22話 親友(仮)の地獄行
『親友だからに決まっている』
この子、いきなり何言ってんだ?“それ”は服従状態の時だけの関係だろ?すぐ訂正しなきゃ――
「俺は君の親友じゃない」
「いや、親友だよ。…だって、そういう事なんでしょ“ご主人様”」
「はい…?」
どうして“それ”も知っているんだ?
頭の中がパニック状態でも彼女の話は続く。
「“親友に隠し事はしない“だったよね」
「…どこでそれを?」
スマホの画面を見せられる。そこには俺が映る動画が流れていた。彼女の家から公園に向かう姿が。
「隠し撮りしてたのね。そっか、それで…。…あ、だからジャージを着る様になったのか」
「そうしたのは “私”だけどね」
「…?」
「とりあえず、これで隠している理由もなくなったでしょ。いい加減話してくれるかな、“全部”」
「…分かった。ただ、嘘みたいな話だからツッコミはなしでお願いしたい」
「うん、それが本当の事ならね」
目をジッと見られた。人付き合いをこなしてきた彼女だからこその“嘘をついたらすぐに分かる”という警告だろう。
まず俺はポケットからカードを取り出し、彼女の手に持たせた。
「それは服従カード。君からみたらただの黒いカードに見えると思うけど、持っている事で一人だけ支配できる――」
そこから、カードのルールや手に入れた経緯(天使の事)、なぜカードを使ったかの理由を話した。その間、一切視線のブレや表情の変化が見られなかったので、嘘だと疑っていない事が分かる。
普通疑うんだけどな。何が月鉤さんをそうさせているんだろう。
そんな事を考えつつ話しを続け……
「―—今日で使用期限が切れるから地獄行ってわけ」
「急!何でそういうのをすぐに言っとかないかなぁ、もー!」
「…今でこそ多少は面識有るけど、1カ月前のほぼ面識ない状態でそれを話されたって引かれるだけだと思ってね」
「いや、ちゃんと私を助けてくれる理由を話してくれてたら納得してたし!マジ隠してた期間無駄じゃん。話してくれてたら2人で何かしらの対策を考えられたかもしれないのに」
「はは、そうかもね」
「『そうかもね』じゃないの。他人事みたいにして…。そういう所嫌い!」
「ごめん…」
なんだかこの感じ、カードを使っている時の月鉤さんみたいだな。
「そーいうの今いいから。ギリギリまで対策考えるよ」
残念だけど、対策なんてできないよ。相手は人外なんだから、人の力程度じゃどうすることもできない。
そんな状況なのに彼女は必死であーでもない、こーでもないをやる。最後まで諦めていない様子。その諦めない理由が自分にあると考えると嬉しくなって、自然と頬が緩んだ。
「何笑ってんの? 明日までまだ3時間もあるんだよ? 諦めずに考えようよ!」
「そうだね」
彼女は長期戦になる事を予想し、家の人に「今日友達の家に泊まるから」と嘘電話する。手口が俺と一緒でここでも笑ってしまった。
その後、2人で意見を出し合うも何の解決の糸口も見つからずに時間は経過。彼女は時間が迫るにつれて焦っていたが、俺の方は落ち着いていた。自分の為に頑張ってくれている彼女の姿を見て、満足していたからだ。
今の彼女なら俺が居なくても十分にやっていける。この1か月で彼女はストレスに対処する方法を身につけたのだから。
「あと1分だし、最後にこれだけ言わせて…。君は1人でもだいじょ――」
「あーウザい!そーいうのいいから考えるの!勝手に諦めんな!」
「はは、その根性があれば何があっても大丈夫そうだね」
「うっさい!」
「あっ、俺が居なくなったら貞男を頼るといいよ。あいつには月鉤さんの事をよろしくって伝えてあるからね」
「は?何言ってんの?江口君じゃなきゃ思い切り話せないから頼りにくいんだって!」
「すぐには無理だと思うけど、何度も話をすればできるようになるはずだよ。だって、俺の時もそうだったんだしね」
「江口君の場合は最初から私が少し気になっ…と、とにかく、江口君じゃなきゃダメなの!」
「ダメじゃない」
「ダメなの!」
「そっか。ならダメなままでいいよ。それでもやっていけるはずだからね」
「無理よ。どこから来るの、その自信」
「月鉤さんが積み上げてきたものから」
「何なのそれ…。意味分かんないよ…」
「分かるはずだけどなぁ」
「分かんない!教えてよ」
「しょうがないな…。それは――」
話そうとした途端、目の前が真っ暗になった。急だったが理解できる。
これはカードの期限が切れたという事。
そして、これから自分が地獄に行くという事。




