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第5話:相席未遂


 翌朝いつもよりテンションの高いリアに叩き起こされた俺は、簡単な朝食を摂り、最低限の身だしなみを整えて家を出た。

 

 ほとんどリアに書いてもらったレポートの確認をしながら、キャンパスへと向かう電車に揺られる。


「――今日の講義は、午前中に2つです。午後からは自由時間ですよマスター。」


「そうだね。SP振るの忘れちゃったし、振らなきゃなぁ。」

 

 車窓に映るぼんやりした自分の顔を見つめながら呟く。俺もリアも既にARCUSの虜だ。


 どんなに技術が発展しても、通勤ラッシュはそう簡単に無くならない。そこそこ混んでいる車内で、俺は苦笑した。やりたいことは山積みだ。




 午前中の講義はそれなりに、真面目に受けたつもりだ。リアに「――帰ろう。」って言われなかったし。


 今まで全く気にならなかったが、学内の共用スペースで、ARCUSの話で盛り上がっているグループをチラホラ見かけた。


 まだリアとしか遊んでいないが、同じ大学の人と協力することが今後あるかもしれない。


 今日の昼食は学食で、手早く済まそうと思う。クリームシチューの残りは夕食だ。


 少しだけ講義が速く終わったおかげで、2人席を確保することに成功した。


 日替わりランチの親子丼を頬張っていると、ゾロゾロと講義を終えた人たちで席が埋まっていく。


「――親子丼美味しそうですね。」


 食べることを覚えてしまった彼女の恨めしい声を無視して、残った親子丼を口にかき込んでいると、落ち着いた声色の美人さんに声を掛けられた。


「席がもう無くて、ここ座って良い?」


 ウェーブのかかったブラウンの髪。明るい琥珀色の瞳は知的な光を湛え、形の良い唇は微かに微笑んでいる。


 爪の先まで手入れが行き届いた、白く滑らかな肌は、隙がなく美しい。シンプルなデザインのワンピースは、彼女のすらりとした体型を際立たせ、都会的なセンスの良さを感じさせる。


「…………、ちょうど食べ終わったところなので大丈夫ですよ。」


 あまりに綺麗で、少し返答が遅れてしまった。もう少しゆっくり食べれば良かったという後悔が、俺の足を地面に縫い付けようとする。だがしかし、悠真は席を立つことに成功した。


「――マスターって初心ですね。」

 

「うるさいわい!」


 


 ガラガラな電車に揺られて30分。帰宅した俺は、最低限の家事をこなして、リアとともにARCUSにログインした。


「まずはステータスのステ振りをしなきゃだ。」


===============================

Name:ルカン

Job:見習い錬金術師

Lv:3

HP:16

MP:16

STR:3

VIT:5

INT:3

MND:5

DEX:13

AGI:8

LUK:3

SP:0

Rスキル:《魔改術》

Uスキル:《》

Jスキル:《簡易合成》《》《》

Nスキル:《DEX強化+》《幻装》《》

Sスキル:

===============================


「こんなもんかな。」


 職業が『見習い錬金術師』になって、Jスキルに《簡易合成》が追加されている。


 そしてSPを振ったことで、《DEX強化+》の1.2倍補正のありがたみが出てきた。


「リアはどんな感じ?」

 

「私は昨日もう1つレベルがあがりましたよ!」


 胸を張って誇らしげに語るリアに思わず笑みが溢れる。そんな俺の反応を見て、すこしムッとした様子だが、ステータスを見せてくれた。


===============================

Name:リア

Job:見習い料理人

Lv:4

HP:20

MP:18

STR:12.1

VIT:6

INT:4

MND:6

DEX:4

AGI:11

LUK:4

SP:0

Rスキル:《美食家》

Uスキル:《》

Jスキル:《料理》《》《》

Nスキル:《STR強化》《連撃》《》

Sスキル:

