勇者を探す
ルーが以外に使える事が判明した。破壊神である私やモフモフ魔王が、そのまま外を歩いたら大騒ぎになるのでと、透明になる魔法を使ったのだ!私は攻撃系ならなんでも使えるのだが、他のはサッパリなので助かった。
何故か、モフモフが「風呂を覗いてたのはお前か!」とルーに噛み付いていた。
「ところで、バロス様ー。何処に向かっているんですか?何も教えられずに歩かされるのは嫌なんですけどー。」
モフモフに噛み付かれたままのルーが、不満ありげに言ってくる。
しょうがない。教えてやろうではないか!
「勇者を探すのだろう?なら、一番モンスターが弱い所へ行くのが良い!そこで待っていれば勇者がその辺のモンスターと共に現れるだろう?」
モフモフ魔王とルーが可哀想な子を見る様な目で見てくる。
「な、なんだ!何故そんな目で見る!」
私がおかしな事を言ったみたいではないか!
一人と一匹は目を合わせ、何かを押し付けあっている様にも見える。モフモフが負けたようで口を開く。
「あのさ、言いにくいんだけどさ、それデマなんだけど…」
な、なんだと…!?
デマ?偽情報だというのか!?
「ブフっ……魔王様! ここが、目的地みたいですよ。この辺はザコいスライムしかいないですね☆そう!ここには勇者は居ないのです!無駄足ですね!それしてもこの破壊神、役に立ちませんね!」
「ちょっと!ルー!言ってもいい事と悪い事があるでしょ!」
………無駄足? そうか無駄足か。
先に行き先を言っておけば、こうはならなかったと言いたいのだろう。そこに勇者はモンスターみたいに現れませんと教えてくれていたかもしれないが……。それは私のプライドが許さない。あとルーは殺す。
笑いを堪えながらモフモフと話すルーを目掛け、無詠唱でファイアーボールを発射した!
「わっ!バロス様、ちょっと馬鹿にしただけじゃないですかー。うおっ!やめてください(笑)」
不意打ちで放った筈だが、さらりと避ける。
それが更にイライラさせる!
「ええい!避けるな、当たれ!ルー・リコスルプス!ストレス発散させろ!」
何度も発射しているのだが、すべてルーは避ける。ルーに当たらなかったファイアーボールは、近くにいたスライムに当たる。
放つ、避ける、当たるを繰り返すうちに、この辺りのスライムが居なくなった。
私のイライラも少しはマシになった。
「はー、はぁ、はぁ、すーはー、ふぅ。あ、あたしを置いて行くとかやめてよ!あたしが犬だって事忘れてない!?歩く速さが違うでしょ!抱えてくれてもいいじゃない!」
「すまん、モフモフ。ルー(を攻撃するの)に夢中だったのだ。」
「あたしの名前はシヤンだ!あと、言葉は正確に言った方がいいわよ!ルーもあたしに謝りなさいよ!」
「もーしわけありませーん。すぅっっっかりと忘れていました☆」
最上級の笑顔で言いやがった。仮にも従者なのだろう?良いのかこれは?あぁ、やはり悪いのか!言い合いを始めている!
はっ!! 私達以外の足音がこっちへ向かって来る!一人と一匹が言い合っている所為で、聞こえにくいが確かに聞こえた。
まさか、姿を消しているのに気がついたのか?もしくは、スライムがいきなり居なくなったのを調べに来たのか?
どちらにしても、こいつらにも話しておくか。先程みたいにはなりたく無い。
「おい、モフモフ!ルー!誰かが来るぞ。」
「あたしの名前はシヤンだって言ってるでしょ!透明だから気づかれないと思うけど、一応用心しとくわよ!」
「そうですね。気づく方は気づきますしね。……バロス様、えらいえらい!学習したんですね!」
言葉が多いぞルー、またさっきのを繰り返させる気か。やらないが。……やったとしても、モフモフはきちんと抱えてやるつもりだ。
足音をさせてきたのは、一人の男だった。服装を見るに騎士なのだろう。モンスターを捕らえる水晶を持っているのが見える。スライムを捕まえに来たのだろうか?ルーもそれに気がついたようだ。モフモフはまだ、何故こんな所に来たの状態である。
私がスライムを狩り尽くした所為か、ここにはスライムがいない。男はこの辺りでの探索を諦めたのか、眉間にシワを寄せ、移動して行った。私達には気づかずに。
「ふぅ。危なかったですね。」
ルーが額を拭いながら非常に安心したという顔をして言った。
「なに言ってるのよ?あいつ、あたし達に気づかなかったじゃない!」
私もモフモフに同意する。何が不安だったのだろうか?こいつなら大抵の事は、涼しい顔してこなしそうだが。
「あいつの顔、見なかったんですかっ!?高ランクのイケメンでしたよっ!超絶☆イケメンは俺だけで十分なんですっ!」
なんだそんなことか。気にして損した。
「それに、今の魔王様はモンスターに分類されると思うので、捕えられてしまうと厄介だなと、ソワソ…ハラハラしておりました。」
おい!そっちを先に言うべきだろう!
何かあったらどうするつもりだったのだ!
ソワソワしていたということは、捕まって欲しかったとでも言うのだろうか?主人なのにか?私にはこいつがわからん!
「あたしが捕まってたらどうするつもりだったのよ!」
「決まってるじゃないですか!俺が魔王を名乗り、世界征服しか無いでしょう!?」
「あたしを助けるってのがあるじゃない!」
「そ、それは、盲点でした!」
……だいぶ最初の目的からズレているな、元に戻すとするか。
「いい加減にしておけ。そろそろ、勇者探しに戻るぞ!」
「そ、そうね!」
おい、モフモフ。忘れてただろう!
勇者を早く見つけ出し、モフモフの真の姿を見てやるぞ!
「あぁ! 殺る気になってる所で悪いんですが、この世界に勇者はいないことを思い出しました!」
は?どういうことだ?
私はモフモフの方を見た。
「え? 犯人、勇者じゃ無いの?」
おい!お前、魔王だろう!何でも勇者の所為にすればいいとでも思っていたのか!
「はい、勇者ではありません!呼ばれていませんから。魔王様の早とちりでしたね! というわけで城に戻りましょう!ブフっ……テ、テレポート!」
歩いて来た意味がなくなった!
テレポートが出来るのなら最初に言え!
完全に無駄足じゃないか!