15話 3秒
第15話
翌朝。
「よし」
私は気合いを入れた。
「今日はサキュバスの情報を徹底的に集める。悪を成敗し、1ヶ月で5000万の借金を返すぞ!!」
「その通りです!悪は絶対許しません!」
「女神ニケ様もそう仰られてます!」
【信仰度:0→3】
(惜しい、本命は借金の返済です)
「なんか二人の気合いが凄いんだけど…」
「私、ついていけるかしら♡」
「ちょっとそこのお二人さん早く行きますよ!」
「「はーい」」
※
午前中。
町の人に聞き込みを続けた。
「人攫い?ああ、夜に消えるって噂だな」
「若い女性が多いらしいぜ」
「犯人?さあ...見た奴はいないんじゃないか」
どこに行っても同じ答え。
「あんたら、もしかして調べてくれてるのか?」
「まあ、そんなところです」
「そうか...!頼むぜ、俺の娘も夜は外出禁止にしてるんだ」
「私の友達も怖がってて...お願いします!」
「お願いします!」
「頼んだよ!」
気づけば、周りに人が集まっていた。
「期待してるよ、お嬢ちゃんたち!」
【信仰度:3→20】
(おお、結構上がった)
「手がかり、全然ないわね」
セレスティアが溜息をついた
※
昼。
「お腹すいたー」
セレスティアがぼやいた。
「私も...」
フワリンもお腹を押さえている。
「てか、サキュバスってこの辺にいたりしないの?」
「いるわよ、ほら♡」
リリアーナが通りの奥を指さした。
怪しい看板がずらりと並ぶ一角。
「...」
「夜の街ね」
「サキュバスが身を隠すなら、ああいう場所でしょうね」
「昼だから開いてる店は...」
リリアーナが目を細めた。
「一軒しかないみたいね♡」
看板が見えた。
『サキュっとBAR』
「...ネーミング」
「お腹すいたし、あそこでお昼にしましょ♡」
「え、入るの?」
「情報収集でしょ?行くわよ♡」
リリアーナに背中を押された。
※
店内。
意外と普通だった。
カウンターに女性が一人。角と尻尾が生えている。
胸元に名札。『メイ』と書いてある。
「あら、いらっしゃい。珍しいわね、昼間にお客さん」
「ここ、ご飯食べれる?」
「軽食ならあるわよ」
席に着いた。
軽食を頼み、しばらく雑談をした。
「——で、最近人攫いが起きてるらしいじゃない?」
「ああ、あの噂ね」
メイさんが苦笑した。
「私たちも迷惑してるのよ。サキュバス全員が悪者みたいに思われて」
「全員じゃないの?」
「当たり前でしょ。魔王軍に関わってるのなんて一部よ」
「なるほど...」
「あ、そうだ」
セレスティアが身を乗り出した。
「サキュバスの魅惑ってどういう仕組みなの?対策とかある?」
「魅惑?」
メイさんが少し考えた。
「特殊なフェロモンを出すのよ。嗅いだら頭がぼーっとなる」
「対策は?」
「強い意志があれば抵抗できるわ」
セレスティアが鼻で笑った。
「ふん、その程度なら余裕ね。100年生きてるエルフをなめないで——」
メイさんがふわっと香りを放った。
「——————」
セレスティアの目がトロンとなった。
「...えへへ」
「セレスティア?!」
「3秒ね」
メイさんがあっさり言った。
「100年何してたの...」
「うるさいわね!今のは不意打ちでしょ!」
「言い訳しないの」
「ふふ、可愛いわね♡」
リリアーナが楽しそうに笑っている。
「茶化さないでよ!」
「他に何かある?」
「そうね...」
メイさんが続けた。
「夜になると力が増すわ。フェロモンの効力はもちろん、単純な身体能力も」
「夜に強くなる...」
「だから夜に活動するのよ、私たち」
「なるほど...」
「他の人も試してみる?」
メイさんが楽しそうに言った。
「え?」
「もし戦おうってつもりなら、耐性あるか知っておいた方がいいでしょ」
「それもそうね♡」
リリアーナが前に出た。
メイさんがふわっと香りを放った。
「...」
リリアーナは変わらず微笑んでいる。
「あら、効かないわね♡」
「...元からこう?」
「元からです」
私は即答した。
「次、私です!」
フワリンが手を挙げた。
メイさんが香りを放つ。
「...効きません!」
フワリンがキリッとした顔で言った。
「女神ニケ様の加護があるので!」
(授けてないんだけど...)
「最後、あなたね」
メイさんが私を見た。
「い、いいけど...」
香りが漂ってきた。
甘い。頭がぼんやりしてくる——
(やば...これ結構...)
