序
古今東西、夢に関する文学作品は数多くある。
私の蔵書から夢に関する片言隻語を片っ端から引き抜いてみると、総計百数十篇になった。
その中で私が気になったのは夏目漱石の「夢十夜」だ。一言に夢の記述と言っても、例えば作者が見たものを日記や手紙、小説にした場合と、小説の主人公が見た夢を描いた場合がある。夢十夜は前者であろう。
作者は自分の夢を記述するとき必ず嘘を交えるものだという説があるそうだ。私はそれはそれでいいのではないかと思う。
意図的であれ否あれ自分の見た夢を少しも変形しないで語ることなど、そもそも人間にはできないことなのだと、初めから達観して夢の話に耳を傾けその奇々怪々な幻想に酔ってしまった方が、何倍も有意義ではないだろうか?
ちなみにこの作家の記述する夢には必ず嘘が混じるという説の主張者はポーランドのゴンブローヴィッチだそうである。いかにも皮肉な爺さんらしい意見ではあるまいか。とにかく私は夏目漱石の夢十夜に習い私も自分の夢を小説にしようと思う。
と言っても夢を自在に見ることなど誰にもできないので、寝る前にキャンパスノートと鉛筆を枕元に置き、夢を見た日は起きると必ずそのノートに稚拙で間抜けな文字ではあるが夢の内容を書き止め、その書き残しを見ながら必死に夢の内容を思い出し、小説にまとめてみようと思う。