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18話 かっこ悪い人

 夜。


 今日確かに彼が家に来た。その後の記憶は曖昧だけど。

 ただ、その時の彼がボロボロの姿だったのは覚えている。


 彼が家に来たのは“私”に会う為。だったらという事で、親に夕方の来客は全て自分が出ると伝えておき

、彼が来たらすぐ録画を回せるようポケットにスマホを入れておいた。フォルダにはその動画が入っている。

 すぐにその動画を再生。部屋で“私”がその姿の理由を尋ねるシーン。喧嘩に負けたと言っていたけど、絶対嘘だ。だって、彼はそもそも誰かにイラ立って喧嘩するような人じゃないし、わざわざ喧嘩を買いに行くような人でもない。なら、別の理由があるはずだ。“私”もそれに気づいている様子。


だって、今のボロボロの彼にしつこく聞くのって悪いし、少しでも負担を減らしてあげたいじゃん?


 それもあって、手当した後も“私”は変に追及せず、静かにしていた。その際に、スマホをテーブルの上に置く。2人の姿が良く見えるように。

 

 彼が急に眠る。おそらく相当疲れていたのだろう。“私”がそれを見ると、自然な動きで彼の頭を自分の頭に乗せた。そして彼の頭を優しい手つき・優しい顔で撫で始める。私もそこに居たらしたと思うので、この行動に何の違和感もなかった。


そりゃ、親友がこんなにボロボロになってればねぇ…。


 親友という言葉が過ぎった事でふと思い出す。親友3箇条の3つ目を。


困っていたら助ける…。もしかして彼は何かから助けてくれたのかな?何からだろう?


 そうやって今日の出来事を振り返ってみてひっかかったのは度柴さんとの会話。


「街歩くだけでよくナンパされるんだー私。困っちゃうよねぇ」

「へぇ、それは大変だね」

「ホントそう。私も翠みたいなフツーの容姿で生まれたかったわ」


 あの時は『自慢乙』って心の中で流していたけど、今は流せない。だって、そこに彼が今の姿になる要因が隠されていたから。


まさかと思うけど、着いて来てくれてたのかな?で、度柴さんのナンパに私も巻き込まれると思って…。でも、夕方会う約束だからわざわざ着いてくるとは思えない。だってそれまで私の家の近くで待っていればいいだけだしね。


 彼があの場に居た確率は限りなく低い。ただ、そうじゃないと辻褄が合わない。


何か確かめる方法は無いものか…。あ、そういえば、遊んでいる時、彼からメッセが入ったなぁ。いつもなら夕方以降のはずなのに、この時間帯も送って来るんだって驚いたっけ。


 動画を停止し、その時に彼から送られた写真を見た。


綺麗な青空だなぁ…ん?あの左端の看板…ヨイシマートって書いてある。この辺でヨイシマートってあの街にしかなかった気が…。


 空の画像は私の送ったものと類似する。彼があの時間帯、あの街に居た可能性は高い。ということは――


「辻褄合っちゃうじゃん。はぁ…、どうしてそういう事を言わないんだろう。そういうのがかっこいいと思っているのかなぁ?やせ我慢しているみたいでめちゃかっこ悪いのにさー」


 思わず本音が呟くように出た。


「かっこわるっ…」


 私は空の膝上を何かの感触を思い出す様に何度も撫でた。

 そうしていると、その感触の持ち主が気になりだした。


そういえば、もう家にはいるよね?というか、ちゃんと帰れたかなぁ?


 気になり過ぎて気づけばメッセを送っていた。


『今何してるの?』

『ちょうど親の説教から解放されて暇してる所』

『何か悪いことしたの?』

『いんや。喧嘩でボロ負けしただけだよ。ただ、それを伝えたら「せめて一矢報いるくらいの根性は見せなさいよ」って』

『その説教なわけね…』

『うん。まぁそんなわけで明日変顔で来るからよろしくね』

『分かった、期待しとくね』

『期待はいらないから』

『えーしちゃうんだけど』

『冷静になって考えてみて。ボコボコ顔の男が現れる姿を。そこに1ミリの期待も発生しないだろ?』

『1ミリはあると思うけどなー』

『脳内定規おかしいって。調整必要だって』

『そうなの?じゃあ、今度調整してよ?』

『資格持ってないからできません』

『へぇーそれの資格ってあるんだー』

『あのー』

『はい何でしょう?』

『何もないの知ってて話広げるのやめてもらえる?辛いんだわ』

『ホント?まだいけると思ってた』

『期待し過ぎ』

『そんなに期待してないよ。1ミリだけだから』

『その1ミリが大きいんですって…』

『1ミリが大きいとか定規の調整大丈夫?』

『ええ、あなたよりは。てか、さっきから拾うのうますぎるんだけど』

『資格持ってるからね』

『それそれ。そういうのうまいんだって』

『あ、どうも。でも、誰でもできるよ』

『出た出た。できる人がよく使う返し』

『出た出た。できる人が自分のハードル下げて相手のハードル上げる卑劣な返し』

『卑劣いうな。てか、的確にエグるのやめて。ダメージ蓄積するから…』

『できる人にそのダメージはあってないようなものでしょ』

『いえ、確実にあるものです。あと、最重要事項。俺はできる人じゃない』

『へぇー』

『そこ流さないでくれるかな?』

『了』


あ、ダメージといえば――


『喧嘩で受けた傷とかは大丈夫なの?』

『大丈夫』

『ホント?』

『ホント!でもさっきの精神的ダメージの方は大丈夫じゃない』

『なら大丈夫そうだね』

『おいっ!まぁいいけども』


一応元気そうで良かった。


 ピコンと鳴る。


『そっちは大丈夫?疲れてない?』


この人はいつも私の心配ばかり。今日くらい自分の心配だけにしておけばいいのに。


『よゆー』

『なら俺もよゆー』

『そーいうの、空元気っていうんだよ』

『( ゜д゜)』

『初めて知りました的な無知ボケはいらないから』

『( ゜д゜)』

『(´・ω`・)』

『よーし、今夜もいい夢が見れそうだ。おやすみ!』

『おやすみ』


唐突に切ったのは疲れてそうな私を気遣ってかな?


 疲れている彼に疲れを取ってもらう不本意な結果になり、少し反省。何せ明日も彼の顔が見られるのが楽しみだ。

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