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10話 親友茶番

 “残り9日”、月曜日。


 放課後。今日は2回目の坂ダッシュの日。軽くジョグした後、お互い10分間の坂往復を耐えきった。全力走なので、日数をいくらこなしたとて慣れてラクになるという事は一生ないだろう。そんなドギツイ10分間が終了し、休憩。出し切って一旦スッキリした頭の中だったが、ふと不安が過ぎる。そしてその不安が明確になってさらに不安が増した。


「浮かない顔してどうしたんですか?」

「…いや、何でも――」

「親友に隠し事は禁止ですよ?」

「……。そうだったな、ごめん」

「ごめんはいいので早く話してください」

「えっと…、今更だけどさぁ、最初俺に『親友になる』って言われた時、嫌じゃ無かった?」

「……?」

「いやっ…その…さ? 初対面の相手にいきなりそんな事言われたら、誰だって嫌じゃん? 何で何も知らない奴と仲良くしないといけないんだって。しかも友達より上位ランクの親友。もっと仲良くするだなんて完全に頭狂ってる奴の発言だろ? ここ最近は、表面上では親友っぽくやれているけど、内心ではめちゃ嫌われていると思って…。だから、それを考えるとついつい不安になってね」

「それがさっき顔に出たと」

「うん…」

「はぁ…」盛大なため息。

「だよね、そうなるよね…」

「何を勘違いしているんです?」

「えっ…?」

「やれやれ、そこからですか。面倒なご主人様です。…いいですか? あなたの言う通り、初対面の相手に親友になれ発言されたら誰でも嫌がります。そうじゃないって事はそうじゃなかったって事に決まっているでしょう?」

「え…? それはどういう――」

「私があなたの事をよく知っていたという事ですよ」

「…はい?」

「最初あなたに会った時、既視感があった。顔や声は分からないのにも関わらずです。変だと思ってその感覚を振り払おうとしても消えなかった。それでも消えないという事は、私の体に染みついているもの…近くでよく見ていたものだと思ったんです。つまり、私とあなたは最初から知り合いだった。それもかなり気心の知れた、ね。違いますか?」

「大きく違うね」

「違うんかいっ!」

「うん。一応知り合いなのは当っているけど、気心は知れてなかったはずだよ。あ、“はず”じゃなくて絶対」

「では、私が最初に感じた既視感は一体…」

「勘違いだったって事になるね」

「う…わ…」たちまち赤面。

「まぁでも良かったじゃん。結果的に今はこうして立派な親友になっているわけだしさ」

「そうですね~って、なるかっ! 超恥ずかしいんですけど。何、何? 私は勘違いを信じて親友やってたメンヘラ女って事? イタ過ぎでしょ!?」

「まぁまぁ。多少メンヘラ要素あった方が女の子として可愛いと思うよ?」

「ご主人様……って、なるかっ! 私をいじらないでください! これ以上傷口広げたくないんですよ」

「大丈夫。だって俺達、かなり気心が知れているから、ね」親指立てて笑顔で歯をキラリ。

「うわぁー!」頭を抱える。

「ごめんごめん、言い過ぎた」

「ふんっ!」腕で首をホールド。

「ぐわわ、苦しい! アップ、アップ!」タップするが締めは続く。

「これ以上傷口が開く前に閉じてやる…!」

「いやいや! 閉じるじゃなくて締めてるから、これっ!」

「一緒でしょう?」

「全然違うって!」


 この後、無事おとされる。が、どこか満足感があった。それは何だかんだ“嫌われていない”という事が分かったからだろう。


 時は流れ―—―。


「ここは…?」

「ようやくお目覚めですか」

「え…? あっ、えっ?」


 場所で混乱したのもそうだが自分の態勢にも驚く。

 上半身だけを起こされ、後ろから抱き着かれる様に支えられている状況。さらに驚いたのは“ようやく”という言葉。この場合のこれは待機を意味する。つまり――


「ずっとこうしてくれていたの?」

「はい。あのままだと風邪をひいてしまうと思ったので」

「ありがとう。だけど、こういうのは――」

「親友の体調を気遣うのは当然の事なので、礼は不要です」

「いや、そうじゃなくて…」


 ムッとされる。顔が真っ赤なので本人も自覚しているはず。そういった恥を耐えてまでも親友の体調を気遣うという信念。これをみせられると、服従させている自分が極めて醜悪に感じる。それが与える心へのダメージは相当なものだ。


情けないな、マジで。


今は反省する時ではない。彼女が恥を耐えきった信念を称える時だ。


「自分が辛いのにも関わらず、気遣ってくれてありがとう」

「……。いえ…本当は――」

「親友の為にここまでできる人はそうはいない。翠が親友で本当に良かったよ」

「……」


 心からの感謝に心からの笑顔を添えて。一応心に届いたのか、黙って聞き入れてくれている。顔を覗き込むと目を閉じてプルプルしていた。


まずいぞ、恥が限界なんだ。急いで離れないと。


 ところが、手に力を入れて立とうにも後ろからガッチリ腕周りがしめられているので、腕がそもそも動かせない。かといって足に力を入れ様にもかかとにしか力を加えられない状態なので、当然立てるわけがない。さらには腰を横に振ろうとも縦に振ろうともビクともしない。ここにきてようやく自分が身動きのとれない状態だったのに気づいた。残す手段は交渉のみ。


