえ。」


左半身を見る。そこには、2センチメートルほどえぐられている痛々しい傷があった。血がどんどんあふれ出てきており、このままでは出血多量で死ぬ可能性がある。なので、俺はすかさず傷に触れた。すると・・・何も変わらなかった。


「なんでだ、ちくしょう。こんな時に、魔力切れか?」


魔力切れ、それは魔力を行使し続け、使い果たすことだ。だが、先ほど使った魔法はそれほど魔力を消費しないので、魔力切れが起こるはずがない。ならばなぜ?と思ったがすぐに答えは導き出された。


「4日や、そこらじゃ、治らないってことか。くそっ。」


傷口の深さは約2センチメートル。かなり深い。元々、回復専門のスキルではないのでこれはしょうがないことだ。だが、今は一刻を争う。


「グルゥルルゥゥゥ。」


鋭い眼光でこちらを睨んでくるバウンダーウルフは、今にも再び攻撃してきそうな体勢を作り、低い声で唸っていた。


「動かないと。」


俺は傷の痛みによってうずく全身を無理矢理立たせる。左半身は、燃えるように熱い。痛みのせいで、感覚がおかしくなってしまっていた。


(熱い、熱いが、まずこの血を止めないと。)


とその時、二体のアンダーウルフがこちらに向かってきているのが見えた。そいつらは、さっき俺が足元を凍らせた奴等だ。二体とも、やはり歯を剥き出しにしながらこちらに迫ってくる。


(最悪の状況だ。仕方ないが魔法を使う───なっ?)


そんな風に流暢に考えているのが甘かった。気がつくと、アンダーウルフ達の後ろからバウンダーウルフもこちらに迫ってきていた。


「いよいよ、詰んだか。いや?まだ早いな、諦めるのは。あの手しかない。」


俺は咄嗟にその時思い出した止血方法を行動に移した。手に火魔法で炎を作り、それを患部に押しやる。焼灼止血法だ。本来は、焼きコテで焼くはずだがそんなことは構っていられない。だが、想像を絶する痛みであることは間違いないであろう。


「あぁぁぉぁあぁぁ、ぁぁああぁあ!!!」


案の定、最悪の痛みが左半身を走る。まるで、電気椅子に座らされて拷問されているみたいだ。俺はそれを急いで順番に3ヶ所全部に行った。許容範囲を越える痛みに、俺は一瞬とびかける。そして、こっちに来てから初めて、いや人生初めての痛みに俺は耐えることが出来た。


だが、目の前にはすでに犬二体と親玉が迫ってきている。このまま何もしなければ、死ぬのは必至。今、俺の現状は血は止まっているが、傷の痛みにはまだ慣れられていない状態だ。なので、現在の選択肢は『諦めて喰われる』か『逃げて喰われる』かだ。そう、俺には血を止めたところで生きる選択肢はなかったのだ。ここから、どう足掻いたって現状を打破できる術を俺は持っていない。


「美香、ニーナ威勢の良いこといって、ごめ───『それ以上は言っちゃダメだよ、お兄ちゃん。』」


「なっ?」


俺の口を遮って颯爽と目の前に現れた彼女は、真っ黒なオーラを纏っていた。それは、怒り、憎しみ、愛、様々な感情が合わさって混濁している。だが、何故か自然と安心できる、そんな抱擁力を感じられた。


彼女もとい美香は、その両手から黒いブラックホールを生み出す。その魔法は、周りの空気を痺れさせるほど洗練されていた。目の前に迫る二体のアンダーウルフは、その気迫に一瞬恐れをなし怯む様子を見せたが、無謀にも美香に向かって突き進んでいった。


二体のアンダーウルフは同時に飛び、美香に食って掛かろうとする。両者の距離は、手の届く範囲。そして次の瞬間、その光景に誰もが目を疑った。


美香は、アンダーウルフが自分の射程圏内に入ると、両手をただ前に出した。すると、アンダーウルフの顔の部分だけがごっそりと消え、胴体だけが地面に落ちていっていた。敵の断末魔さえ聞こえない〈闇魔法〉ブラックホール。その魔法は、全てを飲み込み、全てを無に返す。


