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糸電話  作者: 37
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伝わらない誘い

「会議お疲れ様ですっ!」

上座にふざけた感じで通され、カツンと軽く冷えた中ジャッキを当てて乾杯をした。なんだ?緊張してるのか?ニコニコしてるけど動揺してるように見える。

「なんか…。緊張してる?」

子供が何かを誤魔化すような表情をした。目をくるっと大きくして少し口を尖らせる様な。左側の口角を、ほんの少し上げながら

「うん、だって男の人と二人で居酒屋なんて久しぶりで笑」

キャッキャっとはしゃぐ彼女に俺も浮ついた。

「嬉しいこと言ってくれるねー!」

「え?なになに?どこが??」

「その一、男の人って俺の事、意識してくれる所。その二、男の人と二人でって所。普段二人っきりで出掛けるような異性がいないのかなって安心できる。その三、こんな居酒屋で申し訳ないと思ってるのに久しぶりって笑ってくれる所。かな?」

 あれ?ビールがもう回ってるのか?俺ってこんな饒舌だったっけ?何も無かったかのように振る舞おうとした瞬間。

「…してるよ。…意識。」

彼女は両手で持っていたジャッキをコトンとテーブルに置いた。目線も手の動きと同じだった。しかし丁寧にジョッキから手を離した時、視線を真っ直ぐと俺に向けた。

「うん」

としか言葉が出てこなかった。


俺の携帯電話が鳴った。机に置いてあったからマナーモードでブルブルと振動が伝わった。

「あ、出て大丈夫だよ。御手洗い行ってくるっ」

ビックリした。

仕事の電話だった。

電話が鳴ったことよりも彼女の視線に動揺した。

真っ黒な瞳が美しかった。逸らすことが出来なかった。電話が鳴らなければどうなっていたのだろう。吸い込まれてしまいそうだった。

電話を切って少ししてから彼女が戻った。

 その後は互いの家庭の話、仕事の話をした。俺はこの時、既に彼女の全てを気に入っていた。

 メールのやり取りの時もだが、俺がしない限りはメールして来ない所や、電話の冗談で楽しませてくれる所。何気に気を使って上座を通す所や、乾杯の時、自分のジョッキが俺のジョッキよりやや下の所に当てた所。トイレに立つ時と、戻ってきたタイミングは絶対気を遣っての事だろう。そんな健気な姿勢を見せられたら俺じゃない男でもドキドキと高まる物があるだろう。見た目もとても同級生には思えないくらい、肌も髪も艶があり年齢を感じさせない。同窓会の時は社交的に見えて男にもさぞ慣れてるのだろうと思ってると俺と飲みに来ただけで緊張していたり。

 彼女は一体なんなんだ。

 派手に見えて地味な性格?笑顔の裏は緊張隠してるだけ?よく喋るのは自分を偽ってる?びっくり箱みたいに色々な表情をくれる彼女に望んではいけない事を望んでしまっていた。

 彼女との関係を、この距離を縮めたくなってしまっていた。酒のせいにする様な年齢でもなく、自由に恋を楽しんでいい立場でもない。分かってる。それでも俺は欲しくなってしまった。この健気で、社交的なのに奥ゆかしさを持っている子供の様な彼女の事を。

「今日何時まで平気なの?」

さり気なく時間の確認をする。

「今日はねっえーとね。明日が仕事だからー。」

酔っ払ってるのか?よく分からなくなってる?クスクスと笑っている。

「明日は仕事か。まあ俺もだけど。この後どうする?」

「この後??帰る?でしょ?」

「終電まで一緒にいようよ。」

普通の女なら意味わかるだろうと、かなり緊張しながら言葉にした。

「タピる?」

はい?想像してた返事と違いすぎるぞ???


「タピオカ好き?」


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