嘘つきの俺
夜の10時にタピオカって売ってるんだな。
ぼけっとしながらタピオカの移動車を発見した。ニコニコとしながら並んでいる彼女は少女の様だった。
「ん?」
退屈そうにしている俺に彼女は覗き込む様に目の前に現れ、タピオカのドリンクを差し出してきた。
「飲んだことないって言ってたからっ!美味しいよ♡」
口元までストローを持ってこられたから飲むしかない。見た目が受け付けないんだよなあ。流行っててもさあ。
ズコッ
「詰まった笑笑!!」
「もー笑笑!美味しいのにっ笑笑」
キャッキャっとはしゃぐ彼女。
これで良いのかもしれない。
変な気を起こしてはいけない。
少しだけ歩こうと誘った。
夜の繁華街、人通りも多い。
危ないからと左手を差し出した。
彼女が俺の手を取って、出た。ニヤリ。
くくっと笑ってしまう。
なんだろう、手を繋いでこの笑顔。繁華街だぞ?分かってるのか?分かってないのか?アリなのか?ナシなのか?困惑させてくれる女だなぁ。
「ねぇ、今日ってさ、旦那さんに何て言って出て来てるわけ?」
「ふっ!さっきも同じ事言ってた!酔っ払ってるな?」
「そーだっけ?」
「うん、同級生の友達と飲んでくるって言って来たよ?そっちは?」
「会議の後、同期と飲んで帰るって笑」
「私、嘘ついてないけど笑、私より嘘つきだ♡嘘つく様な事ある?」
「無いよね、今のところ笑」
手を引いたままホテル街を歩く。
躊躇しているのか?彼女は無口になった。
あ、俺もか。色々と、考えてしまっていたが欲望に掻き立てられてしまった。彼女も嫌がってはいない様に思う。しかし平日なのに何故こんなに満室なんだ?
「…帰ろっか。」
「だね。」
駅までの道のり。結構あるな。かなり遠くまで歩いたな。
俺ってこんなダサい男だったっけ?
恥ずかしすぎる。
互いに無口になる。
彼女の使う路線の改札まで送る。どうやら方向音痴らしい。駅が見えて来た。
もうお別れか。次はいつ会えるのだろう。
繋いでいた手をグッと引き寄せ、彼女の深く被っていたキャップのツバの事を忘れて力任せにキスをした。
俺はもう気持ちを止められなかった。彼女が欲しい。それだけだった。
彼女はすぐにキャップのツバを直した。
俺は柄でも無い事をしたなと照れ臭くなりニヤついてしまっていた。怖がらせてしまったかと表情を覗き込んだ。そして
「じゃあ、また。」
と、手を上げた。
彼女はやはり真っ直ぐと俺を見て、えへへと照れ臭そうに笑った。
「うん。」
と、だけ言ってバイバイと手を振り、人混みに消えていった。
柔らかく、生温かい彼女の唇は、俺を悶えさせ、熱くさせた。
こんな気持ちのまま、妻にメールをしなければならないのは複雑ではあるが彼女にまたどうしても会いたい。
そしてもっと近くに感じたい。
その為には家庭に影響があってはならないと真剣に思っていた。