生まれてしまった感情
引き過ぎれば切れてしまう。
近付いたら聞こえなくなる。
声も言葉も届かない。
それが私達のバランス。
まるで糸電話の様な…。
「去年の同窓会から気になってたんだっ!」
中学校時代の同窓会の二次会だった。酒も大分回ってる中で突然声をかけてきたその女は、去年の同窓会の後、男達の間では話題になっていた。しかし学生時代に話した事が無い俺達は誰一人として話しかける事など出来なかった。降って湧いたチャンスが俺の元に降りてきた。そんな感じだ。しかしチキンな俺は周りの男達の視線を感じ、
「俺達、話した事あった?」
話した事なんてあるわけ無い。
自分でも分かってるのに白々しい男だ。
「ううん、無いよ?何か問題ある?」
おお〜…。堂々としたもんだ。立て続けに
「言葉が必要なら今話して仲良くなろ?」
彼女からのまさかの言葉に浮ついてしまいそうだ。にやけてしまう口元を腕で隠す。
学生時代から仲の良い男友達が俺も混ぜてと酔った勢いで彼女に話しかける。
「ごめん、やだ笑」
いたずらに笑う彼女に、その一瞬で何かが生まれた。
上手くは言えない。
俺には家族もいるし、彼女も左手の薬指には美しく輝く指輪が光っている。
何かが生まれ、何かが始まってしまったのだ。しかし此処で、それだけで。楽しかった。じゃあまた同窓会で。と、終わらせておけば。何の後悔も無かったのであろう。
心が動いてしまっていた。
「電話番号教えてよ。」
全く別の言葉を発していた。