26話 無意識の自覚
謎ポイントについての議論をしたが、相変わらず謎は謎のまま。しかし、服従者との共同作業中に貯まるという大雑把な仮説はできた。放課後は今まで通り、月鉤に使う事に。夕方以降の2時間を貞男に付き合ってもらうのは申し訳なかったので、午後の授業中にカードを使う事になった。
屋上を出て行こうとした所で暗転。そして目の前が一瞬で白くなる。
目の前には例のアンチが。
「さっき振りだな」
「もう大丈夫なんですか?」
「ああ、この前支配した天使を囮にしているから暫くは…と、そんな事よりお前、さっきカード情報を教えていたな?」
「はい…。もしかしてまずかったですか?」
「ああ。カードには簡単な認知機能があって”情報を広める行動を取ろうとした”と判断された場合、自動処理が発動するようになっている」
俺は”広める為”ではなく””教える為”だったから助かったわけか。そういえば、ニュースやネットでそれ関連の情報を全く見かけていない。多分情報を発信しようとした人がカードによって強制的に自殺させられたからだ。
「奴らがお前のような無気力人間を対象にカードを渡しているのは知っているな?」
「はい」
「カードの情報が広まると、対策として無気力人間が改心してしまう恐れがあった。そうなれば、悪魂を安定生産できなくなる。だから奴らは情報が広まるのを防いでいるのだ」
それは納得。ただそうなると、別の疑問も発生する。
もし2人が広めた場合は…?最悪の場合――
俺の焦った顔を見て、アンチが付け加える。
「カード所有者でなくても、広めようとすれば天使に殺される。協力者が減るのは都合が悪いからな。だからこうして伝えに来た」
「あ、ありがとうございます!」
「なぁに、お互い様だ。では、期待しているぞ」
暗転後、現実に戻った所で2人に早速この事を伝えた。どの程度の情報を漏らしたらアウトか聞きそびれたので、とにかく服従カードという名称すらも広めない様にと言ってある。
あ…謎ポイントについても聞きそびれた。
午後、貞男に「授業を真面目に受けてくれ」と命令した上で英語の授業を終える。休み時間で服従を解除した。
「何も記憶にない…」
「でもノートは取っていたぞ」
「ほんとだ、こわっ。…てか、睡眠学習みたいなのを期待してたから残念でならん」
「はは…。でも、これだと勉強しなおさないといけなくなるし、授業中はやめておこう」
「いや、続けるぞ」
「いいって」
「うるせぇ、やれ。じゃないと陸上部に入ってもらうぞ」
「それ脅しに使う?…分かったよ、続ける」
「それでいい」
こうして、申し訳ない気持ちになりながらも日本史の授業を終えた。
このまま貞男に甘えてちゃダメだ。別の時間で使わないと…。とはいっても、早朝も夜も迷惑だし、各休み時間を細切れするみたいに使うのもなぁ。
結局良い案は浮かばずに放課後に。月鉤の「一緒に帰ればよくない?」の声を何とか振り切り、いつも通り彼女には友達と帰ってもらった。そして、彼女が友達と別れた所で合流。そこから彼女の家に寄り、第ニ公園へ。流れはいつもと一緒なのだが、彼女が服従状態でないのと、道中しゃべりながら来たことが大きく違っていた。
「そういえば、何で公園までの移動中は離れていたの?」
「服従させている所を知り合いに見つかったらまずいからだよ。あの時はまだバレていないと思っていたから、途中で解除するわけにもいかなかったしね」
「ふーん。でも、雨の日は近かったよね?」
「雨…あートンネル行った時ね。あれは傘もさしてたし、雨で人通りも少なかったからで…」
「テキトーだね」
「おっしゃる通りで…」
「別に怒っているわけじゃないから。…それより、録画のことだけどさ…続けてもいいかな?」
「もちろん」
何されているか不安だろうし当然だよな。
公園に着くと、彼女はスマホの録画を開始。彼女に合図を送ってから服従も開始した。
服従が終わると、彼女がこちらを見た。
「あ、ご主人様だ」
「おっす…ぐわっ!」
腹に強烈なキックをくらい、仰向けで地面に倒れる。
「”親友3箇条2つ目・隠し事をしない”を破った罰です」
地面で悶えている際中、ゴミを見る様な目で見下される。
「するなって言っておきながら特大の隠し事してたとか、マジあり得ないんですけど。…まぁ私は寛大ですから、これでチャラにしてあげますよ」
「…ありがとう。でも、アレだったら一生許さなくてもいいからね?それだけ悪い事をしたわけだしさ」
「せっかく人がチャラにしてやるって言ってるのにその態度はないわぁ…。で、全部自分でしょい込む的なかっこつけでしょ?…ほんとそういう所、大嫌いなんですけど」
「そっか。なら気の済むまでさっきみたいに蹴ればいい」
つかつか歩いてきて腹の上にお尻からドカッと座る。
「こちとら事情を知ってんの。だから今、いい人が更にいい人ムーブかましてる事にも気づいてんの。これ以上ごちゃごちゃ言わないでくれる? それに反応する度、私が惨めになるんだわ」
口調から敬語が消えているので余程お怒りのご様子。
「ごめん…」
「ほんとだよ…」
彼女はそのまま俺の胸に顔を埋めた。しばらくそうしていたので、余程自分の惨めさが悔しかったという事だろう。結局全ては俺のせいなのにそれを肩代わりさせている様で申し訳なくなった。なので、何か罪滅ぼしできないか聞く。
