14話 精密鑑定と5000万z
第14話
歩きながら——
「そういえば、あの男...」
セレスティアが呟いた。
「自警団に引き渡す時、喚いてたわよね」
「ああ、言ってたね」
『俺は雇われただけだ!』
『女に命令されたんだ!』
「サキュバスの女がどうとか言ってなかった?」
「言ってた気がする」
「北東にいるって...」
「ニケちゃんの弟くんと妹ちゃん大丈夫かしら♡」
(…そういえば、そんな設定だったな)
「...うん大丈夫。私より足速いから」
「「「ニケより?!」」」
(何?!)
※
北東の町、ラステルに着いた。
門をくぐると、すぐに兵士に呼び止められた。
「待て。外から来たな?」
「はい」
「最近、この町で人攫いが頻発している。外部からの来訪者は全員、ギルドで精密鑑定を受けてもらう」
「精密鑑定...?」
「王都から特別な水晶が貸し出されている。通常のギルド証発行とは別物だ」
「私たち、ギルド証は持ってるんだけど...」
セレスティアがカードを見せた。
「それだけじゃダメだ。精密鑑定は、隠しステータスや特性まで全て表示される。怪しい奴を見逃さないためだ」
「隠しステータス...」
(まずい...かも)
仕方ない。私たちはギルドに向かった。
※
冒険者ギルド。
受付には行列ができていた。精密鑑定待ちの旅人たちだ。
「次の方、どうぞ」
私たちの番が来た。
受付嬢がカウンターに水晶を置いた。普通の鑑定水晶より、ずっと大きい。
「これに手を触れてください。通常のギルド証には載らない情報まで表示されます」
「私から行くわ」
セレスティアが水晶に手を置いた。
光が灯り、文字が浮かび上がる。
【セレスティア】
種族:エルフ
職業:弓使い
魔力:A
特性:金使いが荒い、100年間職歴無し
「...なんでそこまで出るのよ!」
セレスティアが顔を真っ赤にした。
「精密鑑定ですので...」
受付嬢が苦笑いしている。
「次の方」
リリアーナが手を置いた。
【リリアーナ】
種族:竜人族
職業:なし
魔力:C
特性:財力SSS、新婚
「「「新婚?!」」」
「ふふ、ニケちゃんとね♡」
「違う!」
「精密鑑定って、願望も出るのかしら...」
受付嬢が首を傾げている。
「次の方」
フワリンが手を置いた。
【フワリン】
種族:人族
職業:神官
魔力:F
特性:回復魔法、女神ニケの祝福
「回復魔法...女神の祝福?!」
受付嬢が目を見開いた。
「えっ?もしかして、せ、聖女様ですか?」
フワリンがモジモジした。
「いやぁ、聖女様だなんて...」
照れた顔から一転、キリッとした表情に変わった。
「ただの女神の使いです!」
(ほんとだったんだ...)
「次の方」
私の番だ。
(隠しステータスまで出る...これはまずい)
水晶に手をかざした。
光が——強く輝いた。
【ニケ】
種族:神格
職業:女神
神力:測定不能
特性:圧縮解放、神界戦闘部署所属
周囲がざわめき始めた。
「神格...?」
「女神って...」
「神界戦闘部署...?」
受付嬢が目を丸くしている。
「あ、あの...これ、初めて見ました...神格種族なんて...」
(まずいまずいまずい...!)
『ニケちゃ〜ん♪』
(え?!アテナ様?!)
『ピーンチ!ピーンチ!大ピンチだね〜♪』
(分かってます!!)
『あらあら〜、周りの人たちがざわざわしてるわね〜。なんでだろ〜?』
(見れば分かるでしょ!!)
『ふふ、冗談よ〜♪ 頼れる上司アテナさんが助けてあげます!!もちろん有料でね♪』
(なんでもいいのでお願いします!!早く!!)
『まいど〜♪』
【信仰度:7→2】
水晶の光が揺らいだ。
ステータス画面が切り替わる。
【ニケ】
種族:神格
職業:女神
神力:測定不能
特性:圧縮解放、神界戦闘部署所属、アテナのお気に入り
「「「...」」」
(増えてる!!)
