第5話:涙
短い命に涙がでそうだった。
1ヶ月…その単語一つが…佳奈の命。
「佳奈は昔から重い心臓病でね…昨日…状態が急変して……ドナーがいれば助かるんだが…見つからないんだ…。」
「なんでですか??なんで佳奈を助ける人間がいないんですか?」
わかりきっている…そんな理由は…。
「この世界には…佳奈のようにドナーがいなければ助からない人間がたくさんいるんだょ……。その数にドナーはついていけない。」
佳奈が心配になってきた。
痛さで泣いているかもしれない。
「佳奈には…知らせたんですか??」
「ああ…さっきな…。」
佳奈は自分の命の残りに泣いているかもしれない。
俺は一歩踏み出して、重い病室のドアを開いた。
佳奈はいつものように笑っていた。
目が真っ赤なのに気付いた。
「聡ぃ!会いたかったぁ!!病院ってつまんないんだも〜ん。」
その元気なフリが…俺にとって苦しかった。
「1ヶ月だろ??」
俺は佳奈の命を言った。
「聡…蝉ってね1週間の命なんだよ。その間に人間に捕まっちゃうかもしれない。車にぶつかって死んじゃうかもしれない…。1日だけの寿命の虫だっている。人間はその何倍も生きれるのにね。私の残りは1ヶ月…聡…それは誰にだってくる時間なんだよ??だからね…泣かないで。」
俺は泣いてる事に気付いた。
「悪い…明日またくるな…。」
そう言って俺は佳奈に背を向けた。
佳奈を見ないように。
泣いている佳奈を見ないように。




