第3話:職に就く
本作がリリースされたのは約3ヶ月前、最前線組は次の街『セカンド』に辿り着いてから足踏みしている状態らしい。
今俺たちが何をしているかというと、武器を買いに来ている。初期の所持金は1000G。昼食を食べようとすれば100Gかかる。
工房に飾られている剣や槍は最低でも10000Gから……。
仕方なく隅に纏められていた、一律500Gの練習用に作成された木剣を1本ずつ購入。
「まいどあり!」
筋骨隆々な工房の親父は、こんな買い物でも素晴らしい接客だ。次来る時は飾られている剣を買えると良いなぁ。
武器も購入し、準備万端。ウロウロしながらマップを埋めつつ、街を出るための門を探す。
街の外にはモンスターが蔓延っているため、この街は立派な城壁に囲われている。
マップを埋めながら、門を探したので幾分か時間が掛かってしまった。
「おう!外へ行くのか?」
「はい。モンスターを倒しに行こうと思って。」
きちんと制服を着こなした、50代くらいの門番さんの問いかけに、リアが木剣を見せながら答える。
「おぉ!そらぁ、良いことだ。」
「して、身分証明書は持っているか?無いと中へ入るのに面倒な手続きが、必要になるが……。」
「「身分証明書ですか?」」
俺とリアは首を傾げる。
「やっぱり、異世界からの来訪者さんだったか。」
「1番手っ取り早いのは、この街のギルドに登録して職を得ることで、ギルドから身分証明書を発行して貰えるぞ。」
「ご丁寧にありがとう御座います。ギルドへ行ってからまた来ます。」
「おう!」
手をヒラヒラさせながら、俺たちを送り出してくれた。このゲームの『現地人(NPC)』って普通の人間と区別がつかないな……。
街ゆく人に声を掛け、ギルド通りなる場所を教えて貰った。その名のとおり、冒険者、商人、鍛冶、etc。様々なギルドがズラッと並ぶ。
やはりというか、1番大きな建物は冒険者ギルドであった。俺はてっきりリアは冒険者になるものだと思っていたが、マップの端に捉えた『料理人ギルド』へと一直線に向かった。
カランカラン。ドアを開けると綺麗な鈴の音が響き渡る。
「こんにちは。本日はどのようなご要件でしょうか?」
可愛らしい制服に身を包んだ受け付けのお姉さんは、笑顔でリアに問いかける。
「ギルドへ登録したいのですが。」
「あっ!ご登録ですね!少々お待ち下さい。」
パタパタと音がするような気がする。慌ただしく何かを取りにいった受付のお姉さんは、丸い水晶玉を持って戻ってきた。
「お待たせ致しました。ステータスの登録を行いますので、この端末に手を置いて下さい。」
「はい。お願いします。」
リアの手が置かれると、その水晶は淡い光を放ち、少しの間、明滅を繰り返す。
「ありがとう御座います。コチラが『ギルドカード』になります。料理人ギルドが身分を保証する証になりますから、失くさないようにお願いします。」
水晶が置かれた台座から出てきた、金属製の薄いプレートには、料理人ギルドの紋章とリアの名前が、刻印されている。
この後、ギルドについて軽い説明を受けて、俺たちは料理人ギルドを後にした。
「マスターはどのギルドへ?」
「んぅ……どうしよう。」
プラプラと通りを進んでいくと、徐々に人が少なくなってきた。きた道を戻ろうかと考えていると、ふと、あるギルドが目についた。
おそらくは賢者の石がモチーフであろう紋章、『錬金術師ギルド』だ。
人気が出そうな職業なのに、建物はボロく、閑古鳥が鳴いている。
「ごめんください。」
「んん?……っおぉ!いらっしゃいませ!」
濃い色のローブに身を包んだ若いお兄さんが受付をしていた。久々の来客だったようで、とても驚いた様子だ。
「このギルドに登録したいのですが……。」
「おぉ!本当ですか!」
俺の手を取りブンブンと腕を上下に振る。
「あ、あのぉ、登録を……、」
「あぁ!失礼しました。つい嬉しくて……。ちょっと待ってて下さいね!」
浮足立った様子で、多分水晶を取りにいった彼。
「あれでもない……、ガラガラァ……、これでもない……、ガラガラァ……、あっ、あった。」
雪崩のような大きな音がしたり、彼の独り言はここまで聞こえていた。
「えへへ、お待たせしました。この水晶に手を置いて下さい。」
