4話 2つの凶器
宿の風呂。
「あなた、綱引きの時すごかったわね♡」
リリアーナがセレスティアに話しかけた。
「え?」
「久しぶりに熱くなっちゃったわよ。エルフって力強いのね♡」
「ま、まあね...100年鍛えてるから」
(鍛えてたんだ...)
「そ、そう?」
(なんでちょっと誇らしげなんだこのエルフ。40対3の構図だぞ)
「私、力で引っ張られたの初めてよ♡」
二人が妙に仲良くなっている。
(...綱引きのおかげ?)
私の視線が、ふとセレスティアの胸に——
「...ん?」
パァン!
「いったあああい!!」
「すまない。乳首とハエを見間違えてしまったようだ...」
「見間違えるわけないでしょ!!」
(けしからん…)
※
翌朝。
宿の食堂で朝食をとっていると、隣のテーブルから声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?バジリスクの話」
「ああ、岩山に出るってやつだろ?」
私の耳がピクリと動く。
バジリスク。石化の魔眼を持つ蛇の魔物。
99回分の記録にも何度か出てきた。確か、弱点は——
「でもよ、今回のは普通じゃないらしいぜ」
「普通じゃない?」
「ああ。なんでも、石化が『見たら終わり』じゃなくて、『近づいたら終わり』らしい」
「はぁ?そんなバジリスク聞いたことねえぞ」
「だから噂になってんだよ。討伐依頼も出てるけど、誰も受けねえって」
(...近づいたら石化?)
99回分の記録にはない情報だ。
新種?それとも、進化した個体?
『ニケちゃ〜ん♪』
頭の中にアテナの声が響く。
(アテナ様...)
『バジリスクの話、聞いてたでしょ?』
(はい。99回の記録にない情報でした)
『そうなのよ〜。実はね、あのバジリスク、ちょっと特殊なの』
(特殊?)
『詳しく知りたい?』
来た。この流れ。
(...いくらですか)
『信仰度15♪』
(高っ)
『だって、レアな情報だもん♪』
(...10で)
『14』
(11)
『13。これ以上は下げないわよ?』
(......分かりました)
【信仰度:20 → 7】
『まいど〜♪』
商売上手すぎない?
『じゃあ教えてあげる。あのバジリスク、"霧"を出すの』
(霧?)
『そう。石化の霧。目を閉じてても、霧に触れたら石化しちゃうの』
(そんなの、どうやって倒すんですか)
『それはまた別料金よ♡』
(...鬼)
『なんか言った?』
(なんでもないです)
アテナの声が消えた。
「...ニケ?どうしたの?」
セレスティアが心配そうに私を見ている。
「ううん、なんでもない」
リリアーナも私を見ている。
「...バジリスクの話、気になってるんでしょう?」
「え」
「顔に出てるわよ」
鋭い。
「...うん。ちょっと気になって」
「ふうん」
リリアーナが優雅に紅茶を飲みながら言う。
「討伐するの?」
「...まだ分からない」
「そう。じゃあ私も行くわ」
「え?」
「婚約者だから。ニケちゃんが戦うなら、私も戦う。当然でしょう?」
「だから婚約して——」
「私も行くわ」
セレスティアが割り込んできた。
「ニケ一人で行かせるわけないでしょ」
「セレスティア...」
「それに、私だって戦えるんだから」
二人が私を見ている。
一人は100年引きこもりのエルフ。
一人は怪力の竜人族。
(...この二人と、石化の霧を出すバジリスクに挑む?)
正直、不安しかない。
でも——
「...ありがとう」
私は小さく笑った。
「じゃあ、3人で行こうか」
【現在の信仰度:7】
100回目の冒険。
最初のボス戦が、近づいていた。
(続く)




