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「犬神村の狂人日記」  作者: 中目ばんび
4/5

人外の身内切り

 10



 狩人を失った今、是非とも化物を見つけて、今日の話し合いで全てを終わらせたいと、村人全員が思っている――その為、左京の預言の結果にかなり注目が集まったが、左京は化物を見つけられずにいた。


「ごめん、僕が預言したのは山田さんだ。結果は村人だった……。もうこれ以上犠牲者を出したくない、僕と右京は村の部外者だから右京は狂人なだけで、化物ではないと思う。八神さん、緑川さん、西山さん、残りの村人の中に化物がいると思っています」


 それを聞いた右京は笑いながら左京に絡んだ。

「だ・か・ら! 八神が化物だって! ハッハハハハ! ちなみに今日僕が預言したのは緑川さんだ、結果は村人だったよ。俺がイカレてるって言うんだろうお前ら……なら緑川を処刑するか? ああ? ハッハハハ!」


 村の中に右京の狂った笑い声が響きわたった。


 結局、右京以外の村人の民意は預言者である左京に公平に処刑先を指定して貰うことだった。

「駄目だよ……僕はこの村に来てまだ一度も化物を預言できていない……この大事な今日……とてもじゃないけど、僕には荷が重過ぎて一人では決められない……とても、とても……苦しくて……無理だ! 多数決にしてくれ、化物の数も今なら居ないはずだ、票は合わせられない、必ず散らばる」


 左京のその情けない発言によって結局、多数決で処刑先を決める事になり――二愛兄弟のどちらにも占われてない西山が三票を集め、処刑先に選ばれた。


「死ねなあああああいいぃぃ! 僕は死ねなあああいいぃぃ! ただの村人なんだ、殺さないでくれ……頼むよ……助けて――」


 代わりに殺されてくれる奴なんている筈がない、西山もそれは十分に分かっている。だけれども、叫ばずには――足掻かずにはいられなかった。


 どこからともなく右京が日本刀を持ってきて、西山の首を見事な刀捌きで、一太刀で切り落とし――処刑を遂行した。

 話し合いが血に染まって終わり、解散になると、皆疲れきった足取りで、家に向かった。誰が襲撃されるか分からない今宵の事を考えると、怖くてしょうがなかった。願わくは――襲撃が起きず、この地獄の日々がこれで終わりを迎えて欲しい。西山が化物で、化物達が全滅してくれていればと、村人の誰もが思った。だけど、現実は――。


 誰も救われず、誰も報われない、断末魔に慣れきってしまった村人達の地獄の日々は、まだ終わらない――。




11



 夜が明け、新しい朝が来た。この朝が希望の朝でならば、昨夜襲撃が起こらず、生存している村人全員がこの広場に集まって居る。西山が最後の化物で、化物達は全滅している事をそれは意味する――だが、そんな希望の朝は来なかった。



 話し合いの為、皆が広場に集まると……そこには、昨日左京に村人だと預言された山田の死体があった――山田は首から下をバラバラにされ、死んだ。


「まだ……終わらないのか」

 左京はそう頭を抱えながら呟き、辺りを見渡した。

 残りの生存者は四名――

 二愛左京。

 二愛右京。

 八神。

 緑川。

この中に、必ずまだ化物がいる。


 話し合いの口火を切ったのは左京であった。

「今日の預言先は、昨日右京が村人だと預言した緑川さんを預言しました。結果は……本当に村人でした。その為、まさかとは思いましたが、裏切り者の右京が化物だと預言した八神さん……あなたが化物ではないかと私は思います……」


「おいおいおい、左京君……私を化物扱いしないでくれ! 緑川の村人確定が決まった今、もう化物は右京で決まりだろう。実の兄弟だからって特別扱いするな、右京はとっくに化物になっていたんだ」


 左京に化物だと疑われた八神は透かさず反論し、右京を化物だと述べた。そして、緑川もそれに同意した。

「俺はやがみんの意見に同意だ。右京がこの中で一番怪しい……寧ろ昨日吊るべきだったんだ。言い伝えに預言者からは化物はでないなんて一言も残っていないし」

 それを聞いて右京も声を荒げた。


「だから! 八神が化物なんだって! 俺は部外者だし、今日で会議は終わりだ、ミスできない以上僕は八神を処刑するべきだと思うぜ! なあ、左京! 八神を殺そう! ちなみに僕は左京を預言した。お前は化物じゃなかった……ただのサイコ野郎だが、許してやるよ」



 滅茶苦茶な事をいう右京に対し、左京は決断をした。家族を切る決断を――。



「右京……もうお前の負けだ。お前の言っている事は矛盾だらけだ。聖河さんを化物だとお前は言った。だけど、彼は化物に襲われて死んだ……お前は――ここで死ぬべきだ。右京……お前は化物だ」


 村の民意は右京の処刑で揃った。家族である左京が下したその決断に対し――右京は狂気の笑みを浮かべ、覚悟を決めた。


「フフフ……へぇ~そうかい……実の兄弟にまで見放されたら、もう詰みだなぁ……あ~あ、楽しかったなぁ……。左京、僕はこんなこともあろうと、自殺用の毒を持ってきている……。これで死なせてくれ」

「ああ、いいぞ。皆もいいかい?」

 右京が薬で自殺する許可を左京が皆に確認すると、皆は静かに頷いた。


 実にあっさり、右京が自害するのだなぁと、皆思ったが、今さらそれを言ってまた化物探しをする気力は誰にも残っていなかった。


 右京は薬を一気に飲み干した。すると、もがき苦しみ、倒れ、やがて動かなくなった。

 村の医者でもある八神が右京の生死を確認した。


「右京は……死んでいます。死体は私が処理致します。これで、今日は解散ですね。明日の朝、平和になった村で皆さん会いましょう、それでは……私はこれで、失礼します」

 八神はそう言うと、右京の死体を抱えて家へと帰っていった。


 残された緑川と左京は、何も話すことなく彼等も家に戻った。


 実の兄弟を処刑してまった左京であったが、この選択に対して後悔はしていなかった。右京はイカれていた――村を惑わせた張本人であり、死ぬべきだと左京は思っていた。


 だけど、何故だか……胸が苦しく……後悔は勿論していないが、とても……無念に感じた――。



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