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13話 無料ほど怖いものはない

第13話


野営から明けて、私たちは再度歩き始めた。


羅針盤の針は、相変わらず北東を指している。


「ねぇ、そろそろ町じゃない?」


セレスティアが聞いてきた。


「そのはずなんだけど——」


森を抜けた先に、村が見えた。


いや、村だったもの、が。


建物は荒らされ、窓は割れている。通りには物が散乱していた。


「...なにこれ」


「誰もいないわね...」


リリアーナが辺りを見回す。


「最近まで人が住んでたみたい。まだ食べ物が残ってるわ」


セレスティアが民家を覗き込んだ。


「どこに行ったんだろう...」


私たちは慎重に村の中を進んだ。


その時——


「もう獣人はいねぇか...」


声が聞こえた。


建物の陰に隠れて覗くと、村の広場に男がいた。


ボロボロの服。無精髭。腰には錆びた剣。


「獣人...?ここ、獣人族の村だったのかしら」


セレスティアが呟いた。


「どうする?」


「迂回した方が——」


「許せません」


フワリンが立ち上がった。


「ちょっと——」


「ニケ様の教えでは、悪は許してはいけないのです!」


「待って!」


私が止めようとした。


「落ち着きなさい」


セレスティアが私の腕を掴んだ。


「あの子、仮にも女神の使いよ。そんなやわじゃないわ」


(いや、私何も授けてないんだけど...)


(...でも、もしかしたら本当に何かあるのかも?)


フワリンが男の前に飛び出した。


「悪しき者よ!私はニケ様の使い、フワリンです!」


男が振り向いた。


「...あ?なんだガキか」


「ガキじゃないです!」


「邪魔だ、どけ。人間には用はねぇ」


フワリンは動じない。


「ニケ様から授けていただいた聖なる魔法で...悪を浄化します!」


「おお...」


セレスティアが感心している。


「やっちゃいなさい♡」


リリアーナも期待の目。


フワリンが両手を構えた。


「詠唱に時間がかかるので、少し待ってもらっていいですか!」


キリッとした表情で宣言した。


「...は?」


男が困惑している。


「お願いします!」


「...分かったよ。10秒だけな」


「ありがとうございます!」


「優しいわね♡」


リリアーナが感心している。


「てか、このスキに私たちで倒しちゃえばよくね?」


「ダメよ!フワリンの頑張る姿見て何も思わないの?」


セレスティアに睨まれた。


「おい、10秒たったぞー」


「ちょっと待ってください!あと30秒欲しいです!」


「...しょうがねぇな。30秒な」


「あっ!」


「今度はなんだよ!」


「詠唱は途中で止めるとダメなんでした...」


「...もう何やってんだよ。いいからさっさと唱えろ」


「ありがとう。悪の人」


「まったく...これだからガキンチョは…」


男がぼやいた。


「なんか仲良くなってきたわね♡」


セレスティアが呟く。


「感動してきたかも。ニケ、ティッシュ持ってる?」


「はいっ!」


フワリンが再び両手を構えた。光が集まり始める。


「ニケ様から授けていただいた...聖なる魔法で...」


光が強くなる。神聖な雰囲気。


男も身構えた。


「悪を...浄化します!」


光がフワリンの手から放たれた。


「ぐわああああああ!!」


男の体を包み込む。


「ちょっとニケ、見えないわよ!」


セレスティアが私を押しのけて前に出た。


「や、やったか...!?」


光が収まった。


「ん?...あれ?」


「特にどこも痛くないぞ…」


「むしろ、なんか...めっちゃ調子いいかもしれない…」


「「「...」」」


「あれ?なんか肩こり治ってね?!」


「「「...」」」


「なんであの子あんなに笑顔なのよ」


「分からない…もう既に決着はついたっていうことなの?」


「ある意味ついてるかもね」


フワリンが大きな胸を張った。


「これこそがニケ様直伝の浄化魔法です!!これであなたもいい人の仲間入りです!では私はこれにて失礼します!」


「あっ、うん」


フワリンがくるっと振り返って歩き出した。


「なんかあの子、帰ってくるわよ」


セレスティアが呟いた。


男がハッとした顔になった。


「...待てコラ!」


剣を抜いて、フワリンを追いかけ始めた。


「危ない!」


リリアーナが叫んだ。


「フワリン!!」


セレスティアも叫んだ。


「ニケちゃん!助け——」


リリアーナが振り向いたときには、ニケはそこにいなかった。


剣が振り下ろされる。


私はフワリンの前に立ち、男の腕を掴んだ。


「え——」


男が何か言う前に、地面に叩きつけた。


「ぐはっ...!」


動かなくなった。


【信仰度:2→0】


「...ニケさん、すごい」


フワリンが目を輝かせた。


「助けてくれて、ありがとうございます...!」


【信仰度:0→5】


「...どうも」


『ニケちゃん、お見事〜♪』


頭の中にアテナの声が響いた。


(アテナ様...見てたんですか)


『もちろん♪ ずっと見てたわよ〜。フワリンちゃんの浄化魔法、笑っちゃった♪』


(笑い事じゃないです...)


