11話 授けてないんだけど
第11話
北東に向かって歩き始めて、半日が過ぎた。
「ねぇ、あとどれくらい歩くの?」
セレスティアが不満そうに言う。
「羅針盤は方角しか示さないから、距離は分からないよ」
「使えないわね」
「仕方ないでしょ...」
「ニケちゃん、お腹空いた♡」
リリアーナがお腹を押さえている。
「次の町まで我慢して」
「遠いの?♡」
「...分からない」
「使えないわね」
「二回目!」
森の中を進んでいく。
羅針盤の針は、ずっと北東を指したまま。魔王はこの先にいるはず。
(信仰度0か...)
今の私は、神力の使えないただの神。
もし魔物に襲われたら——
「きゃあああああ!!」
悲鳴が聞こえた。
「なに?」
「こっちよ!」
セレスティアが走り出した。私とリリアーナも後を追う。
※
森の中に、小さな女の子がいた。
...いや、女の子じゃない。
思わず自分の胸に手を当てた。私より...大きい。
(...幼子ではないわね)
背は小さいけど、よく見ると私たちと同じくらいの年齢だ。
彼女は木の上で震えていた。
「た、助けてくださーい!」
木の下には、大きな狼の魔物が三匹。
「あれ、フォレストウルフね」
セレスティアが弓を構えた。
「強いの?」
「まあまあ。私一人で十分よ」
セレスティアが矢を放った。
一匹、二匹、三匹。あっという間に片付けた。
「すごい...」
木の上の女の子が目を丸くしている。
「降りてきなさいよ」
「は、はい!」
女の子が木から降りようとして——
「きゃっ」
足を滑らせた。
「あ」
落ちる。
リリアーナが慌てて受け止めた。
「大丈夫?♡」
「す、すみません...ありがとうございます...」
女の子が恥ずかしそうに立ち上がった。
ふわふわした髪。ほわほわした雰囲気。背は私より小さい。
「怪我はない?」
「はい、大丈夫です!」
女の子がぺこりと頭を下げた。
「助けていただいて、本当にありがとうございます!これもきっと、ニケ様のお導きです...!」
「ニケ様?」
セレスティアが眉を上げた。
「はい!私、ニケ様の使いのフワリンと申します♪」
「ニケ様の使い...?」
「勝利の女神ニケ様に仕える者です!」
フワリンが胸を張った。小さい体で精一杯の威厳を出そうとしている。
「ニケ様って、あの勝利の女神よね?」
「はい!多くの人々を導いてきた偉大な女神様です!」
「そうよねぇ...」
セレスティアが私をチラッと見た。
(ん...なんだ?)
「こっちのチンチクリンポンコツニケのことかと思って、びっくりしちゃったよ笑」
(はぁ...?)
「チンチクリンでもポンコツでもないんだけど」
「え?この方もお名前がニケさんなんですか?」
フワリンが目を輝かせた。
「そう。名前負けしてるでしょ」
「素敵なお名前です♪ きっとニケ様のご加護がありますよ!」
(加護ないのよ...本人だから)
「あ、あの」
フワリンがもじもじしている。
「なに?」
「そちらの方、腕から血が...」
見ると、リリアーナの腕に小さな切り傷があった。
「あら、本当♡ さっき枝で切っちゃったみたい」
「大丈夫?」
「平気よ♡ このくらい」
「待ってください!治します!」
フワリンが駆け寄ってきた。小さい体なのに、揺れるものは揺れる。
淡い光が傷口を包む。
数秒後——傷が消えていた。
「回復魔法...!?」
「はい♪ ニケ様から授かった力です!」
セレスティアが驚いた顔をしている。
「回復魔法って、すごく珍しいのよ。使える人、ほとんどいないわ」
「そうなの?」
「教会の高位神官くらいしか使えないって聞いたことある」
フワリンが照れたように笑った。
「私、この力でニケ様のために働いているんです♪」
(授けてないんだけど...)
『あら、この子』
頭の中にアテナの声が響いた。
(知ってるんですか?)
『知らないわよ〜。でも、あんたの信者みたいね♪』
(信仰度増えたりしないんですか?)
『気になる?詳しく教えてあげてもいいけど、信仰度5消費ね〜♪』
(今0なんですけど!?)
『じゃあ無理ね〜♪ 残念〜♪』
(...)
『そんな顔しないでよ〜。大したことでもないから今回は特別に教えてあげる。あの子が信仰してるのは「勝利の女神ニケ」。目の前にいるニケちゃんのことじゃないの』
(でも私が本物なんですけど...)
『あの子はそう思ってないでしょ?信仰度はあなたに向けられた気持ちで決まるの』
(そういうことだったんですね...)
『あら、同じ名前ってことで少し好意を持ってくれたみたい。信仰度が1上がったわよ♪』
【現在の信仰度:0→1】
(1...)
『本人が目の前にいるのに1だけ〜?悲しいわね〜♪』
(うるさいですよ...)
「あの、ニケさん?」
フワリンが心配そうに顔を覗き込んできた。
「え?」
「ぼーっとしてましたけど、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫」
「疲れてるなら、回復魔法かけましょうか?」
「いや、精神的なやつだから...上司のハラスメント的な...」
「え?」
「気にしないで」
フワリンがにっこり笑った。
「ニケさんも、ニケ様を信仰されてるんですか?」
「え?」
「同じお名前ですし、きっとニケ様のことが好きなんですよね?」
(好きとか嫌いとか...私、本人なんだけど...)
「...まあ、嫌いじゃないよ」
「ですよね!ニケ様は素晴らしい女神様ですから!」
「...まあね」
少し照れる。
「あんたじゃないわよー」
「わ、分かってるよ!」
「あの、フワリンはどこに向かってたの?♡」
「北東の町です!そこでニケ様の教えを広めようと思って」
「北東...私たちと同じ方向ね」
セレスティアが言った。
「本当ですか?」
「一緒に行く?回復魔法使えるなら、いると助かるし」
「いいんですか!?」
フワリンの目がキラキラ輝いた。
「きっとこれも、ニケ様のお導きです...!」
「そうね」
セレスティアが私を見てニヤッと笑った。
「ニケ様のお導きよね、ニケさん?」
「...うん」
(私、何も導いてないんだけど...)
こうして、四人での旅が始まった。
【現在の信仰度:1】
(続く)




