異世界ママの子育て日記 うちの息子、天才すぎて手に負えない!
異世界ママの子育て日記 うちの天才息子が受験でもやらかした
ネイサンが自分の息子のように可愛くて連作書いちゃいました。
「異世界ママの子育て日記 うちの息子、天才すぎて手に負えない!」の続編です。併せてどうぞ。
フェンリル歴 水の月 26日目
朝、目が覚めて隣を見ると、ネイサンがロゼッタちゃんからもらった魔法書を広げ、真剣な眼差しでページをめくっていた。
「まほうしけん、がんばりましゅ!」と、ちいさなお手々で一生懸命大きい本をめくっている姿が可愛すぎる。
3歳の子が試験だなんて、まるで異世界の話だわ、と私は頬杖をつくしか無かった。
そういえば、エルナの息子も急に剣術を習いたいと言い出したらしい。
子供って、時々親を置いていくように成長するのよね。
昼前、ロゼッタちゃんが「練習に来ました!」と元気よくやってきた。
ネイサンは目を輝かせ、「すらいむしゃんとれんしゅーしゅる!」と叫んだ。
私は反射的に家がスライムだらけになる! と叫びそうになったが、なんとか堪えて「森のそばの公園なら迷惑にならないわ」と提案した。激情に駆られて叱らなかった自分を褒めてあげたい。
私は見守りついでに公園に連れて行くと、ネイサンは待ちきれない様子で光魔法を試した。
ポッと光が灯ると、近くにいたスライムがヌメヌメと動き出し、木に絡みつき始めた。
みるみるうちにスライムは巨大化し、枝から粘液が滴り落ちる「スライムツリー」が出来上がった。
「きっっっもちわる!!」と鳥肌が立って叫びそうになった。 (実際ちょっと叫んでた)
でも子供たちは「すごーい!」と歓声を上げている。拳を握りしめなんとか平静を保った。
フェンリル歴 水の月 27日目
昨日、公園の様子を見て安全だと判断した私は、
ロゼッタちゃんの子守の人にもお願いして公園へ送り出した。
洗濯物も溜まっていてあんまり余裕がなかったのだ。
「近所だし周りも見てるからいいよ、ただし少しでも危険なことはしないこと」と言い含めていた。
結果、危険や迷惑こそかけてないものの、大変なことになって帰ってきた。
その姿を見て、私は言葉を失った。
ローブはスライムの粘液でベトベト、靴と靴下は砂利と泥も混ざって汚れ、立派な魔法石のついた杖には粘液が糸を引いている。
貴族様から頂いた大切な贈り物が…。
綺麗な青いローブがヌルヌルと光り、触ると指にまとわりつく感触にゾッとした。
しかし、ネイサンは「楽しかったでしゅ!」と満面の笑み。
その笑顔を見ると、怒る気も失せて、「仕方ないわね」とため息をつきながら洗濯を始めた。
頑張った成果だもの。これが私の仕事よ。
洗濯桶でゴシゴシとローブを擦ると、スライムが泡の中で分裂し始めた。
ヌメヌメとした緑色の塊が、泡の中でぷかぷかと浮いている。
その数、なんと10匹。
泡の中で分裂したスライムが桶から飛び出して、私の顔にペタッとくっついた。
ヌルヌルした感触に『ぎゃあ!』と叫んだら、ネイサンが『ははうえ、スライムしゃんとおともだち!』と大喜び。
「もう勘弁して!」と叫びそうになった時、うちの軒先を通りかかったエルナが「スライム小僧がまたやらかしたか?」と笑いながらやってきた。
彼女は慣れた手つきで炎魔法を放ち、スライムを焼き払ってくれた。女神様ね。
うちはもうエルナなしでは生きていけないかもしれないレベルでお世話になっている。
後日エルナにはとっておきのスライムゼリーを贈っておこう。
「次からは気をつけてね!」とネイサンに言い聞かせたが、「スライムしゃん、きれいでしゅ!」と無邪気に笑うばかり。
私は脱力し、ただただ空を見上げる。
スライムが焼ける匂いとパチパチという炎の音が耳から離れない気がした。
フェンリル歴 水の月 28日目
ロゼッタちゃんが「制御魔法」の練習のためにやってきた。
ネイサンは「せいぎょ、むずかちいでしゅ」と眉をひそめながらも、小さな光の玉を浮かべることに成功した。
柔らかなオレンジ色の光が部屋を照らし、彼の小さな顔を明るく照らした。
「ネイサン、天才!すごぉい!」
私は思わず声を上げて拍手した。
しかし、調子に乗ったネイサンが「もっとおおきく!」と光を膨張させると、庭のスライムが反応して分裂してしまった。いつものパターンだ。
ヌメヌメとした緑色の塊が芝生を這い回り、ロゼッタちゃんは「ネイサン様、独創的ですね」と苦笑い。
もう慣れてしまった私は、スライムより彼の可能性に胸が熱くなり、「すごいわ、ネイサン!」と褒め称えた。もちろん、ちゃんと後で叱ったわ。
でもやっぱりうちの子、天才だと思うの!
