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「犬神村の狂人日記」  作者: 中目ばんび
3/5

狩人の見つめる先

 08



 恐ろしい夜が明け、今日も朝がやってきた。今日も話し合いが広場にて、化物探しがスタートした。


「昨夜、犠牲者はいない! この俺が狩人だ、ここにカミングアウトをする! 昨日左京を護衛に行き、化物を追い払った! 化物は残り二匹生存している! 他に狩人を名乗る者はいるか?」


 聖河が皆に対し、そうカミングアウトをし、狩人を名乗る者がいるかを聞いたが――誰も名乗り出なかった。


 村人達は直ぐに聖河の男気に気づいた――聖河は本物の狩人で、左京の預言は正しいが、右京は嘘をついている。それを聖河は朝一番に村人全員の前で証明した。


 そして、この証明をすることで今宵――確実に狩人である聖河は化物達に殺される。


 左京は大きな成果を出し、狼を追い詰め始めたが、この成果を皆の前で発表する為に――聖河という狩人を村側は失うことになる。


「いいんだ、俺は今宵確実に殺される……。だけど、小百合ちゃんが守ろうとしたこの村が救われるなら俺は満足だ――後は任せるぞ、左京」


「おう……ありがとう。後は任せろ」


 聖河の決死の覚悟のカミングアウトの男気を、左京は噛みしめるように受け取り、頷いた。


 聖河のカミングアウトにより、ピンチに陥っている右京は堪らず反論をした。

「なぜ、本物の狩人がでないんだ! おい、怖気づいたか狩人! 聖河は化物だ、そして僕は今日も預言で新たな化物を見つけた! 八神! お前は化物だ! 化物は聖河と八神だ! それに左京も化物かもしれない! まぁ、ただのイカレたサイコ野郎だとは思うけどな!」


 そう村人に必死で言い聞かす右京であったが、声はもう誰にも届いていない。

「右京……もうやめろ。たくさんだ、お前の戯言は聞き飽きた。もう預言もしなくていい、誰もお前を信じない」

 左京が哀れなモノを見る様な目で右京を見つめ、そう言った。


 ここまで村一番の寡黙男で、今日右京の預言によって化物のレッテルを貼られた八神も、怒り口調で右京を罵った。

「こいつはイカレてる。ただの人殺しだ。私を化物だと言うなんて……これは逆に有り難いね、化物側についたこいつに化物扱いされればそれはもう殆ど人間だと言ってくれている様なものだ。聖河の村を救う為にした覚悟を私は汲んでやりたい。彼に今日、処刑する人物を選んで貰うべきだ。皆どうだろうか?」

 八神が皆に同意を求めると、右京以外の村人達はその意見を納得した。


「八神ぃぃぃぃ! ふざけるな! お前と聖河が化物なんだよ!」

 そう言いながら八神に右京が喰ってかかろうとした。だが、それは聖河に直ぐに止められた。


「やめろ、右京! お前はもう黙っていろ! 八神は恐らく人間だ! そして、人間じゃないのは恐らく――御神! 貴様だ! 俺は今日……御神を処刑先に指定する」

 御神――右京が村人だと預言した人物。


 御神は意表を突かれた様な顔をし、慌てて反論した。

「な、なんで俺なんだ? 勘弁してくれを聖河! 今どうみても右京を処刑する流れだっただろうがっ! 空気読めよ!」


「いや、御神……悪いがまずはお前からだ。お前が化物の可能性は極めて高い。なぜなら化物側は最初の預言でもう、右京が化物の味方についている事を知っていた。だから票をコントロールできたし、襲撃先も左京よりの人間に徹底できた。それは右京が裏切っている事を知っていたからだ!」


「そ、それと俺となんの関係があるって言うんだよ!」

 後退する御神に聖河は鋭い眼光を向けて言った。


「それはお前が化物だからだ。化物のお前を右京は村人だと言った。それで右京が化物側につくクソ野郎だと化物達は把握したんだ! だから御神……俺はお前を処刑する」

 そう言うと、聖河は弓と矢を取り出し、御神を狙った。



「や、やめろおおおおおお!」



 叫ぶ御神に対し、弓矢が放たれ――御神の脳天を貫いた。



「あ……ああ……あ……ああ」

 脳を貫かれた御神はゆっくりと、沈んでいった。


 こうして、本日の話し合いは御神の処刑をもって終了し、解散となった。

 返り血を浴びた聖河の後ろ姿は村を救う英雄には見えず――とても悲しげだった。



 09



 体が動かない――夜になり、食事を済ませ、ベッドで横たわった聖河は突然、体が全く動かなくなった。

「ちくしょう……さっき食べたスープに毒でも盛られていたのか……体が痺れて動けねぇ」

 聖河が全く動けなくなったその時――静かに化物が家の中に入ってきた。


 全身を麻痺した聖河はもう喋る事もままならない状態にまで毒がまわっていた。

 化物が鋭い爪で器用に、坊主頭の聖河の頭を、魚肉ソーセージのビニールを剥がす様に綺麗に開き、聖河の薄ピンク色の脳を露わにし、雑菌だらけの鋭い爪で弄くり、弄びだした。


「あ……あああ……ああ……あああ」

 聖河は痺れの影響でまともに声も出ず、少しずつ脳を削られながら、そう声を漏らした。


「ああああ……あっ! ああ……ああっ」

 聖河の頭の中はやがて真っ白になった。最後に彼が思った事はここにきている化物は一匹なので――御神は化物だったという事になる。それが彼は誇らしく、堂々とあの世で小百合に会えると考え、安心し、朽ち果てた。


 化物は脳を貫かれた御神の恨みを果たす様に散々時間をかけて聖河脳を壊すと、足早に家を出て、闇に溶け込んだ――。



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