「あの、さ…こんな状況でなんだけど、何か俺にしてほしい事はあるかな?」
ゆっくりと顔をあげて、こちらの顔を向き『はぁ?こいつ何聞いてんの?』みたいな嫌な顔をされる。
「どうしてそういうのが分かんないかなぁ?ご主人様ってほんと常識ないですね」
「常識なくてごめん…」
「はぁ…いいですか? 目の前に落ち込んでいる人がいます。となれば、”抱きしめる”の一択でしょうが」
「それって変態行為では?」
「そりゃ面識が無い者同士でやったらね? こーいう時にリアルな解答は求めてないの。少しは空気読んでくださいよ」
「は、はぁ…」
「目の前にいるのは親友…そう!親友だったらって話ですよ」
「親友か…熱き友情的な感じかな? それなら分かる気がする」
「そ…そう、それ!そういう感じだからそのていでお願いします」
「…分かった」
彼女が再び俺の胸に顔をうずめる形になる。
「どうぞー」
「うす」
腕を輪っかにして徐々に空間を狭めていく。腕が彼女の髪に触れた時、ふと思う。
「あのさぁ?」
「ひゃい!?」
どうしたんだろ?…まぁいいか。
「男同士の友情ものならガシッと力強くいくイメージだけど、この場合は男女だから優しくいった方がいいよね?」
顔をゆっくりと上げ、こちらを睨んできた。
「よくこの場面でそういうくだらないのを聞けますね」
「ごめん。どうしても気になっちゃって…」
「これだからこのバカご主人様は…。もちろん聞くまでもなく優しくいくに決まって…いや、案外強い方もありかも知れない…。え、待って?むしろ強い方が――」ブツブツ
どっち?とりあえず、”もちろん”の方が確実だからそちらでいかせてもらおう。
腕と彼女の間に隙間がなくなり、腕が彼女の体の弾力を抑え込み過ぎない様にそっと包む。
「え?うそっ、このタイミングで? もー…バカぁ…」
彼女はまたブツブツを始めたが、時間の経過と共に静かになっていった。反対に彼女の鼓動は早くなっていた気がする。
そういえば、さっき部分的にだけど”大嫌い”って言われたっけ? にもかかわらず、この親友ムーブは…。
嫌いな所があっても、それを受け入れてこその親友。彼女はそれを立派に示した。
最初の頃“俺が親友を教えてやる”みたいにイキってたのが恥ずかし過ぎるな。今やこっちが教えられる側になってるじゃん。…もっと頑張らなきゃな、俺。
そう思わせてくれた想いを彼女に伝える。
「今日はありがとね、翠」
彼女は服をギュッと掴んだかと思えば、「ばーか」と呟き、顔を胸にグリグリと押し付けてきた。
風はたまに強く吹いたが、互いの体温交換もあってそれ程寒さは感じない。むしろ、ちょっと恥ずかしくなって上がった体温を冷ますには丁度良かった。
この後は走ってから雑談と、いつも通り過ごす。帰り道も雑談するのは違っていたけど。
彼女を家まで送ってから買い物へ。その帰り道、泉奈の後ろ姿を見つけた。
部活、結構遅くまでやってるんだな。まぁ大会近くなるとそうなるか。
帰りの方向は一緒だが、見つかると厄介なので、結果的に尾行するような形で帰る事に。そうして彼女に注意を向けていると少し違和感を覚える。
何か歩き方おかしくね?少しずってるというか…。
ただ、それはほんの数秒程度。あとは快調な歩き方だったので、気のせいだと思う事にした。
◇◇◇
家に帰り、シャワーを浴びてから録画した動画を観る。すっかり定着した私の習慣であり、楽しみの1つ。
本日の動画内容は過激だった。“私”が開始早々、キック一発で彼を打ちのめしたかと思えば、マウントを取り、そこからなぜか抱擁してもらうという怒涛の展開だったから。
この“私”の破天荒振りに驚く。やはり“私”は別人格のようなものだと再認識…しようとしたが、ふと昼休みの出来事を思い出す。
神童君が服従状態でもすぐに江口君だと認識できたのは記憶の片隅に彼の記憶があったから…。そういえば、服従中は無意識で行動してるんだっけ…。ん?だとしたら、私も無意識って事だよね?
無意識。あらゆる束縛を取り払って、自由気ままに行動するという事。
つまりそれは――
ほぼ本心で行動してるって事だよね?って事は、“私”は私のやりたい事をしていたわけで……はっず!今までの全部私の願望かよ!
“私”の行動を思い出しては恥ずかしさで悶えまくる。今日はこれ以上動画を観続ける事ができなかった。
夕飯を食べ、部屋に戻ってからもまだ精神が不安定だったが、気になる事があるのでそれは済ます。
『生きてる?』
『もちろん』
『良かった』
『心配ありがとう』
『いえいえ』
『今日のランニングの時、筋肉痛の影響だと思うけど動きに無理な感じ出ていたから、家でも軽くストレッチしとくといいよ』
『心配ありがと』
『いえいえ』
その後も他愛のないやり取りをして互いに『おやすみ』を送る。気になる事が解決したので、ストレッチをしてから、残る恥ずかしさと戦いながら就寝した。
1章の読破、お疲れ様でした。1章は話を展開させる上でカード関連の説明がどうしても必要になり、つまらない話が多かったと思います。
2章は過去編。泉奈の話がメインで、そのついでに千汰の過去が掘り下げられます。7万字くらい書けたらまとめて投稿予定。三カ月くらいかかるので気長にお待ちください。