『肩こり治してあげるなんて、優しい子ね〜』


(まあただの回復魔法ですからね...)


私は倒れた男を見た。


(...ところで、この村、何があったんですか?獣人がどうとか言ってましたけど)


『ん〜?知りたい?』


(はい)


『普通なら有料なんだけどね〜』


(いくらですか?)


『ん〜...今回はいいわ』


(え?)


『ニケちゃん、さっき泣きそうな顔してたでしょ〜?村人がいなくて』


(...見てたんですか)


『見てたわよ〜♪ あんなの見せられたら、さすがの私もね〜』


(アテナ様...)


『村人、生きてるわよ。この村の地下に監禁されてるの』


(本当ですか!?)


『本当よ♪ お礼は出世払いでいいから〜♪ でもこのことは他言無用よ?本当はやっちゃいけないことなんだから〜』


(...ありがとうございます)


『お礼はいいから〜、早く行ってあげて〜♪』


「...うん」


「ニケ?どうしたの?」


セレスティアが心配そうに見ている。


「目、赤いけど...」


「なんでもない。...村人がいる場所、分かった」


「え?どうやって?」


「いいから、ついてきて」


男の腰から鍵を取り、私は走り出した。



村の中央にある建物。その地下に、扉があった。


鍵を差し込む。カチャリと音がして、扉が開いた。


「...!」


中には、大勢の獣人たちが縛られていた。犬の耳、猫の耳、狐の尾。様々な獣人がいる。大人も子供も、みんな一緒に閉じ込められていた。


「助けが来た...!」


「本当に...!?」


私たちは獣人たちの縄を解いていった。


「ありがとうございます...!」


「助かりました...!」


「子供たちが...子供たちが無事で...!」


「お母さん!」


「パパ!」


次々と再会の涙が流れる。


「本当に、本当にありがとうございます...!」


老いた獣人が私の手を取った。


「あなたたちは、この村の恩人です...!」


子供たちが駆け寄ってきた。


「お姉ちゃんたち、ありがとう!」


「助けてくれてありがとう!」


フワリンが子供たちに囲まれている。


「これもニケ様のお導きです♪」


(いや、アテナ様のお導きなんだけど...)


【信仰度:5→507】


(500以上...!?)


『よかったわね〜、ニケちゃん♪』


(アテナ様...本当にありがとうございます...!)


『どういたしまして〜♪ これでニケちゃんも、少しは楽になるでしょ〜?』


(はい...!これでほぼ自由に神力も使えるようになります...!)


『うんうん、頑張ってね〜♪』


温かい気持ちが広がった。


アテナ様は、やっぱり優しい神様だった。


課金課金って言ってるけど、本当は私のことを想ってくれている。


信じてついてきて、よかった——



村を出て、しばらく歩いた頃。


『あ、ニケちゃん』


(はい?なんですか、アテナ様)


まだ感謝の気持ちでいっぱいだった。


『えっとね〜...』


(?)


なんだか歯切れが悪い。


『さっきのこと、神界にバレちゃったみたい〜』


(え?)


『いや〜、まさかバレると思わなかったんだけどね〜』


心臓が跳ねた。


(バレたって...アテナ様、怒られたんですか?)


『うん、まあ、ちょっとね〜。ただ、ちょっとね〜...』


嫌な予感がした。


(...なんですか?)


『罰金として、通常の20倍の信仰度を回収するよう言われちゃって〜』


(...え)


『だから、あのー...貰うね♡』


【信仰度:507→7】


(...)


『ごめんね〜♪ でも規則だから仕方ないのよ〜♪』


(...500...消えた...なんかちょっと計算おかしくない?)


『出世払いの分も適当に貰っちゃったから、借金はチャラよ〜? 実質お得じゃない〜?』


(何がお得なんですか...返してください!)


『元気出して〜♪ 7も残ってるじゃない〜♪ 5から増えてるわよ〜?』


(2しか増えてない...)


『プラスはプラスよ〜♪ ポジティブにいこう〜♪』


(...)


『ニケちゃん? 怒ってる〜?』


(怒ってないです...)


『本当〜?』


(...本当です)


『よかった〜♪ じゃあ、引き続き頑張ってね〜♪』


(はい...)


「ニケさん?顔色悪いですけど大丈夫ですか?」


フワリンが心配そうに覗き込んできた。


「...大丈夫」


「本当ですか?さっきまで元気だったのに...」


「...精神的なやつだから」


「上司のハラスメント的なやつですか?」


「...うん」


フワリンが手を合わせた。


「ニケ様、どうかニケさんをお救いください...」


(私なんだけど...)


【現在の信仰度:7】


(続く)

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