虎論の剣
コンプライアンスへの配慮を追加しました。
悪しきタイヤキが異世界から現れてから、もう何年になるのだろう?
日常は喪われた。未来を無くした。人々は善悪を捨てた。国境は、もう無い。あらゆる秩序もだ。
あるのは序列。それは暴力で定められる。
「いやぁ!来ないで!」
幼い姉妹は逃げる。
追うのはタイヤキの群れ。
「ギョギョギョギョ!」
禍々しい哄笑。
どちらが善で、どちらが悪か?
それも暴力の質と量で決まる。
必死で逃げる姉妹。幼いがゆえに遅く頼りない。
一定の距離を維持し、タイヤキどもは煽る。それどうした、逃げろ逃げろ、遅い遅い、泣け喚け。
弄ぶのに飽きたタイヤキどもに、姉妹はとうとう囲まれ追い詰められる。
弱肉強食。かつて人が家畜を食料に変えた時のように、タイヤキの暴挙を咎める者は……いやタイヤキは存在しない。人はタイヤキの良心の対象とはならないのだ。
見ている者はいた。人であった。彼らは眼を逸らす。
誰が彼らを咎められる?
庇えば、楯突いたなら、暴力が自分に向けられる。自分だけで完結するならばマシだ。家族、伴侶、友人、あるいは知らない誰かにまで狂気が向けられる。
もはや人類に抗う術は無し。
だが。
「止めたまえ。その子らが、貴様らタイヤキに何をしたと言うのか?」
抗う者はいた。
タイヤキどもが禍々しさをさらに深めた笑みで、新たな獲物を見る。
その人物はBB…………………女性。
Bはバーニングである。バーニングが被っているのは……まあ、そう言うこともあるだろう。よくあるよくある。
そのバーニングバーニング女性は異様な姿であった。
まず和服。あらゆる秩序が崩壊した地球で和服。いったいどこで買ったのか気になるが置いておいて……
1番の問題は左の腰に貼り付いたタンスであった。
「…………………………なんだぁ……そのタンスぅ、邪魔じゃねえのか?」
タイヤキにとって人間は害虫未満の存在。だがしかし、カトンボにタンスがくっついていたら気になる。
「タイヤキは性根だけでなく、視神経まで腐っているようだな」
B……じゃなかったバーニングバーニング女性は、左手をタンスに添えた。
「これは剣さ」
バーニングバーニング女性の右手が掴んだタンスは、鮮やかに頭上に掲げられた。
「虎論流……」
何が起きるのか、とタイヤキどもはバーニングバーニング女性をまじまじと見つめる。
「奥義ッッッッッ!」
めきり。
タイヤキの視界から、バーニングバーニング女性が消えた。
甘い匂い。
餡子、さらにカスタード。
群れの中の1匹が、まるでロードローラーに轢かれたかのようにペシャンコになっていた。
「力任せ……斬」
小さく控えめな声が、タイヤキどもの視界の外から響く。
タイヤキどもは状況が呑み込めない。
「餡子は脳細胞の代替には、ならぬか」
バーニングバーニング女性は、タンスを右脇に構えた。
「虎論流、奥義」
タンスが、一瞬ぶれてバーニングバーニング女性の左肩の上に現れる。
「強めに振って……斬」
餡が、こし餡が、粒餡が、カスタードが、ウグイス餡が、チーズが、なんか餃子っぽいのが、ハムが、その他様々なご当地タイヤキ変わり種が、飛び散る。
「このBBAがッッッッッ!」
生き残ったタイヤキの1匹が叫ぶが。
ジロリ。
「訂正します。バーニングバーニングアフォがッッッッッ!」
「それでよし」
微笑むバーニングバーニングアフォ女性。しかし彼女に容赦は無い。
「虎論流奥義、不意討ち……斬」
赦された、と判断したタイヤキはその一生を終えた。
「なんなんだよお前!なんなんだよ、そのタンスはッッッッッ!」
残されたタイヤキどもは叫ぶ。
読者も気になるだろう。
「剣さ」
バーニングバーニングアフォ女性は理解不能な解答の後、タイヤキを全て狩り尽くした。
力こそ全ての時代である。あらゆる定義は強者が定める。強者がタンスを『剣』と呼べば、それは剣となる。
この場のタイヤキは、皆死んだ。生き延びた姉妹は突っ込むこともできず震え、ただ見ていた人は見て見ぬ振りをした。
バーニングバーニングアフォ女性は、もう孤独には慣れた。
彼女は歩き始める。
この世のタイヤキを残さずすりつぶすまで。
なお、すりつぶされたタイヤキはバーニングバーニングアフォ女性を含むスタッフが美味しくいただきました。
作中に登場するタイヤキはタンスで潰されても食べられる素材でできています。
作中に登場するバーニングバーニング女性は特殊なトレーニングによって鍛えられています。真似しないでください。