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8話 プリンセス・ティアラ

第8話


翌朝。


宿の部屋で目を覚ますと、頭の中にアテナ様の声が響いた。


『おはよ〜ニケちゃん♪』


(おはようございます...朝から何ですか)


『次の行き先、決まった?』


(まだです)


『じゃあ決めてあげる♪ ドルチェの町に行きなさい!』


(ドルチェ...?)


聞いたことがあるような、ないような。過去の記録にあった気もするけど、思い出せない。


(なんでドルチェなんですか?)


『理由知りたい?』


(来た...)


いつものパターンだ。ここで「信仰度10消費ね♪」が来る。


『今日は特別に無料で教えてあげる♪』


(...は?)


『信仰度が稼ぎやすいから♪』


無料?この人が?


(本当ですか?)


『本当本当♪ あそこの絶品スイーツが...じゃなくて、とにかく行ってみて!』


(...今、スイーツって言いました?)


『言ってないわよ? 別に深い意味はないの!ないったらないの!』


怪しい。明らかに怪しい。


(逆に怖いんですけど。無料って)


『ひどーい♪ バジリスク戦で頑張ってたから優しくしてあげてるのに〜』


(絶対裏がある...)


でも、他に当てもない。


(...分かりました)


『やった〜♪ じゃあ気をつけてね〜♪』


通信が切れた。


...やっぱり怪しい。


いつもなら「理由気になる?なら信仰度10消費ね〜♡」ってぼったくってくるのに、今回は無料。


絶対なんか企んでる。



朝食を済ませ、三人で町を出た。


「ドルチェ?」


セレスティアが首を傾げた。


「あー...聞いたことあるわね。スイーツで有名なとこでしょ」


「私も聞いたことあるわ♡ スイーツで有名な町よね」


リリアーナが微笑んだ。


「スイーツ...?」


二人とも知ってるのか。私だけ知らなかった。


「行きたかったところなの♡ 楽しみね」


リリアーナが嬉しそうに言う。


「私も甘いものは嫌いじゃないわ」


セレスティアも乗り気だ。


「あら、セレスティアも甘いもの好きなの?♡」


「べ、別に好きってわけじゃ...嫌いじゃないだけよ」


「ふふ、素直じゃないわね♡」


「うるさいわね!」


...まあ、二人が喜んでるならいいか。


「でも、なんでドルチェなの?」


セレスティアが聞いてきた。


「アテナ様の...じゃなくて、えっと...宿屋の店主におすすめされたの」


「ふーん」


セレスティアが目を細めた。


「あんた、時々変なこと言うわよね」


「気のせいだよ」


「絶対気のせいじゃないわよ」


(バレそう...)



