狂人日記
12
村が濃霧に包み込まれると、最後の夜がやってきた。
言い伝えによれば、村人の数が化物の数と同数、もしくは少なくなれば人間は化物をもう処刑する事ができなくなり村は破滅すると残っている。従って、今宵がこの化物探し最後の夜になる。
昼間、処刑した右京が人間で化物が他にいるならば今宵、誰かが襲撃され、ジ・エンドとなる……。右京が化物のであれば、残り生存者三人が明日広場で落ち合う事ができ、全ての化物を処刑できた事となる。
初日に霊媒師を失った以上、誰が化物だったのかという内訳は分からない。処刑した村人の誰が化物で、誰が人間だったのか――正確な内訳を知れることはない。
正確な打ち明けを知っている者は――化物だけだ。
そして、最後の夜は明け――運命の朝がきた。
話し合いの広場に集まったのは、左京と八神の二人だけであった――緑川の姿はどこにもない……。それは村の破滅を意味していた。
13
左京は自分の目の前にいる八神に掛けるべき言葉が分からなかった。聞きたい事は山ほどある筈なのに、言葉が出てこない。
今までの自分自身が下した選択の過ちを認めるのが怖かった。でも、覚悟を決めて認めるしかない……。左京は、もう次にどう行動していいのか、どう動けばいいのか、これからどうすればいいのか、自分は、村は、この後どうなるのか――思考を巡らせたくとも、こいつを目の前に体が硬直してしまう。
右京が化物といった八神……こいつが―本当に化物だったのだ。
暫く硬直しながら立ち尽くし、頭の中が真っ白になっている左京の頭の中に、処刑した右京の事が浮かび上がった。
ああ、こんな時……右京ならどうするのだろうか? そう思いながら左京は右京の事を考えた――。
右京はゲームを作るのが好きだった。ルールが複雑なゲームを作るのが好きだったが……ただ、右京自身が複雑なルールにしすぎたがゆえに、ルールが分からなくなり、ゲームが崩壊してしまう事がたたあった。
一緒に既存のゲームをプレイする時、右京はルールを追加たり、縛り内容設けたり、と、元々あったルールを壊し、右京流のルールに変えてプレイする事が多かった。
なぜ、今こんな思い出が左京の頭の中に浮かんだのか、左京は不思議に思った……。「ルールを壊す」右京……――その時、左京の頭の中に電流が走る様な感覚が襲った。予感がしたのである。その予感が痛烈に脳へと走ったのであった。
それは双子ならではの直感でもあった――。
「右京! お前……まさか、いるのか? 生きているのか……」
今回の化物探しにおいて、言伝えという絶対的なルールがあるけれども――ルールに縛られず、破壊する右京なら、処刑を切り抜けているかもしれない、と左京は予感した。
「これは右京流に変えられたゲームなのか? だけどお前は処刑された……もう、お前ですらルールが分からなくなって崩壊していないか? 右京! 教えてくれ、僕はどうすればいい――」
そう言う左京は涙を零し項垂れてしゃがんだ。すると、後方から足音が聞こえた――誰か来ている。
「抗うな、存在を受け止めろ――怖いものなんてないぞ、左京。僕はルールをかなり変えたが、分からなくなってはいない。君達村人側の予想通り僕は化物側についた! そして化物とも交渉してある――勝たせてやるから、僕達兄弟は殺すなとね! そして……僕に左京が負ける顔を見せてくれとね」
背後から右京が現れ、左京にそう言うと――左京の髪を鷲掴みし、右京は左京の顔を覗いた。
「ハッハハハハハ! いい顔だぁ……」
その時、左京の目に映った右京の顔は、瞳孔が完全に開ききった丸々とした瞳をしていて、とても不気味だった。
「う……右京……あー……ぐああ……――」
右京は左京に何か薬を嗅がせ、掴んだ髪を放し、地面へ叩きつけた。
左京は気絶し、意識を完全に失った。そして、右京は気絶した左京を担ぎ、八神に対し、二コッと、笑いながら会釈をした。
「それでは八神さん。私達兄弟はこれで失礼致します。お互いWIN-WINな関係を築けて良かったです。この村のゲームも楽しめました。では、僕は――また左京の頭の中を弄り、記憶を消して……次の村へと連れて行きます。あなたは村を破滅させて下さいね。他の村で遭いましたら宜しくお願いします」
そう右京は八神言って村の出口の方を向いた。村を右京が出る前に八神は右京に尋ねた。
「人間、お前はいったい……この村で何件目なのだ?」
それに対して右京は、少し考えた様な素振りを見せてから答えた。
「ん~、ごめん、分からない」
左京を抱えた右京は村の出口へと歩き出し、村を後にした。それを犬神村の化物が見送った。
村を後にした双子の預言者の行方を知る者は――誰もいない。
了
ボードゲームで有名な人狼ゲームを元にした短編小説でした。
読んで頂きありがとうございました。