第6話 あの空は上海に続く
- 東京の郊外 私鉄沿線のとある街 -
古いアパートから、錆びた階段を鳴らして、男が降りてくる。
手にはビアグラスを持っている。
アパート前の6m道路に出て、細い三日月を眺める。
手を頬にあて、「んー?」と少し考えたあと、「ハっ!」として、月に背中を向ける。
顔をあげ、夜空を眺め、穏やかに微笑み、そしてグラスを掲げる。
「チュンチュン。27歳のお誕生日おめでとう」
「チュンチュン、お前が今、誰と一緒にいるか分からないけど、俺は、今もここにいるぞ。まだ、一人でいる」
「チュンチュン。俺な、お前から自由になって、5年もたったのに、なんかバカみたいなんだけどさ、ウソみたいなんだけどさ、……俺、今でも、まだ、お前だけを愛しているんだ」
男は、グラスのビールを一口飲み、少し目を伏せて考え、そして再び空を見上げる。
「チュンチュン、俺もいつまで待てるか分からないけど、約束まではできないけど、‥‥‥今度会えた時に、もし、お互い一人だったら、今度こそ一緒になろうな」
男は、小声でそう囁ささやいて、西の夜空に向け、もう一度グラスをあげた。
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細い上弦の三日月は、地上の二人を優しく見つめている。
淡い、白い光が、降りそそいでくる。
東京の男にも。
同時に、上海の女にも。