行雲
風の強い日のことだった。高いところにある雲は灰色に濁り、少しの雨を降らして水溜まりの表面を丸く揺らしながら瞬く間に過ぎていく。
もう三月も終わりに差し掛かり新生活の始まる十八歳がやって来ると言うのに、世界はそれを喜ばないのか空気は冷たく歓迎の桜はなかなか咲かない。俺はそれに宛先のないため息を吐いてベンチに座る。
風が強いこともあって、吹かれて散らされた雲の隙間から時折太陽が顔を出す。その一瞬の光の温かさに心を任せていると、すぐに影が地面をおおってしまう。切なさにもどかしい気持ちになる。太陽を待ち焦がれる。けれどすぐに雲が覆ってしまう。
あともう一度晴れたら家に帰ろうと思ってスマホをしまった。
虹がうっすらとかかる。太陽の位置とは反対側に。
光を待つ。けれども一向に日は差さない。それもそうだ、あと一度と思った時には遠くから雲の大群が押し寄せていたからだ。
だが不思議と太陽のあるところ以外からは青空が覗いている。そこに青空が欲しい訳では無いのだと心の中で悪態をつく。しかしそれでも太陽は顔を出さない。
もう寒くなって、耐えられなくなって、帰ろうと立ち上がった時にふと気づく。
ああ、俺の人生と同じじゃないか。