最初からそうすればよくなかったか? 俺ってば、間抜け。


「立ちたいんだけど、そろそろ離してくれないかな?」

「ダメです」

「何で?」

「ご主人様が変な事を言うからです」

「そんな事言った?」

「言いました! だからこれはそれに対する……そう!お仕置きなのです」

「はい?」


罪内容が不明なお仕置きほど理不尽なものはないぞ。


 結局理由を何度聞いても「変な事」と言われるだけで進展はなかった。数十分してようやく落ち着いたのか、腕が解放される。締め上げられ過ぎたのか、血管があちこちでドクンドクンと波打っているのが分かった。

 立ってみるとやはり立ち眩みが起きた。クラッとした所でどことなく不安が過ぎる。


何か忘れているような…。あっ、服従の残り時間!


“あと1分”。


あっヤバ…。


「ごめん。用事忘れていたから急いで帰るよ。また明日ね!」

「あっ、ちょっと!」


今日は悪いけどここで解散だ。家まで送れなくてごめん。一応家まで着くところは見届けて帰るから。


 俺は強制解除させる為、全速力で彼女の下を去った。



◇◇◇



あれ? 私何していたんだっけ? あっ、そうだ。走りに行ってたんだった。


 ここは第ニ公園。ボーッとしていたらしく、記憶が曖昧だ。ただ、ランニングをしていたのは何となく覚えている。何で始めようと思ったかは分からないけど、いつの間にかそれをやるのが習慣になっていた。何で習慣って思えるかは、やらないとウズウズして少しだけ禁断症状っぽくなるから。昔は運動嫌いだったのにえらい進歩だ。そう考えると習慣って侮れないのかも。

 毎日運動でクタクタになっているから凄く寝つきが良くなった気がする。そのおかげか、最近頗る調子が良い。頭の中がスッキリして元気が内から湧いてくる感じ。1カ月前とは真逆の状態だ。


1カ月前は毎日が嫌で嫌で仕方がなかったのになぁ。


 家に帰った後、上機嫌でシャワーを浴びて着替え、母と夕飯を食べる。


「最近あの子とどうなの?」

「あの子って?」

「ここ最近家に来ている男の子の事よ」


男の子? 女の子すら呼んだ事ないのに? それも頻繁に来てるっぽい?


「嘘でしょ? 私が家に人を呼ぶだなんてあり得ない」

「何を言ってるの? 今日もあがってもらったじゃない」

「え…?」


訳が分からない。今日も来た? 一体誰が?

 

 この後母に何度同じ質問をしても答えは一緒だった。


 その答えは私がこの家に男子を招いたという事実。更にその子と走りに言っているというのだ。名前は分からないし、顔も分からない。そんな正体不明の人間と普通一緒に行動しようとするか?


 頭を抱えながら自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。


 母の話では私がその男子を連れてきたのは夕方16時頃だという。ちょうど学校が終わって直帰した時の時間帯。で、私の学校の制服を着ていたそうなので、学年は一緒の可能性が高い。しかも直帰だから部活には入っていない子だ。これで大分絞れる……って、アホか私は。母に集合写真を見せれば即解決じゃないか。

 他クラスのは持っていなかったので、後で友達にラインで送ってもらうとして、まずは自分のクラスからいく。

 

 集合写真を握りしめて母の下へ。該当人物を指差してもらう。


「えーっと…あ、この子よ」

「…江口君?」


 面識のある人物。彼がどうしてこの事を黙っているのかが謎過ぎる。というか、そもそも何で私は彼と一緒に居る事を全く覚えていないのだろう。


もしかして彼に何らかの催眠をかけられて記憶を操作されているとか? いや、だとしたらそれっぽい催眠術をかけてくるはず。でも、彼とは話をするだけで、その間は何も変わった事をしてこなかった。まさか話しながらできる催眠とか? …って、そんな漫画みたいな能力あるわけないか。あったらこんな町で静かに暮らしているわけないし……じゃあ、このよく分からない現状は何なの?


 現状分かっているのは、16時以降に私が彼と何かしらの行動をしている可能性があるという事。思い返してみれば、その時間帯だけ頭が妙にボーっとなって記憶が鮮明にならない。確かに何かをしている記憶はあるが、細かく思い出せない感じだ。そのボーっとなっている時を狙われているのならそこにだけ焦点を当てればいい。

 策を思いつく。それはその時間帯をスマホで録画する事。家に着く10分前に録画ボタンを押して制服のポケットにレンズをひょっこり出した状態で忍ばせておく。

録画しているのがバレた場合だけど、一応危害は加えてこないと思う。だって、そのつもりならもうとっくにやっているだろうから。あと、普段の彼の行動からそういう事をするとは思えないというのもある。謎な事をされていて不安なのに、なぜか安心感があるって本当に謎。とにかく、明日はしっかり録画してこんな謎とおさらばしないと。

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