【第88話 啓一、指揮再開】
友紀たちは無事に全員揃って朱雀寮に帰宅した。誰もお騒がせの友紀と正幸を叱らなかった。
「仲が戻って良きかな」千晶が笑った。
「本音おにぎりの効果で倒れたって、刺激が強すぎるな」幹也は困った顔をした。
「雑巾の話は心温まる話だな」彼方が言った。
正幸と友紀は苦笑いした。
その後、オパと友紀は麻美の部屋でネックウォーマーの続きを編んでいた。千晶が見学に来た。
友紀とオパの編み物は順調だった。凛と麻美もひと作品仕上げていた。凛は彼方にマフラーを編んでおり、麻美はタクトを入れるケースを編んでいた。
「タクトケース?」友紀が尋ねた。
「実はね、啓一が指揮を再開することになったの」麻美が嬉しそうに答えた。
啓一は友紀が合唱団このはで楽しそうに歌う姿を見て、指揮を再開したいと思うようになっていた。そして高橋先生に直談判したのだ。
試しに「春に」を振らせてみた高橋先生は、荒削りだが武史先生から教わった基礎がしっかりできていることを確認した。
武史先生が亡くなってから、啓一は指揮から逃げてコンビニで働いていた。しかし、高橋先生は「それでは麻美を養えないから」と転職を勧めた。
啓一は合唱連盟の事務所で働くことになり、友紀と入れ替わりに合唱団このはに入団した。パートはテノール。ボイストレーナーに「貴重な男だから」としっかり鍛えられ、指揮は高橋先生に教わった。
このはでも頑張り屋で評判になり、結局、啓一は高橋先生の弟子となってもう一度指揮者を目指すことになった。
ある日、啓一はスイリュウと高橋先生と一緒に、武史先生のお墓にお参りした。
武史先生の霊が現れた。「指揮者の道は厳しいが、しっかり高橋先生のいうことをよく聞いて頑張れ。霊体になってもこれからも見ているからな」
「スイリュウの力は凄いな」高橋先生が感心しながら言った。「俺も長生きするが、スイリュウの力を借りて化けて出てくるぞ」
啓一を脅したつもりだったが、全員ニコニコしている。
友紀の縁が、新たな縁を結ぶことになった。




