【第65話 成美先生の愛情】
友紀はこのはアルト練習に行くことになった。オパと黒龍は、友紀がこのはに行くのはとても楽しそうだと思っていた。
アルト練習は20人+ボイストレーナー。友紀は課題曲の息遣いに苦戦中だった。恩師が練習になかなか来ない日々が続き、「先生はどこか悪いのかな?」と黒龍は思っていた。
友紀は恩師の体調を気遣いながらも課題を消化していった。休憩時間、アルトリーダーが持ってきた梅干しのシロップ漬けを、なかなか取りに来なかった友紀。実は少し友紀は梅干しが苦手なのである。成美先生がシロップ漬けを友紀の口に放り込んだ。友紀は思わず目を見開いた。美味しかったのだ。「美味しかったでしょ。それは夏の暑いときサボらずに練習に来たからご褒美だ。友紀が息遣いに苦労しているならば私の横に来ても構わない。友紀は手を抜かないことは分かるから」と言った。友紀は「教えてもらって良いですか?」と近づきながら歌っていた。友紀の背にリズムを取る先生の温もりを感じた。友紀は泣きそうになりながら練習を終えた。
黒龍は練習後の友紀が違う人物のように感じた。「あなたは友紀だよね?」と黒龍が聞いた。「何を言ってるの? 黒龍さん」とオパが聞いた。「だって愛情を感じて慈愛に満ちた顔をしてるんだもん」と黒龍は言った。友紀は、「成美先生の歌に対する愛情が背中を通じて伝わってきた。失敗を恐れている私がちっぽけに感じた。心を込めて歌うよ」と言った。成美先生は、「友紀のことを愛していることは伝わったか?」と言った。友紀とオパは何度も頷き、黒龍は涙を堪えて上を向いた。成美先生は、「あなたはひとりじゃない。皆で金賞を取るのよ」と言った。友紀は、どんな技術習得よりも幸せな時間だなと思った。友紀は朱雀寮で忘れないうちに、楽譜に書いた。「愛を込めて歌うこと」と。