フェンリル歴 水の月 29日目
試験が近づき、期待と不安が入り混じる日々。
援助が受けられれば生活は楽になるだろう。
ネイサンのこれからのために少し貯蓄が増やせるかもしれない。
しかし、失敗すれば貴族たちの笑い者になる。
ネイサンは「スライムしゃんとまほう!」と楽しそうに魔法書を読んでいる。
私は「スライムは絶対にダメよ!」と念を押したけど多分出すとは踏んでいる。せめて被害が甚大になりませんようにと神に祈った。
夜、前々から準備している荷物にスライムを隠している気配がした。「見つけたら叱らなければ…」と思ったが、あのつぶらなお目々で見つめられたら、きっと何も言えなくなってしまうだろう。
何かやりたいことがある様だし、その結果落ちたとしても彼の前途はまだまだ明るい。
この国の貴族様は庶民に優しいので、ネイサンがスライムでやらかしたって大丈夫なことを私は知っている。
葛藤の末、私は見て見ぬふりをした。
寝る前に「特訓頑張ってね」と優しく声をかけ、寝かせた。
ネイサンの寝息を聞きながら、栗毛のふわふわな髪の毛を撫でる。そうして、「愛おしい子、ネイサンはわたしの宝物よ」とむちむちのほっぺにキスをした。
フェンリル歴 水の月 30日目
試験当日のお弁当を作るため、朝から市場へ向かった。
鶏肉売り場に着くと、銅貨5枚という値段に眉をひそめた。
高ッっ! と呟きながらも、ネイサンの成長期を思い出し、思い切って購入した。
店主が「キノコなら銅貨1枚だよ」と教えてくれたので、それもカゴに入れた。茸を食べると風邪を引かなくなるらしい。
家に帰り着くと、ネイサンが「スライムしゃんにえいよう!」といつもの如く、光魔法でスライムを増やしている。
キッチンはヌメヌメとした緑色の塊で埋め尽くされ、足の踏み場もない。
急いでキッチンの炎で松明を作って、スライムを焼く。
こういう時、細かいところはもう後でいいのだ。
弁当を作る前にこんなことってあんまりだと叫びそうになったが、今日は試験前日だ。
怒ってモチベーションに影響してほしくない。
なんとか気持ちを落ち着かせた。
鶏肉を焼き、キノコスープを煮込む。
ジュウジュウと肉が焼ける音、コトコトとスープが煮える音、そして漂ってくる香ばしい匂いが、私の心を癒してくれた。
完成したスープをネイサンに飲ませると、「ははうえ、おいちいでしゅ!」と目を輝かせる。
その笑顔を見た瞬間、疲れが吹き飛び、心の底から喜びが湧き上がってきた。
ネイサンの大好きなスライムゼリーも弁当箱に詰め、「試験、頑張ってね!」と心を込めて当日の鞄に入れた。
フェンリル歴 水の月 31日目
試験当日、会場は豪華な大理石の広間だった。
天井からは水晶が吊り下げられ、キラキラと輝いている。
貴族の子供たちは、金糸のローブや宝石の杖を身に着け、自信に満ち溢れた表情をしていた。
一方、ネイサンは普段のまま。違うところといえば私が一生懸命洗った制服を着ている。
慣れない洗濯の糊付けを頑張った甲斐があって1番シンプルな装飾なのにシュッとして見える。
親の贔屓目かしら。浮いていないかしら。
私の心配をよそに、ネイサンは呑気にロゼッタちゃんに手を振っていた。
試験の内容は、光魔法で的を照らすというもの。
ネイサンは隠し持っていたスライムを出し、「ともだちでしゅ!」と光を当てた。
すると、スライムはヌルヌルと分裂し、30匹に増えてしまった。
会場はパニックになり、貴族たちは「汚い!」と叫びながら椅子の上に飛び乗る。
私は「やっぱりこうなるのね…」とため息をつきながらも、彼の無邪気な笑顔を見て、「まあ、ネイサンらしいわ」と諦めた。
金髪の男の子が『僕のローブが汚れる!』と泣き出し、女の子が『スライムなんて初めて見たわ!』と目を輝かせてた。
私、どっちの気持ちも分かるよ……。
スライムが会場を埋め尽くす中、ネイサンは「まほうでせいぎょしましゅ!」と光を操り、スライムを一か所に集めた。
光が虹色に揺れ、スライムがプルプルと震える様子に、試験官は「独創的だ」と拍手を送った。
あんなにキモいのが褒められるなんて魔法試験管の人もしかしたらズレてるのかもしれないが今は有り難い。
それに息子が褒められて私まで笑顔になっていた。
試験が終わり、しばらく個室で待っていると結果発表の人がやってきた。
ネイサンは特別賞として「魔法才能認定」を受け、援助が決定したらしい。