俺は苦笑いしつつ、手を水晶においた。リアの時と同じように、淡い光がを放ち、明滅を繰り返す。
「ありがとう!コチラが『ギルドカード』で、錬金術師ギルドが身分を保証する証になりますから、失くさないで下さいね!」
水晶の台座から出てきた、金属製の薄いプレートには、ギルドの紋章と俺の名前が、刻印されている。リアのカードとはプレートの色も違うみたいだ。
テンションが上がってしまった、彼のギルドについての説明はそこそこ長く、リアの機嫌は少しだけ斜めになった。
満を持して、再び門へと向かう。
「ちゃんと登録できたか?」
「「勿論!」」
「そりゃ何よりだ!夜には門を閉めちまうから、ソレまでに戻って来いよ!」
門番さんの注意を有り難く受け取りに、遂に俺たちは、初戦闘へと洒落込むのであった。
門を出てすぐの平原では、青色の半透明な見た目の『スライム』と、一見可愛らしいが体当たりが重い、『突撃ウサギ』が、主な魔物だ。
現実のダンジョンでも出現するらしく、このゲームを練習に使っている人もいるらしい。
俺等の初戦闘はスライムが3匹。
スライムの体当たりはとっても遅く、AGIに振っている俺たちは、難なく回避することが出来た。問題は中々倒れないこと。
物理攻撃に耐性があるようで、2人でタコ殴りにしてようやく一匹といった感じだ。
「マスター、ウサギの方を狩りましょう。」
「あぁ、そうだな。俺もウサギが良い。」
初戦闘終了後、リアがウサギを提案するくらいには、厄介であった。
戦果としては『魔石(F)』が3つと、『スライムゼリー』が1つ。持ち運べる枠には限りがあるが、便利で使い易い『インベントリ』へと収納された。
続いて突撃ウサギ2匹との戦闘。その可愛らしい見た目に騙されて、俺はすごい勢いの体当たりをもろにくらってしまう。
VITに全く振っていないので、一撃でHPが半分以上持っていかれる。痛覚にはリミッターが掛かっていて、「何も無い所で転んだけど、なんとか手をつくことが出来た。」くらいの衝撃と痛みだ。
気を引き締めて、木剣を正眼に構える。
リアは舞うように攻撃を避けてカウンター気味に攻撃を繰り出している。
俺の不格好ながらも力の籠もった振り下ろしは、クリーンヒットとはならなかったモノの、右足にダメージを入れることに成功した。
リアの方は《連撃》の効果も相まって、3度めのカウンターで、討伐を成し遂げた。
右足を引き摺っているウサギの攻撃は、先程よりも断然鈍く、簡単に避けることが出来た。しかし戦闘初心者の攻撃も中々当たらない。
リアがおかしいのだ。あんな、ばかすかカウンターが当たるなんて。
「マスター頑張れー。ウサギになんて負けるなー。」
「うっ、うっさいわい!」
ウッキウキで煽ってくる彼女に対して、息も絶え絶えな俺の返答。リアはケラケラと笑っている。
半ば八つ当たりの横薙ぎが、見事ヒットして、突撃ウサギはドロップ品を残して消滅した。
「ふぅー。づがれだぁ。」
「マスターはまだまだですね。Lv上がったら幾分かマシになるでしょうし、もう少し戦いましょ!ねっ!」
ウサギ狩りは夕焼けが綺麗に見える時間帯まで続いた。リアの動きはさらに洗練され、俺の動きは多少マシになったと思う。
「門が閉まる前に帰りましょうか。マスター歩けますか?おんぶしてあげましょうか?」
「……歩けるよ!」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、悩んだのは秘密だ。
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初心者の木刀
ATK:1
初心者向けに作成された木刀。
お値段以上に丈夫。
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魔石(F)
魔物からドロップした極小の魔石。
使い道は殆ど無く、売却額にも期待できない。
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スライムゼリー
スライムからドロップしたヒンヤリとしたゼリー。
傷口に塗ると、少しだけ治りが速くなる。
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