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夢管理センター

作者: 雉白書屋

 夢管理センターというものをご存じですか? 実は、私たちが眠って見る夢は、私たちの脳内にいる住人たちが作り出したものなんです。彼らはその日の出来事や記憶の断片を材料に、まるで料理をするように夢を組み立てます。もちろん、材料が限られているため、良い夢ばかりが作られるわけではありません。時には悪夢も生み出されます。

 でも、基本的には私たちのストレスを和らげようとしてくれているんですよね。まあ、彼らは私たちの中に住んでいるわけですから、当然と言えば当然かもしれませんね。早死にされたら困りますから。

 ……でもね、彼らも長年同じ仕事をしていると飽きてしまうのか、やがて悪夢ばかり作るようになるんです。

 どうしてって? おそらく最初は、単純に面白がっていたんじゃないですかね。ほら、悪夢って刺激的でしょう?

 でも……彼らには他の狙いがあったんです。私が連日見せられる悪夢に疲れ切っていた頃、彼らは夢の中で私に接触してきました。彼らは夢管理センターの存在を明かし、こう言ったのです。


「好きな夢を見せてあげようか?」


 私はその提案を喜んで受け入れました。自由に夢を選べるなんて最高じゃないですか! それ以来、私は宇宙飛行士になったり、異性にモテたり、まるで映画のような冒険を楽しんだり、歌手としてスポットライトを浴びたりと、楽しい夢ばかり見るようになりました。

 ……でも、あるときから奇妙なことが起き始めたんです。

 それは、私が白い浜辺でバカンスを楽しむ夢を見て、目覚めた直後のことです。ベッドから降りたとき、寝巻の裾から砂がこぼれ落ちたんです。私は驚き、夢遊病にでもなったのかと思いました。でも、その次の瞬間、私は“本当に”目を覚ましたんです。どういうことかわかりますか? つまり、その出来事自体が夢だったのです。

 偶然だと思い、最初は気にしませんでしたが、その後も奇妙な現象は続きました。空を飛ぶ夢を見たときは、体が浮く夢を。サッカー選手になった夢を見たときは、ベッドの足元にボールが転がってくる夢を見ました。

 変に思った私はある夜、夢の中で夢管理センターの人たちを呼び出し、どういうことなのか訊ねました。

 すると、彼らは悪戯っぽく笑いながらこう言ったのです。


「余韻を楽しんでほしかったんですよ。びっくりしたでしょ?」


 私は少し不安を覚えましたが、望む夢を見せてもらっている立場だったので、文句は言えませんでした。……しかし、その『余韻』は日に日に長くなり、やがて彼らは現実そっくりな夢を作り始めたのです。

 朝起きて会社に行き、仕事をして……と、普段と同じ生活なんですが、電車の乗客が全員同じ顔のおじさんだったり、犬が「ニャー」と鳴いたり、ポスターや自販機の文字がおかしかったり、馴染みのコンビニの店員さんの口が裂けていたりして、まるで間違い探しみたいに、小さな違いがあるんです。夢の中なので気づきにくい上に、気づいた瞬間に背筋が凍るんですよ。最低の悪夢です。

 彼らがどうしてそんなことをするようになったのか。戸惑う私を見て楽しんでいた? ええ、確かにそれもあるでしょう。でも、彼らの真の狙いは、私に夢と現実の区別をつかなくさせることだったのです。

 ついに、私は起きているときも夢を、つまり幻覚を見るようになってしまったのです。そうです。彼らは私たちの現実に侵食し、思考や行動に影響を与え、私たちを思いのままにコントロールしようとしているのです!

 私は恐怖に震えました。私の夢は、もはや私のものではなくなってしまった……。

 この事実を伝えようとしても、誰も信じてくれませんでした。皮肉なことに、私の話はただの夢だと片付けられてしまったのです。


 あなたは信じてくれますか? それとも、あなたも私をおかしな老人だと思うのですか? でもね、いずれあなたの身にも起こることなんですよ。そのとき、あなたは夢と現実の境界線で永遠に彷徨うことになるでしょう。

 あれ……どこに行きましたか? ああ、そうか。あの人も私の夢だったのか。……あっ、あなたは違いますよね? そうですよね? いいですか、夢管理センターというものがありまして――

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