(第1話) ネクラでボッチも価値がある?
初めての連載投稿なので、直し直し書いて行こうと思います。生温かい目で優しく見守って頂けたら嬉しいです。
―――――(第1話) ネクラでボッチも価値がある?
ちらちらと木漏れ日が溢れて来るから昼間なのだろう。
わさわさと葉を繁らせた木々は皆背が高くて空は見えない。足元はしっとりと生えた抹茶色の苔にとりどりの落ち葉が散らされてやや薄暗いが、木々の隙間から細い線のように照らす陽光で恐ろしいと感じる程ではない。
むしろ幻想的で、カレンダーやジグソーパズルで観るような名画的な景色と言える。
耳を澄ますと上からはさらさらと葉擦れの音が聴こえ、どこかに渓流でもあるのか遠くに水音と、姿は見えないが鳥や小動物の鳴き声も聴こえる。
「キレイな所だな…」
よほどぼんやりしていたのか、思わず口に出した自分の独り言で驚いてキョロキョロと辺りを見回し、高速でまばたきした後、手の甲で何回も瞼を擦って、もう一度ぼんやり木漏れ日を眺めた後
やっと…身体を起こして自分が横になっていた事にも気付いた。
そして…
「ここどこ?」と今さらだが、はっきり口に出して言った。
…どうやら私は、半分埋もれた巨木の切り株に横たわっていたらしい。ふかふかの苔の上に乾いた落ち葉がいっぱい敷いてあって、暖かいし、ベッドのようで寝心地は悪くなかった。
どこも痛くない。…あれ?
何で生きてるの?
(私は死んだはずなのに…)
…社員旅行で、富士山の麓に来ていた。
今年は富士登山体験が全員参加のレクリエーションに組み込まれていたが、そうは言ってもバスから降りて少しだけ登山道を歩き、五合目で集合写真を撮って終わりという簡単なものだった。
私には背中に大きな傷痕が有るので、毎年行われる社員旅行も、大浴場しか無い宿の場合は理由を付けて欠席していた。
だが、今年は全室露天温泉付きと言うことで、人付き合いも苦手で社内でも「暗い」とか「ノリ悪い」とか影で言われるボッチな私も参加している。
温泉は…大好きなのだ。
なのでこうしてとぼとぼと苔むした石段を登っているのだが、
社長がゴールに先着10名まで賞品を、ビリは宴会で一発芸披露!などと言ったので、けっこう皆が本気で石段を登っていた。
愉しそうに競って歩く社員達から少し遅れた位置に1人で転ばないように足元を見ながら歩く。後から来た受付の女の子グループが追い抜き様にクスクス笑いながら
「うわぁ、暗ぁ…」「あの人いっつも1人だよねー!」
しーしーと口に人差し指を当てて互いに嗜めているが、自分たちが楽しければ、実際に聴こえるかどうかはどうでも良いらしい。
私はキャッキャと、もう違う話題ではしゃぎながら登って行くグループから距離を取るため、肩のトートバッグからペットボトルを出した。バスから降りた所で、幹事をしている先輩から途中で水分補給するようにと渡された物だ。
キャップを開けるとき、ちょっと違和感を覚えたが一口飲んでも特に変化無かったのでもう二口飲んで「ふぅ」と
息を細く吐き出した。
…今度は大きく深呼吸をしてみる。高山特有の薄いが澄んだ空気でなかなか気持ちが良かった。
(富士山登ってると、富士山って見えないんだよねぇ…)
口には出さないが、我ながらアホみたいな感想を抱きつつ辺りを見回す。
普通に歩いて一時間と聞いているので、そろそろ半分くらいか…あまりゆっくりしていたら遅い人達に追い付かれてしまうな…そろそろいかないと。
もう一口、喉を潤して後ろを振り返ったらさっきまで誰も居ないと思っていた少し後ろに先輩がけっこうな速さで来るのが見えた。
「神山!まだこんな所に居たのか?」
急いで来たのか、息を切らせながら近づいて来る。
驚いている私に
「幹事だからさー、後ろの奴らの世話してたんだよー」
「課長やらジジババどもは案の定リタイアしてバスで五合目行ったから、後はコンマ1トンの田山と仲良いグループが居るだけだぞー!」
一言も返さない私を気にもせず、一方的に笑顔のまま話しかけてくる。…この先輩はいつもこんな感じだ。
しかし、ちょっと硬い表情になると、周りを見回して
「神山に、頼みたい事が有るんだ。」
…「何でしょうか」
「誰にも聞かれたくないから、ちょっと来て」
よくわからないが先輩に手を引かれるまま登山道から森の中に入った…。
どうしても今聞いて欲しい!誰にも聞かれたくない重要な相談なんだ!って何回も言いながら珍しく強引に手を引かれ、けっこう奥まで入ってしまった。少し息も切れたし、只ならぬ様子にだんだんと恐怖を感じて立ち止まって声を掛けた。
「先輩?…どう…したん…です?」
その瞬間目眩がしてよろめいた私の腕を掴み、顔を覗き込みながら
「…そろそろ効いて来たか…この辺まで来れば大丈夫かな?」
と言った。
「じゃあ、ここらで大事な話をしよう。」
酷いめまいに立っていられなくなった私から腕を離して、倒れさせ、社内でコピーを頼む時と同じ顔で…
「僕の為に死んで欲しいんだ。」
…優しい先輩だと思っていた。私自身に問題が有るのでお付き合いしたいとか、結婚したいとか望む事は無かったけど、新人の頃から分け隔てなく面倒みてくれる先輩に少しは好意を抱いていた。
それなのに…。
あの時、水分補給しなよって渡されたお茶に何か入っていたのか?、地面に倒れたままの私を見下ろしながら顔の前で手を合わせ…
「許してくれるよな?君にしか頼めないんだ!」
「もう限界まで引き出したし、そろそろバレそうなんだ。」
そう言いながら私の手からバッグを奪い、私のアパートの鍵を取り出す。
「そろそろ耳も聴こえないかな?でも、後の事は任せてくれ。」
「遺書も、横領の証拠も、きちんと僕が揃えて君の部屋に置いといてあげるよ」
…遺書…?…横領…?
ぐにゃぐにゃになる視界とあまりの出来事に倒れたまま何も出来ず…
(意外と辛くないんだな毒殺って…)
などとぼんやり考えていた。
声も出せず、ただ倒れたままの私を見下ろしながら卑しい顔で笑い…
「ここに僕と入る所を見ていた人は居ないよ?僕はこれから皆に追いついて、君が山の反対側に降りて行くのを見かけたって報告するから、旅行は台無しになるけど、君がすぐに発見される事は無いから」
…おそらく私は先輩に横領の罪を擦り付けられたのだろう。
身寄りも無く、独り暮らしで彼氏どころか仲良くしている友達も居ない。それこそ…先輩の目的に最適な人間…。
いつ居なくなっても誰も捜さない女…。
自らそうなるように生きてきたのだ。
それにそんな人生に飽きてもいた。楽しみも無く、痛かったり苦しかったりが嫌という理由だけで自殺もせず、ただ毎日を彩り無く生きてきたが、これで終われるならそれでも良いかも知れない。
悪事に利用されるのは不満だが、私の名誉など死んでしまった後では重んじる人など居ない。私自身が重んじてないのに誰が私の無罪を訴えてくれると言うのだ。
…そんな事を考えながら少しずつ薄くなる意識に身を委せていると…
落ち葉を踏む音?と、獣の息遣い?を感じた。
読んでいただいてありがとうございます。