ロゼッタちゃんは「ネイサン様、最高です!」と抱き着き、私はといえば喜びと疲れでなんだか涙が出てきちゃったわ。
フェンリル歴 水の月 32日目
昨日はバタバタしていて先に寝ていた夫ジョーイに朝合格を知らせた。
合格聞いた瞬間、ジョーイは思わず叫び、ネイサンを抱きしめて頬ずりをした。
ネイサンは目を丸くして、きょとんとしていたけれど、すぐに理解したようで、満面の笑みを浮かべて「やったー!」と飛び跳ねた。
その様子を見て、私もジョーイも目頭が熱くなった。
ジョーイは嬉しそうに笑い、「今日はとことんお祝いだ!」と言って、ギルドまで走り休暇をもぎ取ると、急いで帰ってきた。
そして、近くの草原へネイサンと二人で駆け出し、色とりどりの花を摘んできてくれた。
部屋中に花が飾られ、まるで春が来たように華やかになった。
食卓には、ネイサンの大好きなスライムゼリーを巨大な型で作り、その上にたっぷりのクリームと、市場で安く手に入れた色とりどりのフルーツを飾った。スライムゼリーがプロ級の味になってきた。
メインディッシュは、奮発して買った丸鶏を豪快に焼き上げたものだ。
皮はパリパリ、中はジューシーに焼き上がり、食欲をそそる香りが部屋中に広がる。
添え物として市場で手に入れた新鮮な野菜たち。色とりどりのきれいな野菜を慣れないながら丁寧に飾り切りして添える。
今日は特別な日だから、ハーブやスパイスをふんだんに使い、香り高いソースで和えた。
ネイサンは、頭を打ってから好き嫌いがなくなったので、何でも美味しそうに食べてくれる。
その姿を見ていると、嬉しくて涙が出そうになる。
「たくさん食べて、大きくなるんだぞ」
ジョーイがそう言いながら、ネイサンの頭を撫でた。ネイサンは「うん!」と元気よく答え、山盛りのスライムゼリーにスプーンを入れた。
その笑顔で私たちはお腹が一杯よ!
食後、おなかがパンパンの私たちは腹ごなしに近くの公園へ散歩に出かけた。
夕焼け空の下、ネイサンはジョーイと手をつなぎ、楽しそうに笑いながら歩いている。
その光景を見ながら、私は心から幸せを感じた。
フェンリル歴 芽の月1日目
援助の銀貨10枚が届いて、家計が一気に楽に!
しかもこれは、週ごとに届くらしい。
ネイサンの騒動で今までお世話になった人へのお礼と、ネイサンの学費に充てることにした。
そのお金を届けに来た先生が「ネイサンを魔法学校の寮に」と提案してきた。
庶民の息子を貴族社会に送りだすのは不安でたまらない。
貴族の冷たい視線や、「スライム臭い子」と笑われる姿を想像して、胃がキリキリした。
エルナに相談すると、「小さい頃、市場で迷った貴族と一緒に魚を銅貨1枚に値切ったろ?貴族も同じ人間だよ」と笑われ、少し気が楽に。
でも、ネイサンが「スライムしゃんとがっこー!」と叫ぶのを聞いて、「学校がスライムまみれになったらどうしよう」と頭が痛くなった。
フェンリル歴 芽の月5日目
合格祝いが終わり落ち着いた朝のこと。
私はふと、スライムゼリーを市場で売るアイデアを思いついた。試作品を作るため、早速キッチンに立ち、鍋に火をかけた。
スライムを煮込むと、あの独特のプルプルとした感触が溶け出し、甘い香りがキッチンに漂い始めた。最初は抵抗があったスライムも、今では愛おしく思えるから不思議だ。いや嘘だ。まだ少し気持ち悪い。でも楽しくなってきているのも事実だ。
「ははうえ、すごいでしゅ!おいちそお!」
ネイサンが小さな手を伸ばし、スプーンを握って手伝おうとする。その姿を見ていると、胸が熱くなり、私も何かやれないかとやる気が湧いてくる。
「これが売れたら、銀貨になるかも!」
そう思うと、未来への希望が湧いてきた。
スライム小僧ネイサンの母ちゃん、頑張るぞ!
スライムを友達だと言って、いつも一緒にいるネイサン。そんなネイサンの行動に、私はいつも振り回されてばかりだった。
でも、ネイサンのおかげで、私は新しい自分を見つけることができた。
スライムゼリー作りも、その一つだ。最初は気持ち悪いと思っていたスライムも、今では私たちの毎日のおやつだ。それにしてもネイサン、飽きないのかしら。
ネイサンがどんな大人になるのか、まだ想像もつかないけれど、どんな未来が待っていようと、私はネイサンと一緒に歩んで、支えていきたい。
だって、私はネイサンの母ちゃんなのだから。
如何だったでしょうか。今後の励みとなりますので、感想、リアクション、評価、レビュー是非お願いします!