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-5歳 つまり親の勝手に振り回される10歳の私の話

最初に投稿をしていた第一話を見づらいため二つに分けました。

うまく入ってくれるといいのですが。

父が不機嫌に帰ってくると碌でもない。


『………は?』


珍しく家族全員での夕食時(ごはんどき)家族団欒だんらんの場に爆弾を落としたのは間違いなく父だ。

母と兄と私。三人の声が重なった。


「だから、リカルダの婚約決めてきた」

「何を急に言い出したのかと、思えば」


呆れたように言ってサラダにフォークを突き刺したのは母。

あ、皿が音もたてずに綺麗に半分に割れた。母よ、今なにやった!


「リカが、婚約なんてまだまだ先の話でしょ?」


と、言ってパンをちぎったのが兄。


「あはは。10歳で婚約って時代錯誤な。勝手に決めてこないでよー」


と笑って紅茶を口にしたのが私。

宮廷しごとばに行けばそれなりに切れ者公爵としてバリバリ仕事をしている父には申し訳ないが、残念ながら三人とも話半分である。


「……三人とも話を聞く気がないのか」


と、珍しく父がしょげるわけでもなく本気の声を出したので、おや?と母兄私の三人は食事の手をピタリと止めて父に視線を向ける。


「え、マジの話?」


イヤそうに話を促したのは、外では天才の名高い兄である。 いいぞ!もっと言ってやれ!


「リカの婚約の話なんて、社交界でもまだ出た覚えが無いんだけど?」


と言うのは社交界の華として名高い母である。おかあさますてきー☆


「私だって別に好きで決めて来たわけでは無い」


と苦渋を滲ませて言うのは黙ってさえいれば渋めのダンディな父である。


「えー?変な相手と結婚させられちゃうの?私…」


巷では公爵家の珠玉しゅぎょくと呼ばれているらしい私の科白である。

珠玉とか呼ばれた所で碌に外に出る用事こともないんだけど、両親が私たち兄妹を溺愛していることと、呼んでいる贔屓ひいき縫製屋(クチュール)やら、学園に通い始めた兄とそっくりだということで勝手に妄想が膨らんで、噂が噂を呼んじゃったせいで変に曲解されてそんな訳のわからない実態とは違う名前で呼ばれているのである。 あんまり嬉しくないなー。


「ちなみに相手は?」


変な相手なら許さないと言わんばかりに、父に肉切り用のナイフを向ける兄。


「第一王子」


『…………』


あっさりと言いおった!今の重要な単語じゃないの?父の言葉に残る三人が、無言になったのは仕方ない話である。


「…お、おお。流石リカ。

 僕の妹なだけあって、大物を釣り上げたねーー…。

 将来、王の兄かよ僕…え?ぇー…」

「……あらー、玉の輿じゃないの。リカ」


チラチラとこちらを窺いながらそういう兄と母をよそ目に、どっから出た話だああ。と、テーブルクロスに突っ伏す私。

他人事だと思って適当なこと言うな!ばかああ!(泣)


「ま、まあ、仮の婚約者ってことでいいんじゃないかな……」


うわーんと本気で泣き出した私に、冷たい目を父に向ける兄と母をフォローするように父は両手を上げる。


「私だって好きで決めてきた訳ではない!!」


言い訳にしかならないことを言いながら「とにかく決まったことだから!ね?ね?」と念を押すように言う父は、兄と母の視線でほとんど涙声である。


「…でもなんで急にそんなことになったわけ?」


本当に全くもってその通りだ。

兄の科白にぴたりと涙(うそなき)を止めて顔を上げたところで、デキる給仕からさっと出されたクロスで涙の跡を拭く真似をしながら渋々父に視線を向ければ、

父はこちらを見て明らかに娘の涙にひるんだように顔を引きつらせている。けけけ。ざまあ!(悪)


「…まあ、流石に娘の縁談こんやくをあなたから聞く前に、社交界で話を聞いたりしたら問題ですからね」


と、母はよく磨かれた銀食器に顔を映しながら薔薇に喩えられる美しいかんばせを歪める。

お、おかあさま。 それ大きい肉切り分けるための本気の怖い奴だからそれ。ギラって光ったから!今!

