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桜国記  作者: 槇名新
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伽藍に響く鐘

 大伽藍に鎮魂の鐘音しょうおんが重々しく響く。

 600人の少女たちが、現世の肉体をうしなった少女の魂が無事に天界に辿り着けるように、祈りを込めて歌い、その清廉な歌声が伽藍の堂に満ちる。

 美月は形だけ歌いながら周りの少女の群れをそれとなく観察する。

 中等部の生徒で泣きながら歌っている少女が数多く見受けられたのが印象的で、その後のシスターの話はあまり頭に入ってこなかった。

 聖堂を出て教室へと続く、磨き抜かれた木製の廊下を歩いて教室に入るまで、この学園の生徒らしい慎ましいながらも好奇心を隠せない視線と囁き声を完全に無視して美月は自分の席に座る。

「大変ね、美月も」

 吊り目がちの少女が,その勝ち気な瞳に心配の色を浮かべて美月の前の席に座った。

 中等部1年からずっと同じクラスの更科斗貴子だった。

「もう学園内では凄い噂よ。彼女の死因から、美月との隠れたラブロマンスまで噂話の百花繚乱って感じよ」

 斗貴子はくすくす笑う。

「どうして学園ウチの子ってそんなに妄想力豊なのかなー」

 机に突っ伏した美月の頭を斗貴子が撫でる。

「女の園だから、イマジネーションの刺激になるような事件は何でも好きなのよ」

「斗貴子はあの子――四条清香さんって知ってた?」

「知ってたわ。だって彼女、可愛かったから。もう少し熟れたらお近づきになろうと思ってたのに残念ね」

「この色魔」

「あら失礼ね。女の園に潤いを与える保湿成分と言って欲しいわ」

 斗貴子は婉然と笑う。

「じゃあ、清香さんはどんな子だったの?」

「うーん、確か成績は大体30番前後くらいで、運動は苦手、趣味はレース編みで、かなり本格的な腕前らしいって話を聴いたことがあるけど、やっぱり詳しいのは二宮静佳さんでしょうね」

「二宮静佳――知ってる。下級生に凄く人気にある子だよね」

 美月の脳裏に、静佳のボーイッシュな外見が浮かぶ。

「そう。ここだけの話、清香さんは静佳さんとエスだったって話よ」

 エス。

 女子校ではよくある話だ。

「今日の式でも、彼女凄く泣いていたわ。あと、何でも後で美月に噂の真相を確かめる為に、糾弾しにいくって息巻いてたって」

 美月はその言葉を聞いて、うぁーーーめんどーーーと呻く。

「大丈夫? なんだったら私が動くけれど」

 斗貴子の声に労りの響きが混ざる。

「うん、まあそういうのはいいの。だけど凄い気になることがあるのよ」

 美月は顔を上げると斗貴子を見た。

「何?」

 斗貴子は興味深げな視線を返す。

「清香さんは、殺される理由があったの?」

 美月の問いに、斗貴子は肩を竦める。

「世の中には、奇矯な性癖を持った人間が有象無象といるから、彼女に理由があったかどうか判らないでしょ? 綺麗な女の子が殺されるなんて、今も昔も、どこにでも溢れてるニュースよ」

「それは分るの。だけど、何か変な気がするのよね……」

「第一発見者ならではの見解?」

「その第一発見者って言葉、なんかヘコむ」

 美月が机にゴツンと額をぶつけると、斗貴子が改めて美月の頭を撫でる。

「私が気になるのはね……」

 美月がそこまで言った時、シスターが教室へ入ってきて、言葉は途切れた。

 クラス委員の声で立ち上がって礼をする美月は、言葉の続きを、心の中で呟いた。

 あの屍体は、あまりにも『綺麗』過ぎたの。


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