表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

牢獄からの解放

作者: りょう
掲載日:2025/08/24

「はつ、あんた頭いいねぇ。お母さんこんなもんなんにも分からんわ」

 母は娘の100点の答案用紙を見ながらせんべいをかじり、あぐらをかいて言った。はつは、母親が羨ましくなった。自分のように競争しなくても、安住していられるからだ。

 私は私。あんたとは違うんだ。はー。早く大人になって隠居したい。若者らしくないことを、はつは考えた。

 私には私の道があり、世界がある。はつは、普通の女子高生が興味を持つものには目もくれません。それはアイドルや、性、恋愛、スマホ、コスメ、ファッション等です。はつは、朝から晩まで勉強、勉強、勉強です。

 はつは学年トップの成績だ。でも、はつには友達がいない。勉強が出来るという事こそが私のアイデンティティなんだ。負けるわけにはいかない。誰にも、自分にもだ。はつは強くそう思っています。

 勉強ではいつも一番であるという事が、私の存在を肯定してくれる唯一の事だ。だがこの事が極度のプレッシャーになり、はつはいつも追い詰められていた。


「お主、走れるかの」

 はつの頭上で、いきなり話し声が聞こえた。

「ん?」

「お主じゃよ、お主」

 はつは上を向いた。

 仙人みたいな、ハゲた爺さんが雲に乗って浮かんでいる。

「うわ!」

「気づいたか。お主、走れるかの」

「走るって、どこへ?」

 はつはドキドキしている。

「天国じゃ。わし、天国から落ちてしもうた。天国へ通じる道を教えるから、走って閻魔ちゃんに話してきてくれんか。神様が足を踏み外して、地上に落ちてしまったと」

「ってことは、おじいさん、神様?」

「そうじゃ」

「へー、びっくりした。神様ってホントにいたんだね」

「で、走るってどこに?」

「この道じゃ。えい!」

 神様が杖を振ると、道が現れました。

「約10キロじゃ。そんなに遠くはないじゃろ」

「まあ。うん。わかった。なんか困ってるみたいだし。じゃ、行ってきます」

「待て待て。わしの身代わりとして、この人形を持って行きなさい」

「ふーん」

「これを閻魔ちゃんに見せればよい」

「わかった」

 はつは人形をカバンに入れた。

「では」

 はつは走り出した。

「すまんねー。頑張ってくれよー」


 振り返ると、もう出発地点は小さくなっていた。

 大丈夫。どんなところに通じているか知らないけど、10キロなんてすぐよ。はつは勉強に追い詰められていた自分を忘れていた。もしかすると、神様が不意に現れた事がはつの警戒心を弱めたのかもしれない。はつは何も考えず、ただ無心で走っていた。


 頑張って神さまの頼み事をクリアしたはつは、ベッドの上で目を覚ました。

 はつは、交通事故に遭い、生死を彷徨っていたのだ。

「はつ! あんた大丈夫!? 眼を覚さないから心配したよー!」

 母親ははつに抱きついた。

「あれ? あたし、たしか天国への道を走っていて……。あ!カバン!」

 夢じゃないなら、神様の人形があるはず。

「お母さん、あたしのカバン取って!」

 やっぱり。夢じゃなかったんだ。

 カバンの中には、神様の人形がありました。

 なんか、いきなりで、刺激的な体験だったかな。うーん。いつもの世界がちっぽけな感じがするかも。無事達成出来たんだし、こんをつめなくても、自分を解放してやっても、意外とやれるじゃん。

 はつは、夢ではあったが、非日常を経験した。日常に縛られることが、いかに小さなことか、思い知った。日常。それは勉強であり、自尊心であり、牢獄であり、精一杯背伸びしたアイデンティティだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