本当に刺さるやつだからそれ。

とはいえ、第一王子との婚約をさらっと家庭の団欒(ごはんどき)にぶち込んできた父に家族からの視線は依然、鋭いままである。


ィイイヤァあああああ」

「む、娘よ!あ、会ったこともないのに不敬すぎるだろう!!」


手元のクロスを噛んで号泣の構え(本気で泣くぞ)を見せた娘に、父こそもうマジ泣き寸前である。


「あ~あ、勝手な事するから…。

 王子ヴィンには明日、学園で話を聞いてくるからさ、リカももう泣くなよ…」


今のこの混沌とした状況で、一番冷静なのは兄だろう。 関係ないって顔すんな!うあああん。

ぽんぽんと肩を叩かれ慰めるように言われて、私は兄にじっとりとした目を向ける。


「……きちんと聞いてこなかったら、にいさまをスケープゴーストにして逃げるから。

 私、本気だから」

「………了解しました。誠意をもって対処します。させていただきます」


私は一体いつから鬼軍曹(しきかん)になったのか。なんで引きつった顔で敬礼しようとするのさ、兄よ。


「で、結局なんで、リカが婚約する羽目になったんだよ?」


と、兄はさらっと話を戻した。

私もそこのところはきちんと聞いておきたいことなので涙を止めて、気を静めるために給仕に紅茶を頼むと、同時に出てくる。


あまりの速さに、すわ出涸でがらしか!?と、思いきや丁度いい温度で味わい深いうっとりするような舌触り。

口に入れただけでふわんとやさしい気持ちになるね(父以外には)

うちのできる給仕やるな!って言うか、にいさま、何気にひどい言い回ししてるな。


「そりゃヒンデバルド公が急に第二王子の後見するって言いやがるからさー」


やっと話を聞く姿勢になったからという安堵ことでか、父も紅茶をすすりながらそう言う。暢気のんきそうにしやがって…

ヒンデバルド公というのは、父の政敵てきというわけでもないが内政公爵(だいじん)の一翼を担っており国内の有力貴族である。

ちなみに言うと、うちはベーレンツ公爵家でこちらも内政公爵位を持っている。


「そりゃそうでしょ。

 ヒンデバルド公だって鬼じゃないんだから。

 確かヒンデバルド家の遠縁の娘が第二王子の母親だったんじゃないかしら?」


おっとりという母も実は公爵位を持っていて、うちは非常にややこしい。


父はベーレンツ家の三男坊で、嫡子あとつぎの母と子供のころから婚約をしていたので帝王学りょうちけいえいを二人で一緒に学び、母のところの内政《事務官》をするはずだったのだけど、何故か巡り巡って長男は戦死、次男は放蕩ほうとうが過ぎて勘当となり、帝王学を幼いころから学んでいた父に白羽の矢が立ち、急に嫡男あとつぎと祭り上げられたせいで相愛りょうおもいの母と別れることになったのだが、もちろん父はそれに激怒。母も激怒。


王へ公爵位を返還するかそれとも領地を併合かと、揉めに揉め、脅しに脅したところで一族が折れ、かくして年の半分しかそろわない両公爵という両親が爆誕したわけである。


ちなみに兄が継ぐ予定は、母のバルフェット。

私が継ぐ予定なのは父のベーレンツ家である。

その私が、第一王子と結婚したらいったいどうなるのかはして知るべしといったところだろうか。


王子妃、ひいては王妃が次期公爵(大臣)っていうのはどうにもこうにもおかしいだろ???

行って戻ってで一年の半年しか中央にいない王妃って大丈夫か?いや大丈夫じゃないだろ!


