第4話:料理
「おう!ちゃんと戻ってきたなら!身分証明書を見してくれ。」
さっきと同じ門番さんは俺たちの無事を確認して嬉しそうだ。それぞれのギルドカードを差し出す。
「よしっ、問題ないな。それにしても錬金術師ギルドとは珍しいのに入ったな!中々大変だと思うが頑張れよ!」
肩をバシバシ叩かれて激励されるが、事前に何も調べていない俺は何が大変か分からない。首をかしげる俺を見て門番さんも不思議そうだ。
「何がそんなに大変なんですか?」
「そりぁお前、何を作っても本職の下位互換になっちまうんだから、生計立てていくには相当極めないとならないぞ?」
心配そうな門番さんはやはり良い人だ。リアはこのことを知っていたようで、「マスターは私が養いますから!」などとほざいていた。
本当にヒモになるぞ!
さて門が閉まっている夜の間は、錬金術の検証を……、ぐぅ~。俺の腹の虫が鳴いた。
何を隠そうこのゲーム、飯を食わねば死んでしまうのだ。
「ふふっ。私に任せて下さい!」
料理人ギルドへ向かい、300Gを支払って調味料を購入し、100Gで調理場を借りた。
勿論2人で折半だ。2人の所持金は残り300Gずつとなった。頑なに譲らないリアを説得するのに、とても苦労した。
突撃ウサギのドロップ品は魔石(F)と『ウサギ肉』。
「材料が揃っていないので、簡単なものしか作れませんが……。」
そう言いつつも、手際良く一口大にカットされていくウサギ肉。塩コショウで下味をつけて片栗粉に浸けられたそれは、豪快に揚げられていく。
貸し調理場に漂う、香ばしく食欲を刺激する素晴らしい香り。
そう『ウサギ肉の、唐揚げ』だ!
結構な時間ウサギ狩りをしただけのことはあり、ウサギ肉の量はかなりのものだ。
しかしここではインベントリという素晴らしい機能がある。
ほぼ全てのウサギ肉が唐揚げへと生まれ変わり、俺たち2人の腹を満たすのであった。
残りは全てインベントリへ、2日分くらいは余裕であると思う。
この世界の自由度は凄まじく、料理は誰でも作ることが可能だ。しかしリアのように《料理》を持っていると、その完成度に応じてバフ付きの料理となるのだ。
しかしそんなことはお構いなく、唐揚げを美味しそうに頬張る2人の姿は、一部の界隈で話題となるのであった。
さて続いては錬金術のターンだ。……まぁ《簡易合成》しか使えないので、出来ることは限りられている。
実験台となるのは、計46個の魔石(F)。
2つ取り出して《簡易合成》を行うが、何も起こらない。3つ、4つ、5つ、と増やしていくこと10個目。
MPがゴリッと減り、手に持った魔石がピカッと光った。
出来上がったモノは『魔石(E)』。先程よりも一回り大きな魔石であった。
大きな商店で、品揃えはピカイチ。この街で1番大きな商店といっても過言ではないそこは、現地人の評判もすこぶる良かった。
そんな商店で、買い取り金額を確認する。
「Fなら10G、Eなら100Gだよ。」
受付のおばち……お姉さんは、こわーい笑顔で教えてくれた。《簡易合成》しても買取価格は変わらないようなので、魔石(E)を4つ、400Gで買い取って貰った。
「まいどあり。またおいで!」
先程とは違い優しい笑みで送り出してくれたお姉さんに、ブンブンと手を振るリア。このお店にはまた来ることになりそうだ。
まだ夜は明けない。マップを埋めるため夜の街を散歩するのもいいが、現実世界で夕食を済ませることにした。
「俺は夕食を食べるために、一度ログアウトするけど、リアはまだ遊んでる?」
「何をおっしゃいますか。私もお付き合いしますよ!」
ログアウトした2人は、1人分の夕食を用意して、ARCUS談義に花を咲かせるのであった。
今日のメニューはクリームシチュー。豚肉と一口大にカットした野菜を鍋に突っ込み、しばらく煮込んでから、クリームシチューのルーを突っ込む。
一人暮らしの男子大学生とはいえ、これくらいの料理なら出来るのだ。
フランスパンとともにクリームシチューを頂く。温かくてホッとする味だ。
「――とりあえずセカンドの街へ行くのが第一目標ですかね?」
「最前線組がそこで足止め食らってるんでしょ?時間はあるし、ゆっくりファストの街で準備してからでいいんじゃない?」
「――追い付きたい気持ちも捨てきれませんが、マスターの意見も一理ありますね。殆どリアルと変わりませんから、重要な現地人がいたりするかもしれませんね。」
現実世界で2時間程、コチラでは8時間が経過していることになる。すっかり夜が明けたファストの街を抜けて、兎狩りに勤しむ。
ちなみに門番さんは昨日と違う人だった。
お昼を過ぎたあたりで、2人ともLvが上がり、ステータスが上昇した。
昨日作った『ウサギ肉の唐揚げ』を食べて、少しばかりのバフを得る。
これならばなんとかなるかもしれないという、淡い希望を胸に、スライムゼリーを求めてスライム狩りへとシフトした。
「まぁ、これなら及第点でしょうか……。」
「そうだね。ウサギより効率が落ちるけど、スライムゼリー欲しいんだよね。」
スライムゼリーは傷口に塗ると、その治りを少しだけ促進する効果を持っている。調べた訳ではないが、《簡易合成》で回復薬的なモノが作れそうな気がするのだ。
最終的な成果は魔石(F)が26個、スライムゼリーは9個であった。
俺は明日も大学があるため、睡眠を取るためログアウトする。
しかしリアには、睡眠の必要がない。コチラに残って料理をしたりするそうだ。
「マスターおやすみなさい。朝には起こしに行きますから、EaARは枕元に置いといて下さいね。」
「あい。おやすみ。」
ログアウトした俺は、フワフワでフカフカの筐体から、なんとか這いずり出て、寝室のベッドへ横たわる。
なれないVRで疲れていたようで、10分もしないうちに、俺は深い眠りへと落ちていった。
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ウサギ肉
突撃ウサギからドロップしたウサギ肉の塊。
淡白で素直な味わいで、庶民からの人気が高い。
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魔石(E)
魔物からドロップした極小の魔石。
魔石(F)よりも質が良く、多少の使い道がある。
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ウサギ肉の唐揚げ
45分間STR+1
"リア"によって料理されたウサギ肉の唐揚げ。
丁寧に料理されており、特殊な効果が付与されている。
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