10話 出るものは止められない
第10話
大食い大会が始まった。
私はシュークリームを手に取り、口に運んだ。
甘い。美味しい。でも、さっきケーキを食べたばかりだ。
隣を見ると、セレスティアが凄い勢いで食べている。
(速い...!)
私も負けじと食べ進める。
5分経過——
お腹が膨れてきた。
10分経過——
(まずい...お腹がいっぱいになってきた)
セレスティアを見る。
余裕そうに食べ続けている。ペースが全く落ちていない。
(なんであいつあんなに食べれるの...)
他の参加者を見ると、大男たちも苦しそうな顔をしている。一人はすでにギブアップしていた。
でもセレスティアだけは、まるで別の生き物みたいに食べ続けている。
(このままじゃ負ける...)
魔王の手がかりが欲しい。羅針盤が欲しい。
でも、もう入らない。
(...待てよ)
ふと、思いついた。
(体内の細胞を活性化させ、消化スピードを強引に超加速させる。これならセレスティアに勝てるかもしれない、やってみる価値はある)
(出し惜しみはしない...!)
私は残りの信仰度を全て注ぎ込み、圧縮解放を発動した。
【現在の信仰度:16→0】
お腹の中で、何かが動いた。
(...いける!お腹が軽くなった!)
また食べ始める。入る。まだ入る。
(これなら勝てる...!)
15分経過——
セレスティアとほぼ同じペースで食べられている。
(よし、このまま——)
お腹が、鳴った。
(...あれ?)
なんか、違う感覚がする。
(消化が速い...ということは...)
やつが出てくるのも速い。
(...まずい)
お腹が、ぐるぐると音を立て始めた。
(まずいまずいまずい...!!)
「あの、すみません...」
司会者を呼んだ。
「はい?」
「ちょっと、お手洗いに...」
「申し訳ありません。途中で席を立つことは禁止されております」
「で、でも...」
「不正防止のため、例外は認められません」
「ここで漏らしてもいいってことですか?!」
「構いません」
「えぇ...」
まあ仕方ないよね。ルールだし...
「リタイアされますか?リタイアでしたらお手洗いに行けますが」
「...リタイアで」
私は席を立ち、全速力でお手洗いに向かった。
※
戻ってきた時、大会は終わっていた。
「優勝は、セレスティア選手!」
観客から歓声が上がる。
セレスティアが羅針盤を受け取り、こちらを見てニヤリと笑った。
「お腹、大丈夫だった?」
「...聞かないで」
「ふふ、何したの?途中からすごい勢いで食べてたのに、急にいなくなるから」
「...ちょっと、作戦ミス」
「作戦?」
「気にしないで」
リリアーナが近づいてきた。まだ少し拗ねた顔だ。
「ニケちゃん、大丈夫?♡」
「うん、なんとか...」
「顔色悪いわよ?♡」
「色々あって...」
「セレスティア、優勝おめでとう♡」
「ありがと」
セレスティアが羅針盤を手にしてニヤニヤしている。
「で、これ欲しいんでしょ?」
「...うん」
「どれくらい欲しい?」
「...すごく」
「ふーん♪」
羅針盤をヒラヒラさせる。
「魔法書買ってくれたら、譲ってあげてもいいわよ」
(まあ、こうなるよな...)
「もう少し安いのじゃダメ?」
「ダメ」
「80万とか...」
「120万」
「100万...」
「120万」
(魔王の手がかりゼロ...折れるしかない)
「...分かったよ」
「最初から素直にそう言えばいいのよ♪」
(なんか今日、同じようなこと言われた気がする...)
セレスティアから羅針盤を受け取った。
金の装飾が施された、美しいコンパス。普通に使えば、北を指すだけの道具。
でも、神力を込めれば——
「ニケちゃん、誰を探すの?♡」
リリアーナが聞いてきた。まだ疑いの目だ。
「...生き別れた弟」
「弟...?」
「うん。あと妹も何人か」
「何人かって...」
「色々あって...」
私は羅針盤を握りしめ、神力を込めた。
(魔王...)
針が、動いた。
くるくると回り、やがて一つの方角で止まった。
北東。
「動いた...」
「本当に探し人が分かるのね」
セレスティアが感心したように言う。
「弟がそっちにいるの?」
「...多分」
「ニケちゃん...浮気じゃなかったのね...♡」
「だから最初から違うって言ってたでしょ」
(まあ、その道中でたまたま魔王軍の四天王とか魔王とか倒すことになるかもしれないけど...不可抗力だよね!)
「行こう」
私たちは、北東に向かって歩き出した。
【現在の信仰度:0】
※
その頃、ドルチェの町のギルド——
ティアラはギルドの掲示板の前で固まっていた。
「大食い大会...優勝者...」
掲示板には、優勝者の写真が貼られていた。
金髪のエルフ。見覚えのあるあほ面だ。
「このエルフ...!」
あの時、自分を笑った女だ。
「あの時のエルフですね」
モブAが言った。
「そうよ!あの失礼なエルフよ!」
ティアラの顔が真っ赤になった。
「追うわよ!」
「でも、どちらに?」
「いいから追うのよ!」
「は、はい...」
ティアラは担がれたまま、ギルドを飛び出した。
(続く)




