どうも、私がヒロイン(笑)です
森の中にメリメリ、ドゴーンッと音が響き渡る。
「デカいのが来る! 前衛下がれ!」
「「「おう!」」」
目が4つある熊の魔物、その名も四ツ目熊が根元からポッキリと折れた木を振り回そうとする予備動作を見て指示を出す大柄な男。
それに従い後退する前衛たち。
四ツ目熊が前衛の包囲を抜けて目標へと突進した。
指示役の大柄な男、その横に立つ一見ひ弱そうな私へと。
「領主様! お嬢! そっち行ったぞ!」
でも残念。
私、そんなやわな女じゃないの。
四ツ目熊の後ろで包囲陣を組み直した前衛の声を聞きながら、口角をクッと上げる。
「「任せろ!」」
領主様と呼ばれた指示役と並んで、四ツ目熊にこちらから突撃する。
「跳べ、シャル!」
横で駆けていた指示役が一歩前に出て叫ぶ。
「了解! 背中借りるよ!」
「おう! 思いっきりいけ!」
「うん!」
強めに地面を蹴り、跳び上がってその背中に足を乗せる。
「「せいやっ!」」
掛け声と同時に、二人一緒に勢いよく踏み込む。
「でやあぁぁっ!」
二人分の推進力で四ツ目熊の頭上にまで跳んだ私は、上段に構えた剣を大きく振り下ろした。
ゴシャッッと派手な音を立てて半ば潰れながら割れる四ツ目熊の頭部。
「「「おぅふ……」」」
前衛たちの口からドン引きの声が漏れる。
「はっはっは! 派手にいったなぁ、シャル!」
一人だけ、楽しそうに呵呵大笑している指示役。
「うーん、ちょっと勢いつけすぎたかなぁ」
「これくらい元気な方がいいんだよ、なぁ?」
「元気とはまた別問題な気がするんだけど、俺」
私の肩を叩く指示役に話を振られた剣士が答える。
「つーかさぁ、このメンツ後衛どこだよ。領主様が連れて来るって聞いてたけど」
剣士の言葉にメンバーの得物を確認。
剣士、剣士、槍士。
剣士兼指示役、それから私。
……うん。
いるよ?
「ん? ここにいるだろうが」
ぽんぽんと私の頭を叩く指示役。
「脳筋のお嬢は後衛とは認めない」
「誰が脳筋だ」
私これでも数少ない聖属性の使い手だぞ!
バフから回復、魔法まで、どう考えても後衛でしょ!
確かに、ちょこぉっとだけ、前に出ることもあるけどさぁ!
「そんなこと言うんだったらもう回復してあーげないっと」
「すいませんっした」
鮮やかなテノヒラクルー。
「……でも、今回全く魔法使ってなかったよな」
槍士がボソッと呟いた。
「え、使ってたけど?」
「「「え?」」」
「身体強化」
「「「やっぱり脳筋じゃねぇか」」」
「お黙り」
声を揃えるな。
「パパー、こいつらひどいー」
ひしっと指示役ことパパにしがみつく。
セリフが棒読み?
ははっ、気のせい気のせい。
「おいおいお前ら。あんまうちの娘いじめてくれるなよ?」
このやり取りがお遊びだとわかっているパパは、ニヤニヤしながら乗ってくれる。
「これむしろ俺らがい」
「回復」
「すいませんっした」
とまぁ、冗談はこれくらいにして。
「パパ、これ解体しちゃおう」
「そうだな、魔物どもが寄ってくる前にやっちまうか」
スチャッと腰のホルダーから解体用ナイフを取り出し、四ツ目熊の解体に取り掛かる。
全員がサクサクと手早く作業を進めていく。
もちろん私も手慣れたものだ。
パパに鍛えられたからね!
