7話 バジリスク戦②
私は盾を地面に叩きつけた。
ガランッと虚しい音が響く。
「...ちょっと待って」
セレスティアが立ち上がりながら言った。
「ねえ、それどこから出したの?」
(…!)
「えーっと、魔法でちょっと…」
「...便利ね」
「ね♡」
二人ともあっさり受け入れた。
(え、それでいいの...?)
私はふと地面に落ちている盾を見た。
錆だらけ、ボコボコ。でも...
あれ?磨けば使えるのでは…
「よし!磨くよ!」
「...は?」
セレスティアとリリアーナが同時に声を出した。
「磨けば鏡になる」
「戦闘中に!?」
「リリアーナは爪で錆削って。セレスティアは風魔法で磨いて」
「ちょっと待ってよ!」
セレスティアが叫ぶ。
「...まあ、確かに磨けば使えるかもしれないけど」
「でしょ?」
「でしょじゃないのよ!」
リリアーナが盾を拾い上げた。
「下向いてれば平気なのよね」
セレスティアが確認する。
「そう。目に入らなければ石化しない」
「ふふ、面白いわね♡ 磨くわよ」
「なんで楽しそうなのよ!」
バジリスクが動き出す気配がした。
「即席、鏡作成作戦始め!!」
リリアーナの爪が盾の表面に当たり、ガリガリと音を立てて錆を削り始める。
私とセレスティアがバジリスクを引きつける。
私は手鏡を構えた。光を反射させる。
バジリスクが一瞬止まる。でもすぐ動き出す。
「ニケ、そっち来てる!」
「分かった!」
逃げる。引きつける。手鏡で止める。また逃げる。その繰り返し。
「削り終わったわ!」
リリアーナの声。
「セレスティア、交代!」
盾が宙を飛び、セレスティアの手に渡る。
風魔法が盾の表面を撫でる。シュコーシュコーと音を立てて、金属の輝きが戻っていく。
私とリリアーナが引きつけ役を交代する。
リリアーナが翼を広げて飛び上がった。
「こっちよ♪」
上空から声をかける。バジリスクの注意が上に向いた。
私はその隙に手鏡で足止めを続ける。
止まる。動く。止まる。動く。
気休め程度だけど、時間は稼げる。
「磨き終わった!」
セレスティアの声。
私は盾を受け取った。
表面はピカピカだ。ボコボコに曲がっているけど、鏡のように光を反射している。
...でも、1つ問題がある。
それは目を閉じたままじゃ、どこに構えればいいか分からないということ。
「二人とも、目を開けて」
「え!?正気!?」
セレスティアが叫んだ。
「いいわよ♡」
リリアーナが涼しい声で言った。
「ちょっと待ってよ!」
「ニケちゃんを信じてるから♡」
「...」
セレスティアが黙った。
「大丈夫!私が必ず守る。信じて欲しい!」
沈黙。
「...分かったわよ」
セレスティアが小さく言った。
「信じるんだから。絶対守ってよね」
二人は、目を開けた。
バジリスクと正面から向き合う。
巨大な体。鋭い爪。そして——目。
バジリスクの目が、赤く光り始めた。
狙いは——セレスティア。
圧縮解放!!
その刹那、私の体を雷光が覆った。
世界が引き伸ばされる。
バジリスクの目が赤く染まり始めた頃には、もうセレスティアの前で盾を構えていた。
光線が放たれる。
遅い——
キィーン!
乱反射した光がバジリスクの全身を貫く。
バジリスクは何が起きたか理解する間もなく、石になった。
ゴゴゴ...と崩れ落ちる石像。
終わった。
「...勝った」
私はその場に座り込んだ。
足が震えている。圧縮解放の反動で、体が重い。
「勝ったの...?」
セレスティアが呆然と呟いた。
「ニケちゃん、すごいわ♡」
リリアーナが駆け寄ってくる。
その時だった。
周囲の石像が、光り始めた。
石化していた冒険者たちの体から、石が剥がれ落ちていく。
「う...」
「こ、ここは...」
「俺たち、生きてる...?」
一人、また一人と、面白いポーズをとっていた冒険者たちが目を覚ましていく。
全部で7人。
「あんたたちが...助けてくれたのか」
「ありがとう...!本当にありがとう...!」
頭を下げる冒険者たち。
私は心の中で、信仰度が上がっていくのを感じた。
『バジリスク討伐、達成〜!!それではお待ちかねのボーナス倍率の発表で〜す♪拍手ー。パチパチパチ〜』
(来た...!来た!来た!)
3倍来い。せめて2倍。いや、私は欲張らない!1.5倍でいい!
『んーーーん!!どん!!残念!!ボーナス倍率は0.5倍♪』
「...」
『3倍だったら210だったのにね〜♪』
(計算しないでください)
『ニケちゃん、ケチると損するタイプね♪気をつけてね♡』
(誰のせいだと思ってるんですか)
0.5倍。
7人 × 10 × 0.5 = 35。
35ポイント。
3倍なら210?はぁ...なんか疲れた...
「...ニケ、どうしたの?」
セレスティアが不思議そうに私を見ている。
「...なんでもない」
私は立ち上がった。
「町に戻ろう」
※
ギルドで討伐完了の報告をした。
受付嬢が目を丸くしていた。
報酬を受け取り、宿に向かう。
夕暮れの街道を、三人で歩く。
セレスティアが伸びをした。
「...でも、まあ」
「まあ?」
「悪くなかったわ。ニケと組むの」
セレスティアが目を逸らしながら言った。
「私もよ♡」
リリアーナが微笑む。
「早くお風呂入りたい...」
「同感」
「ふふ、私もよ♡」
【現在の信仰度:35】
100回目の冒険。
最初の試練を、乗り越えた。
(続く)