街道を歩いて数時間。


「ねえ、まだ着かないの?」


セレスティアが不満そうに言った。


「半日くらいって聞いてる」


「暑いんだけど」


「我慢して」


「喉乾いた」


「さっき水飲んだでしょ」


「足痛い」


「...セレスティア、100年引きこもってたから体力ないの?」


「うっ...」


「図星ね♡」


リリアーナがクスクス笑う。


「う、うるさいわね!引きこもりじゃなくて研究に没頭してただけよ!」


「100年も?」


「100年も!」


「ふふ、すごい集中力ね♡」


「褒めてないでしょそれ!」


森の中の道に差し掛かった時だった。


茂みが揺れた。


「来る」


私は構えた。


茂みから飛び出してきたのは、大きな狼だった。牙を剥き、こちらに向かってくる。


「私がやる——」


「待ちなさい!!」


生意気そうな声が響いた。


横から何かが飛び出してきた。


ピンク色の髪。ツインテール。小柄な少女。


少女は狼の前に立ち、剣を構えた。


「この私が相手よ!」


一閃。


狼は一撃で倒れた。


...強い。でも、私達でも倒せた。というか、倒そうとしてたんだけど。


少女が振り返った。


パンパン、と手を叩く。


どこからともなく黒いスーツにサングラスの男が二人現れ、少女を担ぎ上げた。


「危なかったわね。この私、Aランク冒険者プリンセス・ティアラ様が来たからには、もう安心よ!」


セレスティア「...っ」


リリアーナ「セレスティア、口元震えてるわよ♡」


セレスティア「いや、別に——」


口元を手で押さえた。肩が小刻みに震えている。


「——笑ってないわよ」


リリアーナ「プリンセス・ティアラちゃんに悪いわよ♡」


セレスティア「ぷっ...あはは!」


ティアラ「何よ!そこのエルフ!馬鹿にしてるの!?」


「セレスティア、失礼でしょ」


「だって...ぷっ...プリンセスって」


「ごめんねプリンセスちゃん。私は女の子らしくて可愛い名前だと思うよ」


ティアラが目を見開いた。


「...!あ、あなただけは見込みがありそうね。名前だけ聞いといてあげるわ」


「私はニケ。こっちがセレスティアと、リリアーナ」


「ニケね。覚えておいてあげるわ」


「で、あなたはどこに向かってるの?」


「私はこの先のココナ町に用があるの」


「ココナ町?」


「バジリスクの特殊個体がいるらしいのよ。王都から討伐依頼が来てね」


ティアラが胸を張った。


「Sランク相当の魔物よ。お子様には荷が重いわ」


「私たちが——」


「はいはい、『私たちでも倒せる』とか言いたいんでしょ?」


ティアラが手をひらひらさせた。


(...この人、自分で言って自分で答えてる)


「無理無理、Aランクの私でも苦戦するかもしれない相手なのよ?分かる?特にそこのエルフ!」


セレスティア「...はぁ?」


「セレスティア」


「ニケちゃん」


リリアーナが小さく首を振った。


「言っても無駄よ♡」


ティアラ「まあ、ニケは素直でいい子ね。大人しく安全な場所にいなさい」


(私、一応あなたよりお姉さんなんだけど。まあ背丈は確かに小さいけど)


「...そう。気をつけてね」


私は適当に流した。


「当然よ。じゃあね、ニケ」


ティアラがパンパンと手を叩く。


「モブA、モブB、行くわよ」


「「はっ」」


黒いスーツの二人がティアラを担いだまま、走り去っていった。


「...モブって呼んでたわね、あの子」


セレスティアが呆れた顔で言った。


「本人たちはいいのかしら♡」


リリアーナが首を傾げる。


「いいわけないでしょ、普通」


「でも嬉しそうだったわよ?♡」


「あれが嬉しそうに見えるの?」


(...サングラスでいまいち表情が読めなかったけど)


「...行こうか」


私たちはドルチェの町に向かって歩き出した。



夕方。


ドルチェの町に到着した。


門をくぐると、甘い香りが漂ってきた。


通りにはスイーツ屋が立ち並んでいる。ケーキ、クッキー、チョコレート。色とりどりのお菓子が店先に並んでいる。


「素敵...♡」


リリアーナの目が輝いている。


「...悪くないわね」


セレスティアも満更でもなさそうだ。


「セレスティア、目がキラキラしてるわよ♡」


「してないわよ!」


「してるしてる♡」


「だから、してないって言ってるでしょ!」


「まずは宿を取ろう。明日、ゆっくり回ろう」


「そうね」


「楽しみ♡」


二人は名残惜しそうにスイーツ屋を見ながら、宿に向かった。


(...アテナ様、本当の目的はスイーツだったんじゃ)


まあ、いいか。二人が楽しそうだし。



その頃、ココナ町——


ティアラはギルドの受付嬢の前で固まっていた。


「ですから、バジリスクは昨日、討伐されたんです」


「...は?」


「若い女性三人組のパーティが倒しまして」


「三人組...?」


ティアラの頭に、さっきすれ違った三人の顔が浮かんだ。


銀髪の少女。金髪のエルフ。赤髪の竜人。


「ま、まさか...」


「おかげで石化していた冒険者たちも元に戻りました。本当に感謝しています」


受付嬢が頭を下げる。


ティアラの顔が真っ赤になった。


「お子様には荷が重いわ」


「特にそこのエルフ!」


自分の言葉が頭の中でリフレインする。


「...っ」


恥ずかしい。


穴があったら入りたい。


「プリンセス様、いかがなさいますか」


モブAが尋ねた。


ティアラは拳を握りしめた。


「...追うわよ」


「は?」


「あの三人を追うの!ドルチェに向かったって言ってたでしょ!」


「し、しかし——」


「行くわよ!モブA、モブB!」


「「は、はっ!」」


ティアラは担がれたまま、ドルチェの町に向かって走り出した。


【現在の信仰度:36】


(続く)

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