===============================


 俺と同じく職業が『見習い料理人』になって、Jスキルに《料理》が追加されている。Nスキルの《料理》が移動した形で枠が1つ空いている。


「『ウサギ肉の唐揚げ』以外にも、『ウサギ肉の串焼き』もご用意しました!」


「おぉ!ありがとう!」


 料理のバリエーションが多いのは素直に嬉しい。現実で食べるのと差がない分、ちゃんと飽きがやってくるのだ。 


「では、今日は『ファストの平原』のフィールドボスを倒しに行きましょう!」


「フィールドボス?」


「マスターは勉強が足りていませんね。フィールドボスはそのフィールド1番強いボスです。初討伐時にSPを1つ貰えるらしいのです。」


「それって俺らで倒せるの?」


「さぁ?……格上を倒すと経験値もその分おいしいらしいので提案したまでです。」


 まぁ、このために俺が寝ている間に素材集めしてくれた、みたいな所があるはずだし、付き合うことに決めた。




 門を抜けて平原へ出ると、戦闘を避けつつ、その最奥へと向かう。途中で塩味の串焼きを頬張り、バフをかけておく。唐揚げも旨かったが、コレも中々イケる。


 進むにつれて、少しずつ雑草背丈が伸びている。


 腰くらいまで伸びた雑草を折り倒しながら進んでいると、少し先に1本の立派な角を生やした、普通の突撃ウサギより2回りほど大きな、ウサギを発見した。


「いましたよ。あれが『突撃ウサギ分隊』です。」


 今までとは違う緊張感の中、不意打ちを決めるため、背後へと回ろうとした。


 しかし背の高い雑草が邪魔をする。


 ガサガサッ。


 その音に気が付いたウサギ。


「ギョペェェェェ。」


 ウサギらしからぬ雄叫びに、思わず耳を塞ぐ。


 その雄叫びと同時に、7匹の突撃ウサギが現れる。


「だから分隊なのか……。」


 俺の呟きは雑草の中にかき消えて、7匹の突撃によって戦いの火蓋が落とされた。


 雑草に足が取られて動きにくいが、幾度となく見てきた体当たりだ。ギリギリ回避することに成功した。


 リアに関しては、さらにカウンターを成功させ1匹に致命傷を与えていた。


 再びの突撃。俺も気合いで回避行動からの横薙ぎを放つ。致命傷とまではいかないが、2匹にそこそこのダメージが通る。


 リアはさらに追撃をかけて、2匹のウサギを討ち取った。


 手負い3匹を含む5匹では、リアの足を止めることは出来ない。


 さらに俺が、5匹のヘイトをかい、足止めを試みる。

 

「うりぁ!」


 渾身の一撃は、分隊長を捉えることに成功した。


 しかし只の木刀では、首を落とすことは出来ず、ウサギの眼には怒りが宿っていた。


「ギョペェェェェ。」


 再びの雄叫びで突撃ウサギの総数が7匹に戻る。


「おいおい、無限湧きかよ……。」


 俺の呟きも虚しく、第2ラウンドがスタートした。


「手負いのヤツはそのまま……。私が残りの5匹を瀕死に追い込みます。マスターその間分隊長を抑えて下さい。」

 

「了解!」


 みねうちって難しい気がするが、リアならやってのけるだろう。俺は分隊長、ただ1匹に集中する。


 紙のような装甲は、角付きの突撃を喰らえば、一発でHPは消し飛ぶだろう。


 一瞬の溜めを挟み、突撃ウサギよりも素早い体当たり。体躯も大きく、当たり判定がデカい。


 今までと同じように回避行動を取ったが、躱しきれずに、左腕に体当たりを喰らってしまう。


 俺のHPはそれだけで2割を切った。


「やっ、ばい、コレ。」


 リアが合流するまでの時間稼ぎ。目的を明確にして、深く息を吸い、落ち着きを取り戻す。


 そして、ヤツに突撃をさせないために、コチラから距離を詰めた。


 噛みつきや引っ掻き攻撃を躱すことはなんとかなる。


 距離を取られないことだけを意識して攻撃と回避を繰り返す。



 体感時間は15分。実際は5分くらいだろう。全ての攻撃を回避することが出来ず、ジワジワとHPが減っている。残り1割といったところ。


 ドゴォ。


 リアの木剣が小隊長を吹き飛ばした。全ての分隊員を瀕死に追いやった彼女が合流した。


 そこからは、あっという間であった。俺に向かってくる攻撃が純粋に半分になるのだ。回避行動にも余裕が生まれ、攻撃が多くなる。


 それに加え、リアは俺よりも火力が出る。最後の力を振り絞った小隊長の突撃を、リアは身体を捻って躱し、カウンターを叩き込む。


 突撃ウサギ分隊は、キラキラと光の粒子へと変わりドロップ品となるのだった。


「――ファストの平原、エリアボス、突撃ウサギ分隊の初討伐を確認。SP1が付与されました。」


「――熟練度が一定に達しました。スキル《剣術》を獲得しました。」




===☆2=========================

ウサギ肉の串焼き


30分間STR+1


"リア"によって料理されたウサギ肉の串焼き。

丁寧に料理されており、特殊な効果が付与されている。

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