第10話:乾かない足下
結婚してからもう5日たつ。
佳奈の時間はもう明日とあさって…。
佳奈はもう限界だった。
本当に起きる事もできない。
声も…耳を凝らさなければよく聞こえない。
その日は佳奈と1日中一緒に過ごした。
会話もせずずっと側にいた。
佳奈は一人で近付いてくる死をただ呆然と待っていた。
俺も話し掛ける勇気などなかった。
佳奈の左手の薬指にある指輪が、太陽の日にあたり輝いていた。
「さ…と……し…。」
佳奈が小さな声で話しかける。
俺は急いで佳奈の口元に耳を寄せた。
「なんだ?佳奈??」
「わ…たし…たち…であっ…て……よか…った??」
佳奈がいつも途中でとめていた言葉…。
「あたり前だ…。何言ってんだよ??」
「だっ…て……わた…した…ち……であ…わなかっ…た…ら…さと…し……そ…んな……かな…し…い…かお…しな…かっ…た。」
俺は何も言えなかった。
「ご…めん…ね……ごめ……ん…ね…だ…から…」
佳奈は泣きながら苦しそうに言う…。
「わ…たし…のこ…と……わ…すれて…ね…。」
佳奈はそう言った後…声にならない叫びをあげながら泣いた。
俺は佳奈に何も言えずに…病室からでていく事しかできなかった。
俺の俯く床は乾く事などない。




