【第54話 一つ一つ確実に】
友紀は、アパートで初めて大龍神の夢を見た。
「友紀が頑張っていることは皆分かっている」
大龍神はそう励ましてくれた。実は自分でも気づいていなかったが、友紀はチェック形式で書くと頭に入りやすかったのだ。
「焦りすぎて口ばかりで、実際の仕事が疎かになっていた。それも原因だった」
友紀は反省した。
翌日、友紀は一つ一つ作業を声に出しながら座敷の仕事を進めていった。すると、時々手順を間違えていたことに気づき、手順を書き直した。確実に一つ一つこなしていく。
サブリーダーやリーダーの畳の拭き方を見て、友紀は空いている畳で真似をして拭いた。
「まっすぐ手を伸ばして。頑張れ……」
リーダーが叱咤激励してくれる。
昼休みに、有給休暇を取った正幸が友紀の働く鶏串屋宝尼店に来た。友紀は正幸が来てびっくりした。
「このお店きれいだな」
正幸が店内を見回しながら言う。
「座敷という新しい課題に苦戦中……」
友紀は笑った。
正幸はチキン南蛮弁当を頬張りながら、友紀のノートを見ていた。すると、赤ペンを取り出して一つ一つ確実にチェックを入れ始めた。
「アドバイスは青で書くように」
そう言って書き込んでいく。正幸が整理したノートは見やすくなっており、友紀は感心した。
「線一本で同じノートがこんなに見やすくなるんだなあ」
仕事終了後、友紀は正幸に礼を言った。なぜアドバイスは青なのかと尋ねると、青は記憶に残りやすい色だと教えてもらった。友紀は早速実行することにした。
「拭き方は人それぞれなんだけど、ダスターを全体で持つとまっすぐになるんじゃないか?」
正幸はそう言って、親指と人差し指で挟み、全体で持つ方法を見せてくれた。これで稽古場を拭いてみたところ、片手でも力が入るようになった。
「稽古場がめっちゃきれい」
幹也が驚いて言った。
正幸も一緒に稽古場を拭いた。千晶が友紀の家族に電話をし、彼方が友紀の拭き掃除の稽古中の様子を動画に撮って送った。
「上手くなったね」
友紀の母が言った。
「正幸君は教えるのが上手いな」
友紀の父も感心している。
「悪いことをしたらお店の雑巾がけをやらされましたので……」
正幸が苦笑いすると、朱雀寮メンバーはこれを初めて知ったので大笑いした。
「やっぱり正幸さんは凄いな」
友紀は改めて感心した。
しばらく正幸は友紀の拭き掃除特訓に付き合うことになった。