意識がうつらうつらする。
遠くで誰かの声が聞こえた。
『あっはっは!ニケも落ちてる!』
(...セレスティア...?)
『やっぱりまだまだチンチクリンね〜!』
(...うるさい...)
(...うるさい!!)
ドゴォン!!
私は自分の顔を思いっきり殴った。
体が吹き飛び、座席から転がり落ちた。
「「「...」」」
血を拭いながら立ち上がる。
「ふう...なかなか凄いね。これ程の威力だとは思わなかった」
「あの、これ...物理攻撃ではないわよ...」
メイさんが呆れた顔をしている。
「いいや、物理攻撃だよ」
「違うわよ」
「ニケさん、顔から血が...!」
フワリンが駆け寄ってきた。
「え?あ、ほんとだ」
唇を切っていた。自分で殴ったせいだ。
「治しますね!」
フワリンの手が淡く光る。傷口が塞がっていく。
「...ありがとう」
「いえいえ♪ これくらいお安い御用です!」
「普通そこまでしないわよ...」
セレスティアがツッコんだ。
「まあ、耐えたことは耐えたわね...」
メイさんが苦笑した。
「変わった子ね、あなた」
「これでセレスティア以外はフェロモンを耐えられるってことが分かったね」
全員で一斉にセレスティアを見つめる。
「ニケ!あなたは限りなくこっち側よ!」
「結果が全てだよお嬢ちゃん」
私はドヤ顔でセレスティアを見下ろした。
「くっ…」
「セレスティアさんもニケ様を信仰しましょう!ね!」
「絶対嫌よ」
「そ、即答!?ガーン」
※
店を出た。
「ん?あれ何かしら?」
セレスティアが空を見上げた。
「え?どれ?」
「あれ、空に黒い裂け目みたいな...」
見上げると、確かに空に黒い線が走っている。
「なんか広がってるわよ♡」
リリアーナが呟いた。
「悪の組織の匂いがします!」
フワリンが身構える。
その暗闇は瞬く間に空を覆い——
太陽が消えた。夜だ。
「な、何これ...」
フワリンが周囲を見回す。
「昼なのに夜...?♡」
リリアーナが呟いた。
「空間構築魔法ね」
セレスティアが目を細めた。
「空間ごと夜に書き換えてる...古代の文献でしか見た事ない」
「そんなことできる奴がいるの...?」
「目の前にいるわよ」
聞き覚えのある声だった。
振り返ると——メイさんが立っていた。
「え...メイさん?」
「まさかお店に来てくれるなんてね。おかげで色々と試させてもらったわ♡」
「どういうこと...?」
「獣人の村で私の部下を倒した4人組がいるって聞いてね。どんな子たちか見に来たの」
メイさんの姿が揺らいだ。
角が大きくなる。翼が生える。尾が伸びる。
「...!」
その姿に、見覚えがあった。
——過去の記録。
『今回の勇者もサキュバスにやられました』
『あら、男の子はお盛んね〜♪』
『違います!なんか凄い技なんです!見てください!』
『ニケちゃん、大人になるまでそういうのは見ちゃダメでしょ!』
『だから違いますって!技です!テクニックっていうかとにかく見てください!』
『だから見てはダメでしょ!』
結局、アテナ様は報告を見てくれなかった。
99回中、このサキュバスより先に進めた勇者はいない。
(あの時のサキュバス...!)
『ニケちゃん...大丈夫?怖くない?』
(え...アテナ様...?)
『あの時ね、ちゃんと見てあげなくてごめんね。ニケちゃんが頑張って報告してくれたのに』
(...)
『お詫びに教えてあげるね♪あの子は魔王軍の幹部、サキュバスの始祖リリスよ♪強いわ!じゃあ頑張ってね!』
(以上ですか!)
『はい♪』
(お詫びの石的なアイテムは?)
『石...?飴ちゃんならあるけど、りんご味』
(要りません)
「私の本当の名前はリリス。始祖サキュバスよ」
「魔王軍幹部の一人、と言った方が分かりやすいかしら」
(全部言うじゃん、アテナ様から貰った情報)
「魔王軍...!」
フワリンが身構えた。
「悪の幹部ですね!成敗します!」
「あら、元気な子♡」
リリスが私たちを見回した。
「さっきお店で試したフェロモン。あれは接客用のレベルよ♡」
リリスが翼を広げた。
空気が一変した。
甘さはない。重い。冷たい。息が詰まる。
街灯が割れ、地面にヒビが走った。
逃げろ、と本能が叫んでいる。
振り返るまでもなく、既に1名ノックアウトしている。
「セレスティアー!!」
(続く)