「まー、子供はもう一人くらい作ってもいいけどさー」

「種を植え付けるだけのあなたが何を言っているのかしら?」


のんびり言う父に母が額に青筋を立てている。 そうだよね、家族計画、転覆の危機だもんね。

母は骨があっての商売なのに、ポコポコ子供作ったりできないもんね!

ちなみに母の家は軍事公爵(将軍)位なので血の気が荒い。気が荒くもなるさ。うんうん。


「だって愛しい君の子供なら、何人でも欲しいんだから仕方がないだろう?」


さらっとその場の人間が砂糖を吐きそうな甘い科白を言い、父はにっこりと笑う。

はいはイケメン乙ですねー。 でも、そういう問題じゃないんだよ!父よ!


「…甘い言葉で適当なことを言うと刺すわよ」


傷一つない白魚のような指先でナイフを弄びながら母がにっこりと笑う。

お、おかあさま…家での刃傷沙汰ドメスティックなやつはちょっと…。

ちなみに母は将軍位を持っているのだが、外見みためだけは完全なる淑女。

社交界では華の一輪に数えられる存在である。

着ても脱いでもボンキュッボンの大変な美女なのだが、戦場ではバルフェットの悪魔と呼ばれているらしい。

な、謎だ……。 なにやってんだ…母よ。


兄は今年から通い始めた学園で軍事科に席を置いているので、母の武勇伝は誇張まちがいなく聞いているらしいのだかど、こればっかりは兄に何を聞いても、顔を青くするだけで口をしっかりと噤んでいる。

兄も私も両親からガチで鍛えられているので、たぶん近い将来その悪魔の異名も受け継ぐことになるのだろうね。ちょっと楽しみ☆


「今の会議が終わったあとなら、美しい君に刺されてもかまわないよ」

「あなたの家の問題じゃないのかしら…」


母は呆れたように指先で弄んでいたナイフをテーブルに置いてそう言うと、「それで何故、うちのリカが婚約することになったのかしら?」と今度は母が話の続きを促す。


「王命だよ。

 政治のバランスが崩れるから第一王子の後見として、うちの娘であるリカルダと婚約しろって事らしい。

 後見するにも建前ってのが必要だし、王子の婚約者として由緒正しいウチが面倒見ろってさ。

 そうなると面倒なことに、ヒンデバルド公も第二王子の婚約を娘とさせるとか言い出してさあ」


さらりと言った父の科白に、流石の母もぎょっとしたように背を預けていた椅子から身体を起こす。


「ヒンデバルド公の未婚のお嬢さんって14歳じゃなかったかしら?

