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バグ・ライフ  作者: 1話だけ投稿するマン
1/1

いしのなかにいる

ジリリリリリリリリリリリリリ!!!!!


朝の木漏れ日が差し込む部屋に目覚まし時計の音が鳴り響く。


反射的にがばっと手を伸ばし音を止め、その静寂に再び意識が落ちていく。


「あれ?!もうこんな時間!!」


感覚では瞬きする位だったが、目覚ましを止めてからもう40分は過ぎていた。遅刻のピンチである。


「やべえ!ちこくちこく―――!パンだけちょうだい!!」


「そんな漫画みたいにパン咥えて登校するの?」


「いや、今時漫画でもパン咥えて登校なんてしないから」


と、朝からテンションのわからない会話を母親と交わし、パンを加えて家を出る。


俺、天道シゲル16歳。高校1年生。親の転勤により今日から新しい学校へ通うことになったが、初日か


ら遅刻しそうで絶賛ピンチ!いっけなーい遅刻遅刻ぅ


等と、頭の中で自己紹介の練習を考えながら走り、アプリで電車の時間を確認する。


「やは。はひんはいとわにわないやん」(注:やば。走らないとまにあわないじゃん)


食パンを加えている為、ハ行とワ行しか出てこないが、食パンがちぎれんばかりに走り出す。


昨日まで雨が続いていたが今日は晴天。水溜りが所々にあるので避けながら走っていく。


「よし!そこの角を曲がれば後は駅まで一直線!」


しかし、角の手前には大きな水溜りが出来ていた。俺はそれを走っている勢いを利用し飛び越えようとす


るが、方向を間違え曲がり角の塀に体が当たってしまった。


「しまっ」


た、まで言い切れず、俺の体は壁にはぶつからず、塀と壁の接点に大きな隙間でもあったかのように道か


ら姿を消すのであった。


落ちる、落ちる、落ちる。


そこは完全な暗闇。厳密にいうと走っていた道、ぶつかった壁(塀?)、それらの景色が落ちていく俺の


体と反対方向へ遠ざかっていく。それ以外には何もない。いわば、世界の内側、外側、虚無エトセトラ。


何でもいい。結局の所、俺は動けずにひたすら落ちていくしかない。助けてと呼ぶことすら、悲鳴を上げ


ることすらできずに。



この世には不思議な事がたくさんある。幽霊であったり宇宙人の仕業だったりいわゆる「オカルト」だ。


小学生の頃はよく友達と学校の7不思議とか放課後に探したりもしていた。


でもある日、気づいてしまった。そういった不思議な事は幽霊でもましてや世界の裏側で活躍する超能力


者の仕業でもない。バグだったのだ。


ゲームとかでたまにあるバグ。本来行けない場所に行けたり、ステータスや見た目がおかしくなってしま


うあの現象だ。


なぜそう思うようになったのか今では思い出せないが、そう思い込むうようになってから怖くなり、不思


議な事、わけがわからない事には近づかないように普通にしていた。


が、今日。転校初日という日にこうしてバグと遭遇し、よくわからない空間をひたすら落ちている。


(いや、そもそも落ちてるのか?何の感覚もないからそれもよくわかんない)


ただ、先ほどまでいた世界が光の点になるまで小さくなっているという事はきっと落ちてるんだろう。


(今更になってやっと怖くなってきた。え、まじでまじでまじでまじでどんなんの死ぬのこれずっと落ち


続けるとかずっと死に続けるより怖いんだけどいやずっと死に続けるのもこわいけどそもそもこの状況


g)