「後は、よろしく・・・・」


美香は、そう言い残し魔力切れでそのまま倒れ込む。


「ハルアキ君、大丈夫?」


そこに、ニーナがやって来た。


「俺は、大丈夫だ。ニーナは?それに他の魔物は?」


「私は大丈夫だよ。ちょうど一本だけ木があってその上で凌いでたの。それから、オーラ付きの美香が現れて他の魔物達も全部やっつけてくれた。物凄い速さだったよ。」


辺りを見回して見ると、合計6体のアンダーウルフ達が見るも無惨に殺されていた。それは、俺が苦痛を与えられたことで怒り狂った自身の感情を糧とし、〈愛の力〉でステータスを大幅に上げた結果だった。だが、それに伴い魔力も消費するので、時間制限付きの代物だ。


「魔力切れになる最後まで、頑張ってくれたのか、美香。お兄ちゃんはダメなやつだな。途中で諦めたりして。」


俺は美香をそっと抱き抱える。そして、優しくでこにキスをした。


「後は、お兄ちゃんに任せとけ、美香。」


俺は、美香をゆっくりと地面に下ろす。その時、少し笑った気がした。


「で、問題はやつだが。そろそろ、高みの見物とはいかなくなってきたんじゃないのか?」


「グルゥルルゥゥゥ」


バウンダーウルフは、美香に目の前で部下を殺されたあと、30メートルほど離れたところに移動し、しばらくこちらの出方を伺っていた。勿論、逃げるという選択肢もあるのだが、一度狙った獲物は逃がさないという性分があるらしい。バウンダーウルフは、腰を低い姿勢で保ちこちら側を睨んでくる。だが、どうあろうと俺らが勝たなくてはいけないことに変わりはない。


「ハルアキ君。私が遠距離から援護するから、直接戦闘を頼みたいんだけど・・・その体は大丈夫?」


「ああ、痛むけど、こればっかりは馴れるしかないな。それに、ここまで来て、勝たない訳にはいかないだろう?」


「そうだよね。こんなところで止まってなんかいられないよ。」


俺達は美香の方を見る。彼女は精一杯頑張った。ならば、その彼女のためにも頑張らなくちゃいけない。ここまで来たのだから、あとは親玉を倒すだけだ。


ニーナは援護できる辺りまで移動し、俺はバウンダーウルフの正面まで移動した。そして、武器を抜く。


「仕切り直しといこうじゃないか!」


「グルゥルルゥゥゥ、ウォオオン!」


それが両者決戦開始の合図だった。


両者はお互いを目指し駆ける。そのスピードはほぼ互角。止まらない二方は、あと5メートルで接触という辺りで新たなモーションに入った。


俺は飛んだ。バウンダーウルフの頭目掛け、縦平行に傷を入れようと。だが、その行動は俺に致命傷を与える。バウンダーウルフは、駆けてきた勢いを一瞬で殺し、後ろに飛んだ。


「くそっ!」


思わず声が漏れる。俺はこの時まではまだまだ余裕だった。だが、次の瞬間、俺は目を疑う光景を目にする。それは、遠くから様子を伺っていたニーナからも見えた。


「嘘でしょ・・?」


「はぁっ?」


バウンダーウルフはその大きな口を開けている。だが、通常とは違う光景がそこにはあった。口内の中心に、集まる炎。それは、一瞬でバスケットボール位の大きさになると、俺目掛け飛んできた。


(まずいっ。避けられない。)


俺の今の位置は空中。身動き出来ない相手に狙いを定めるには絶好の瞬間だった。


頭の中に『死』の一文字が浮かぶ。


───そして次の瞬間、俺の世界から───音が消えた。

読んでいただきありがとうございます。

次回も土曜日の夜に挙げます。

もし、誤字脱字、感想等がありましたら言って下さい。

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