12話 女神の使い・フワリン
第12話
日が傾いてきた。
「ねぇ、次の町まであとどれくらい?」
セレスティアが聞いてきた。
「羅針盤は方角しか——」
「分からない、でしょ。知ってるわよ」
「...うん」
「今日中に着くの?♡」
リリアーナが不安そうに聞く。
「多分、無理かな...」
「じゃあ野営ね」
セレスティアがため息をついた。
「野営!いいですね!」
フワリンが目を輝かせた。
「星空の下で眠るの、素敵です♪ きっとニケ様も見守ってくださいます!」
(見守るも何も、私ここにいるんだけど...)
※
森の中に開けた場所を見つけた。
「ここでいいでしょ」
「私、火を起こします!」
フワリンが張り切って走り出した。
「あ、待って——」
言い終わる前に、フワリンが転んで、薪に躓いて、鍋を倒した。
「きゃっ」
「...」
「す、すみません...全部やり直します...」
「座ってていいよ」
「でも...」
「座ってるだけで十分だから」
「...はい」
フワリンが大人しく座った。
小さい体がさらに小さく見える。
※
なんとか夕食の準備ができた。
セレスティアが作ったスープ。意外と美味しい。
「セレスティア、料理上手なのね」
「100年間、一人で生きてきたからね」
「...それ、ちょっと切ない」
「うるさいわね」
四人で火を囲んで食べる。
「美味しいです...」
フワリンが感動したように言った。
「ニケ様の教えでは、食事は感謝して食べるものだと...」
「そんな教え、出してないけど」
「え?」
「あ、いや...一般的にそうだよねって意味」
「はい!ニケ様は食べ物を大切にする方ですから!」
(知らないでしょ、私のこと...)
「ニケ様の教えでは、仲間との絆を大切にせよ、と...」
「それも出してない」
「え?」
「いや、その通りだなって」
「ですよね!ニケ様は仲間思いの女神様ですから!」
セレスティアが私を見てニヤニヤしている。
「ニケさん、大変ね」
「...何が?」
「勝手に教えを作られて」
「...」
(同じ名前だと色々面倒だな...)
※
食事が終わり、火を囲んだまま話が続いた。
「フワリンは、なんでニケ様を信仰してるの?」
リリアーナが聞いた。
「小さい頃、病気だったんです」
フワリンが静かに話し始めた。
「治らないって言われて...でもある日、夢にニケ様が出てきて」
「夢に?」
「はい。『諦めないで』って言ってくださったんです」
(...夢?私、そんな夢に出た覚えないけど)
「それから回復魔法が使えるようになって...病気も治ったんです」
「すごい...」
「だから私、ニケ様に恩返しがしたくて。ニケ様のために働きたいんです」
フワリンの目が真っ直ぐだった。
(...なんか、申し訳なくなってきた)
『あら、いい話じゃない♪』
(アテナ様...)
『でも、あんたそんな夢出てないでしょ?』
(出てないです)
『じゃあ誰が出たのかしらね〜♪』
(知らないんですか?)
『さぁ?♪ 10ポイントで教えてあげる♪』
(信仰度2なんですけど)
『じゃあ無理ね〜♪』
(この人、本当に...)
「ニケさん?」
「え?」
「また、ぼーっとしてました」
「あ、ごめん...」
「上司のハラスメントですか?」
「...まあ、そんな感じ」
「大変ですね...」
フワリンが同情の目で見てくる。
(本当に大変なのよ...)
※
夜が更けてきた。
「そろそろ寝ましょうか♡」
リリアーナが欠伸をした。
「そうね。明日も歩くし」
セレスティアがテントに向かう。
「あの、ニケさん」
「ん?」
フワリンが私の顔をじっと見ていた。
「なんだか、夢に出てきたニケ様に似てますね」
「...え?」
心臓が跳ねた。
「雰囲気が...なんとなく」
「そ、そう?」
「はい。優しいところとか...」
「似てないわよ」
セレスティアが割り込んできた。
「こっちはチンチクリンのポンコツだし」
「まだ言う?」
「事実でしょ」
「ポンコツじゃないし、チンチクリンでも...」
自分の胸に手を当てた。フワリンの胸を見た。私より大きい。
「...」
「ニケさん?」
「...なんでもない」
(チンチクリンは否定できなかった...)
「でも私、ニケさんのこと好きですよ♪」
「え?」
「優しいし、話しやすいし。ニケ様の名前を持つ方だけあります!」
『あら、好意を持ってくれたみたいね♪ 信仰度が1上がったわよ』
【現在の信仰度:1→2】
(2...)
「ありがとう、フワリン」
「いえいえ♪ これからもよろしくお願いします!」
「ちょっとニケちゃん、浮気♡?」
「え?」
「私たち婚約関係なのに♡」
「こ、婚約...!?」
フワリンがそわそわし始めた。
「違うから!」
フワリンがにっこり笑った。
純粋な笑顔。疑いのない目。
(...いつかバレた時、どうなるんだろう)
そんなことを考えながら、私は眠りについた。
【現在の信仰度:2】
(続く)