「お、上手いこと眼球は全部きれいに残ってるな」
「ほんと? 良かったぁ」
潰れてしまった頭部周辺を担当していたパパの言葉に安堵する。
眼球も薬になるとかで、それなりのお値段で買ってもらえるのだ。
といっても、そのお金が私やパパの懐に入ることはない。
半分は私たちに雇われたハンターである三人に、残りは領の運営費の足しにされる。
うちは領持ちの子爵家なので。
「よし、と。こんなもんだな」
パパの周囲には解体後の四ツ目熊が並べられている。
皮は肉から均一の厚さで剥がれ、食用となる肉は傷一つない。
「さすがパパ、早いうえにきれい」
「もっと褒めてもいいんだぞ?」
「すごい! かっこいい! 世界一!」
「ははっ! シャルは俺が好きだなぁ?」
「うん、だーい好きっ!」
うちのパパほど理想的なパパはいない!
そう断言できるくらい、私のパパはすごい。
「パパ大好きって言ってくれる娘欲しいなぁ……」
「その前に結婚だな」
「そのさらに前に彼女作らないとな」
「「「はぁ……」」」
ふはは、頑張るが良い。
「うちの娘はやらんぞ?」
「「「お嬢はいらない」」」
おい。
「か」
「「「すいませんっした」」」
一文字で察したハンターたちによるテノヒラクルー。
せめて回復、までは言わせろよ。
「ギルドに帰るぞー」
「はーい」
「「「了解」」」
四ツ目熊の素材をマジックバッグにしまったパパが歩き出し、その後をぞろぞろと付いて行く。
「パパ、左前方にホーンボア」
「よし」
速攻で走っていき、速攻で帰ってくるパパ。
大きな角が生えたイノシシを担いでいる。
これは解体せずにそのままマジックバッグにしまう。
再び歩き出す一行。
「パパ、右方向にホーンラビット」
「よし」
行って、帰ってくるパパ。
ホーンラビットも解体せずにマジックバッグにしまった。
「あ、スライム。ライトアロー」
スライムはライトアローという名のレーザービームで一撃。
溶けたスライムの中心近くに残された魔石を拾った。
「お嬢の探知がやばい」
「「それな」」
お前ら、ドン引きするんじゃない。
そんな私の現在のステータスがこちら。
はい、ドン!
┅┅
シャーロット・マルティス(14)
職業
子爵令嬢
ハンター
体力 204/226
魔力 412/468
攻撃 94
防御 73
魔攻 103
魔防 97
速さ 98
属性
基本 火、水、風、土
特殊 聖、光、氷、植物、無、時空
スキル
体術Lv.4
剣術Lv.3
棒術Lv.2
杖術Lv.2
弓術Lv.2
馬術Lv.3
錬金術Lv.3
調合Lv.3
解体Lv.4
裁縫Lv.3
探知Lv.5
鑑定Lv.4
詠唱短縮Lv.5
多重詠唱Lv.7
魔力消費量減
体力回復速度上昇
魔力回復速度上昇
称号
転生者
子爵令嬢
銀級ハンター
ポイズンクッキング
脳筋令嬢
聖女的な何か
ヒロイン(笑)
┅┅
相変わらずくっそムカつく称号欄だな。
前半3つはいいんだよ。
問題は後の4つ。
ポイズンクッキング。
こいつのせいで私が作った料理は問答無用で毒物と化す。
料理下手を通り過ぎて毒物。
ひどくない?
脳筋令嬢。
誰が脳筋だ。
思った人は正直に手を挙げなさい。
怒らないからなんてなまっちょろいこと言わずにしばき倒してやるから。
聖女的な何か。
何かって何だよ、何かって。
普通に聖女でいいじゃないか。
領民はちゃんと聖女って呼んでるぞ?
ヒロイン(笑)。
笑うな。
最初、この称号が付いたばかりの頃は普通にヒロインだった。
それが、ある時ふと気付いたら(笑)が追加されていた。
私が何をしたっていうんだ。
とまぁ、一部がねじ曲がってはいるものの。
転生者、子爵令嬢、聖属性、聖女、ヒロインでピンと来たそこのあなた。
そうです、乙女ゲーム転生、ヒロインバージョンです。
私、ヒロイン(笑)に転生してしまったのです!
ざまぁエンドはお断りだ!