第9話:二人の至福
明日の夜はすぐにおとずれた。
俺は約束の時間に着くように、早めに家をでた。
病院に忍びこむ事は簡単だった。
それでも警戒しながら佳奈の病室へ向かう。
真っ暗な病院は少し不気味だった。
「さ…とし?」
前を目を凝らして見ると、佳奈が手摺にたよって歩いていた。
俺は声が出そうになったのを必死で戻し、佳奈の元に走った。
「大丈夫か?なんで待ってなかったんだよ??」
小声で佳奈に言った。
「ま…ちきれなく…て。早く行こう…。」
俺は肩に掛けていた鞄を首に吊し、佳奈を背中に乗せた。
佳奈の苦しそうな息切れが俺を急がせた。
病院を出て右に曲がり、少し進むと簡単に教会はあった。
この教会は今は使われておらず、いつも空いている。
しかし、いつもここを掃除しにくる変わった人がいるらしく、教会は古びた所が見あたらなかった。
佳奈をズラリとならぶ椅子の一つに降ろし、鞄を床に置いた。
「佳奈…ドレスは手に入れれなくて…。」
そういって俺は鞄の中から真っ白なワンピースを取り出した。
「ううん…。綺麗…。聡…ありがとう。」
そう言って受け取ると佳奈は早速着替え始めた。
もちろん俺は後ろを向いていた。
ポケットに小さな箱を忍ばせて…。
「聡…いいよ。」
振り返ると…白い肌に真っ白なワンピースを来た佳奈が優しく微笑んでいた。
「佳奈…綺麗だよ。」
そういうと佳奈は恥ずかしそうに笑う。
「始め…よ??」
そう言って佳奈は俺の腕に手をまわしてきた。
俺はそのままエスコートして、佳奈と一緒にバージンロードを歩いた。
そして聖母マリアの描かれたガラスの前で立ち止まる。
お互いに向き合い俺はポケットから小箱を取り出す。
「綺麗…。」
ダイヤモンドでもサファイアでもない。ただの銀色のリング。
それは佳奈の一言でどんな物より美しい宝石へと変わる。
「聡…好きだよ…。」
そう言って佳奈は目を閉じた。
そんな佳奈の肩を両手で持ち、俺たちは初めてキスをした。
佳奈の震える唇を塞ぐように…。
長い長いキスだった。
唇を離すと佳奈は下を向き呼吸を整えた。
そしてもう一度…恋しそうにしていた唇が重なる。
今度は…佳奈の方から。
「聡…私幸せだよ…。」
佳奈がそう言ったような気がした。
時刻は既に12時をまわっていた。
佳奈の時間はまた少なくなっていく。
後一週間。
佳奈の命は時間に忠実だった。




