BIBLE OF THE 13 三日目
―10日前・朝―
私は考えていた。
どう、あの男に復讐しようかと。
「どうしたんですか?シスター。難しい顔をして」
問いかけて来たのは、孤児のアグネスだった。
「いえ、ちょっと…ね。」
「シスター、お飲み物をお持ちしますわ」
「はい」
「では、これを…」
てきぱきとした手つきでアグネスは飲み物を用意してくれる。
「ありがとうございます……うっ…」
「やはり、シスター……噂は本当でしたのね」
「毒を、盛りましたね…」
「はい。薄々ですが、シスターはとてつもない回復力を持っていると存じ上げておりましたわ」
「あとでお仕置きですね。
まあ、それはともかく…正解です。
少し昔話でもしましょうか……長くなるのでディシプルも呼んできて下さい」
黙ってディシプルを呼びに行くアグネス。
二人揃うもなんだかそわそわしている。それは期待か、恐怖か。
「私には以前、恋人が居ました。
それはとても清い交際で、そのまま結婚を約束した関係です。
しかし、79回目法皇の死亡により、その人とはあまり会えなくなったのです。
その人の名前ですか?
「イェクルスナウト・グッドナイト」です。
そう驚くことはないでしょう。職場が近かったのですから。
いわゆるオフィスラブというやつですね。
イェクルスナウトと私を含む四天王を分散させる。その原因を作ったのは、80回目法皇。
79回目法皇が備えていた四天王でしたので、80回目法皇はバラバラにしたかったのでしょうね。
そして時もなく、イェクルスナウトの処刑が倭国で決定されたのです。
どうしてかって?80回目法皇に騙されたのでしょう。
その報せを新聞で読んだ時、私はあの男を追うことにしました。
行き先はヴァルキリーの神殿。目星はついていました。
あの男はヴァルキリーの血と心臓をかい食らって永遠の命を手に入れようとしたのです。
そうして、ヴァルキリーの神殿には案の定、奴と親衛シスターが居ました。
どういう訳か、ヴァルキリーは私に心臓を差し出しました。
そうして、私はそれを食らう事により、不老不死の肉体を得る事が出来たのです。
それからは逃げの一言ですね。
砂漠を彷徨っていたところ、脱水症状で行き倒れになり、ビリーに拾われたのです。
簡単に説明すると、このような感じですね。
さあ、食事の準備に取り掛かりましょう」
食後、日は沈むと同じように…ディシプルはシスターの話を聞いて、いまだ気分が沈んだままだった。
「さあ、消灯ですよ。」
「はい…」
二人は宿舎に帰る。同じくして、アグネスもディシプルとの相部屋に帰った。
ディシプルは精神的に疲れていたのかすぐに眠ってしまった。
さて……この情報を持って帰らねば。
アグネスはディシプルの眠りを起こさないように、窓から出て行った。
「こんな時間に散歩ですか」
「!?」
窓から出た時、照らし合わせたようにシスターは鋭い目つきでアグネスを見ていた。
「いつから、私が法皇側の人間だと気づいていたのです?」
「最初からです。それよりも、アグネス。あなたはこの孤児院を護るすべをディシプルと編み出した。その事も無碍にするつもりですか?」
「裏切る訳ではありませんわ。最初からあちら側だっただけの話」
「では、ここで死んでもらいます」
シスターは詠唱もなく、わざと光の魔法を逸らしてけん制した。
「きゃっ、死ぬのはいやですわ」
「じゃあどうします?せっかくディシプルとのコンビネーションが出来上がりましたのに」
「そこを突かれたら痛いですね。
しばらく孤児院に居ます。ゆっくり考えさせて下さい」
「その言葉に騙りはないと?」
「はい、実はディシプルにも愛着がわいていたところで」
「信じますよ?あの結界を張れるのはあなた達だけなのですから」
「はい…ですわ」
では、きょうはもう寝なさい。次はありませんよ。
そう言い残してシスターは踵を返してその場を去っていった。