神社の肝試し
小学生の時、夏休みに親戚で集まり、食事をしていた時だ。歳の近い従妹達3人と、大学生の叔父と私の5人で夜、肝試しをしようという話になった。場所は家の裏の神社。
「階段を上がって、賽銭箱の横に置いていた懐中電灯を持ってくること。あ、その時に今持っているやつを代わりに置くことな。じゃないと次の人が懐中電灯無くなっちゃうから。懐中電灯は全部違うから、不正は通用しないからな」
一人ずつ行くので、順番を決めることに。私は4番だ。一人目は意気揚々と懐中電灯を手にし。
「じゃあ行ってくるね」
時刻は21時過ぎ。周囲は民家が多いため、民家の明かりも見えるし、声も聞こえる。階段だってそれほど長くはないし、普通に歩けば5分で行って帰って来れるんだ。怖いのが苦手な私は自分にそう言い聞かせる。そうこうしているうちに一人、また一人と戻ってきて……
「はい、じゃあ次ね」
「大丈夫、そんな怖くなかったよ」
いよいよ、私の番になった。怯える私を見かねてか、従妹達が私を励ます。懐中電灯を受け取り、進む。階段を登りきると、一気に暗くなる。小山の上にある為、民家の明かりは低くて見えなくなり、林が周囲の音を遮り、風で揺れる木々は一層不気味だ。
「………」
震えつつも、鳥居をくぐり、賽銭箱へ向かう。あそこの懐中電灯と今持っている懐中電灯を交換したらすぐ戻る。それだけだ。
「あ、あれ?」
だが、賽銭箱の前に懐中電灯がない。話が違う。周囲を見渡すと。
「あ」
賽銭箱の後ろにある本殿。土台を高くしてあるため、下に入ることができる。なぜかその手前で懐中電灯は床下を照らしていた。
「勘弁してよ……」
置いていたのが落ちてしまったのだろうか。床下は真っ暗で、懐中電灯で照らされた箇所以外は何も見えない。恐る恐る懐中電灯を拾い上げ、賽銭箱の上に懐中電灯を置こうと向き直る。
「!」
向き直った時。懐中電灯の照らす方向が変わり、床下の別の場所を照らし出す。そこに、白い何かが見えた気がした。
「え……」
ドクンドクンと、心臓が脈打つ音が聞こえる。ううん、見間違いだ。そうに違いない。懐中電灯を賽銭箱の上に置き、後ずさりしながら、床下を照らすと……何もない。
「……や、やっぱり見間違いだよね」
未だ納得しきれてはいないが、そう言い聞かせる。
「も、戻ろう」
鳥居の方に向き直る。その時。
「う……」
懐中電灯が一瞬、林を照らした時。今度こそ、見えた。白装束を着た女性が、こちらを見ていた。
「!」
恐怖で走り出す。鳥居をくぐり、あとは階段を降りるだけ……
「あっ」
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気が付くと、私は病院のベッドで眠っていた。従妹達曰く、あの時、私は神社の階段から落ちて、特に外傷はなかったが気絶し、呼びかけにも反応しなかった為、救急車で病院に搬送されたそうだ。叔父達は謝ってくれたけど、あれは……事故じゃない。階段から落ちる直前。衝撃を感じて振り返ろうと体をひねった為、私は確かに見た。私の背後で両手を突き出す、白装束の女を。誰もそんな人は見てないし、懐中電灯だって賽銭箱から落ちない様にしたと従妹は言っていたけど……私は、二度と肝試しはしないと誓った。だって……今でも、たまに見えるから。暗がりの中。一瞬、白装束が。
完