『あっ、ごめ〜ん♪ 間違えちゃったみたい〜♪ もう、ぷんぷん』
(なんであなたが怒ってるんですか!!)
「な、なんか増えた...?」
「アテナのお気に入りって...」
「さっきより怪しくない...?」
受付嬢の目がさらに丸くなる。
「ぎ、ギルドマスターをーー」
もう限界だ。
圧縮解放。
【信仰度:2→0】
私は全力で腕を振り下ろした。
ドゴォォン!!
水晶が、机ごと床に叩きつけられていた。
木片と水晶の破片が飛び散る。
「「「...え?」」」
全員が固まった。
「な、何事ですか...」
(もっとスマートにいく予定だったのに...まずい感じになってるかも...)
(...とりあえずすっとぼけとけばいいよね)
「て、敵襲ですか?!」
「「「...」」」
受付嬢が呆然と床と私を交互に見つめてくる。
「水晶が...机ごと...?」
「地震...?」
「揺れてないわよ...」
周囲がざわつく。
セレスティアが私を見た。
「...ニケ、あんた今——」
「何も」
「嘘でしょ」
「本当に何も。手をかざしてたら勝手にこの水晶が」
「「「...」」」
「と、とにかくギルドマスターを呼んできます...!」
受付嬢が慌てて奥に走っていった。
※
しばらくして、奥から大柄な男が出てきた。
「俺がギルドマスターのガルドだ」
厳つい顔。腕を組んでこちらを見下ろす。
「...話は聞いた。水晶が割れたそうだな」
「はい...」
「あの水晶は王都からの貸し出し品だ。世界に3つしかない」
(3つ...?)
「1つ5000万zだ」
「「「...」」」
「弁償してもらう」
5000万z。
リリアーナを見た。
「...ごめんなさい、2000万zしか持ってないわ」
「足りねぇな」
(リリアーナでも払えない...!)
「あの...!」
私は声を上げた。
「サキュバスの件、私たちが解決します。それで帳消しにしてもらえませんか?」
ガルドの眉が上がった。
「...サキュバスだと?」
「この町で人攫いが起きてるんですよね。サキュバスが関わってるって聞きました」
「どこで聞いた」
「北東の村で。サキュバスの女に雇われた男がいました」
ガルドが腕を組み直した。
「...あの件は、王都ギルド機関から魔王軍が絡んでいる可能性が高いとされている」
「魔王軍...」
「難度S〜SS。お前たちが何とかできるとは思えん」
「やります」
「途中で逃げ出すかもしれんぞ」
「逃げません」
ガルドが私を見つめた。
沈黙が流れる。
「...いざという時は、私が払うわ」
リリアーナが嫌そうに何かを取り出した。
紋章だ。見たことのない家紋。
ガルドの目が変わった。
「その紋章...まさか」
「ええ」
「リリアーナ、それ何?」
セレスティアが聞いた。
「実家の家紋よ」
「あんた、やっぱり本当にお嬢様だったのね...」
「実家、溺愛がすごいのよ...面倒」
(血は争えないな...)
「それなら話が早いわ」
セレスティアが手を叩いた。
「リリアーナに払ってもらいましょ」
「ダメです!」
フワリンが声を上げた。
「悪を見逃すわけにはいきません!それに——」
「それに?」
「お金は大事です!」
「「「...」」」
(やっと...やっとまともな子が来た...!)
チラッとセレスティアを見た。
80万zの魔法書。
チラッとリリアーナを見た。
金銭感覚崩壊。
(二人とも見習ってほしい...)
ガルドが深く息を吐いた。
「...いいだろう」
「え?」
「1ヶ月以内にサキュバスの件を解決しろ。それで帳消しにしてやる」
「本当ですか!?」
ガルドが家紋を見た。
「逃げ出したらドレスティア家に請求が行くからな」
「...分かりました」
「ああ、担保があるなら問題ねぇ」
ガルドは豪快に笑って去っていった。
【現在の信仰度:0】
借金5000万。信仰度0。逃げたら請求。
(...詰んでない?)
(続く)