 もうすぐ社交界デビューするって話題のご令嬢…」

「そうだよ。それに対して第二王子でんかは御年3歳。…めちゃくちゃな話だよね」


社交界に顔の利く母の科白に父も呆れたように肩を竦めると、ゆっくり紅茶を味わっている。 他人の話になるとよく喋るな。父よ。


「いっそ早く娘を結婚させて、子供を産ませた方がまだ生産的じゃないのかしら…?」

「14歳っていうのがネックだよね。

 婚約はできても、16歳になって学園を卒業してからじゃないと結婚できないからさ」


「ってなると、2年後。

 …いいえ、成人は18歳だから産めて最低でも5年後…だけれど、そのころ王子はまだ8歳…。

 結婚するってなるなら更に10年だから、18歳の王子に29歳の妃。

 もしくは、26歳の王子に18歳の妃。

 血も近い上に、どちらにせよ…犯罪的だ(許しがたい)わ。

 たとえ次に期待をって言った所で、丁度よくそんなタイミングで子供ができるとは限らないし、

 子供が生まれなければお嬢さんは、ただ苦しい思いをするだけでしょうしね…。

 それに対してウチは5年後なら、第一王子は16歳でリカは15歳。

 その3年後に結婚したとしても19歳と18歳ね。 ……ええ、確かに微妙な話ね…」


政治おしごとの話をし始めると、両親が二人とも饒舌になり公爵の顔つきになる。 数字のマジックのような話にこっちは途中からチンプンカンプンになってきたよー。おーい。


「えー…イヤだよ。そんなめんどくさい話に巻き込まれるの」


王命とは言えそんな面倒な話(厄介ごと)に付き合わされたくないと唇を尖らせ、絶対に巻き込まれるだろう(巻き込むよ!)兄も隣でうんうんと頷いている。

が、王命だしなあ。と父が困ったように眉を下げ、母も流石に肩を竦めるだけで、それ以上は何も言えない様子である。


「ヒンデバルド公が話を取り下げてくれるのが一番いいんだけどねえ。

 うちは姫を下賜され(もらっ)たことはあっても、妃を送ったことはないし王家の血は果てしなく薄いからさ。

 そもそも三男坊《末っ子》が継ぐような家だし」


どちらにせよ、婚約ないし結婚ないしは避けられない事らしい。

がっくりする子供二人に、人でなし感を溢れる笑みを見せて、父はごめんね?と反省のまったくない顔でそそのかす。

あー、これはぜんっぜん反省する気がなさそう。反省って何?って顔してやがる…。父めェ…。


「でも、当事者(ほんにんどうし)がどうしても嫌って言えば立ち消えるんじゃないかな?どう思う?リュミリア」

「ええ。

 まあ…そう、そうね。

 婚約までは親の勝手が効いても、結婚するってなれば当人の感情までは無視しないとは思うわ。ジーク」


最終的に感情論というのは政治家としては気に入らないようではあるが、自分たちが行ったことを思い出したのか呼びかけられた母は小さく笑うと、呼び慣れた愛称で父を呼ぶ。

幼馴染であり、友人であり、戦友であり、恋人でもあった二人は国を傾ける勢いで結婚にぎつけた経緯があり、その制裁にも近いのだろう。


主に国にこの優秀な両公爵を縛り付けるという意味合いで、だ。


国内の南に肥沃ひよくで広大な領地を持ち内政に優れたベーレンツ家と、北の僻地ではあるけど名馬の産地であり今までに優れた騎士を多く輩出し他国との国境線を守るバルフェット家。

その二家の婚約というだけでも大変に揉めた上に、嫡男の不幸な退出劇(戦死)が重なった為に両公爵という不可思議なことになってしまった両親おやを持つと大変だ。


ちなみにこの話は大衆に大いに歓迎され、両家に少なくない血が流れた事実は、美しい恋の物語に。

そこで起こった悲劇をスパイスとして、大団円となり。


と、完全に事実とは異なる美化された物語として出版され、今でも劇で上演されれば満員御礼とのことだし、二人の麗しい絵姿は飛ぶように売れて、物語を歪めた当事者たちが揃って往来を歩いたりすれば平民貴族に関わらず黄色い声が飛び握手やサインを求められるらしい。

ちなみにそのおかげで父の懐はいつでもほっかほかだ。この腹黒め!印税よこせ!


逆に、二人を引き裂こうとした当時の王や諸侯(貴族たち)はずいぶんと評価を落としたというから筋金入りだ。


当時王子であった現在の王への交代劇《譲位》や、諸侯たちへの降格や失脚など様々なことを巻き起こしたけど、結局のところ継いだ二人を国外へと亡命させるにはあまりにも惜しい人材であったこと。

何よりも大衆からの支持が高すぎて、爵位を落とすこともできなかった。

と、いう背景があるせいで有名すぎる親の、そのまたミニチュア版である(そっくりらしい)私と兄は滅多に外に出ることを許されずに(特に私は、ほぼ強制的に引き籠ら(軟禁)させられている)のほほんと広い屋敷の中で暮らしているのだけれど。 家、好きだからいいけど!いいけどね!


なんとも、大変派手な親を持つのも迷惑な話である。 ほんとにね。

2016/10/13 改稿。前話と同じように慣れてない感が(笑)つ、つらい。

      多少でも読みやすくなったならいいのですが。余計読みづらいかも?(笑)


2016/10/14 改題しました。

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