g、ggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggg



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気が付いたら、倒れていた。


固い、床?首が動かせたので床に倒れてる事がわかる。開いた折り畳み用事務イス。4つ。会議用テーブ


ルにそれから


「うごけるっ!!」


上半身を起こし、自分の体を撫で、床を撫で、撫で続けた。


まさか人生で1番幸せな瞬間ランキングに床を撫でている事が入るなんて思わなかった。


天道シゲル16歳。高校1年生。彼は気づかず涙を流しながら床を撫で続けていた。まるでバグったゲー


ムキャラのように。


さすがにいつまでもそうしているわけにもいかないと思ったのか、シゲルは立ち上がり、今更になって涙


を征服の袖で拭う。


「おー少年ー目が覚めたかー?」


と、そこへちょうどのタイミングで女生徒が入ってきた。黒髪ロング、黒い制服。唯一白いのは上履きだ


けだ。見た目的にはやや細身だが、それがシゲルのタイプではあったものの、


制服が違う。


しかしシゲルが女生徒を見て最初に思ったことは、彼が転校する予定だった学校とは違う制服だった。事


前の見学で男女共の制服を見ていたが、男子は紺色の学ラン。女子は白色を基調としたセーラー服だった


はず。


「いやあ危なかったね?RTAか何かしてたのか知らないけどうっかり人生RTAをするところだった


ね?まあ高校生だから人生RTAの記録としてはどうかと思うけど」


そんな彼の疑問が顔に出ていたのか女生徒はそれとは違った回答をする。


「あ、えっと…?」


「おや、もしかして自分が何をしたか覚えてない。駄目だよーうっかりでもかべのなかにいる状態バグに


なっちゃ。私もやったことあるけどさ抜けだすのにコツがいるんだよねー。現実にもコントーラーがあれ


ばまだマシなんだろうけど」


「バグ…?」


「へ?あれ、てっきり同業者というか同志かと思ったけど違うの」


「いや、というかここはあなたは」


「え、どこって学校でしょ。その学ランならここの生徒でしょ」


「じゃあここが…というかそしたらあなたの制服ここの人じゃないでしょ」


「いやまあそうだけどうーんこれはあれだな話進まないからばっさりカットして事情を説明するパートに


しよう5分、いや10分くらいで」


「???」


女生徒はそう言い、両手でチョキを作りあらぬ方向へカット、カットと言いながら何やらジェスチャーし


ている。


その後は、その女生徒に促され一度イスヘ座り、俺が転校初日である事、バグの存在になんとなく気づい


ていた事、さっき出遭ったバグの現象について10分位で話した。


「それで、いつまで落ちるかそもそも落ちてるのかもわかんなくて」


「あーはいはい。いいよその辺で。後は見てたから知ってる。その後は日課の登校ルートバグ探しをして


いた私が少年を発見してヤバそうだったから拾ってそのまま学校まで一緒に来てあげたわけ。にしてもな


んとなくでバグ気づいてただけでバグに遭遇するとか運がないのかバグに愛されているのか」


「いや冷静になればバグって言い方がおかしくないですか。普通に考えれば神隠しとかそういうもんで


しょあれ」


「いや逆にどう考えてもバグでしょそれ。ゲームとかで見た事ない?こう、壁とか床にある判定の隙間に


入って落ちるとか。まさに君が体験したじゃん」


「それはー確かに」


「でしょ?さて、それじゃあ事情の説明も済んだし本題に」


「そうだ!今日というか今何時!!」


と、シゲルが問う間もなくチャイムが鳴る。ただ、部屋のある壁時計のさす時間は15時25分つまり、


「放課後じゃん!!転校初日からやってしまった!!」


「あ、それは大丈夫だよー私が今日は何でもない日にしといたから。少なくともこの学校で君はまだ転校


してきてない事になってるから」


「はあ?!何それ?!」


「ふ、バグを極めればこんなこと朝ティータイム前さ。まぁ放課後だけどね」


何故か女生徒はいつのまにか取り出した文庫本を取り出して読み始めていた。こうしてみればただ放課後


に友達の相槌を打ちながら本を読んでいる普通の女子高生にしか見えない。けど彼にはもうそれすらも不


気味にしか見えなかった。まるで、話しかけたらどこかへ飛ばされてしまうのではないか。


なんだかもうわけがわかんない。とりあえず一旦ここを出て職員室にでも行って誰か先生と話そう。


シゲルが女生徒から距離を取りつつ部屋の扉に手をかける。開ける瞬間、


「今日は疲れてそうだし帰って、また明日話しましょっ」


と言われ振り向いたが、




そこは、自宅の廊下であった。


シゲルは学校と思われる部屋から出る為、扉を開けようとしてたのに開けたらそこは自分の部屋だった。


時間的には先ほどとそれほどかわらず、沈み切ってない日差しがシゲルを照らしていた。


「わけがわからないよ」


そう呟いた途端にどっと疲れが押し寄せ他に考えることができずにそのままベッドへ向かうのであった。



翌朝。



シゲルは2度寝することなく、普通に起き、歩いて学校へ向かい、着けば『今日からの転入生』として紹


介され教室へと入った。


「天道さん前はどこの学校に行ってたの」


「京都の方の高校に」


「え、京都!じゃあ出身も京都?」


「いや家が、父親の仕事が転勤族だからそれでたまたま京都にいて」


「そうだったのか。さすがにここから京都には通えないもんね」


「まぁ残って一人暮らしも考えたけどダメだって言われて」


「部活は?うちでは何かやるの」


「どうしようかなあ。転校ばかりしてからあんまり部活とかは入ってなかったんだよね」


昼休み。俺は昨日の事などなかったかのように転校生ライフを送っていた。お昼ご飯を食べながら予想通


り質問攻めに遭うのだが、いつもの事で少しほっとする。


「じゃあさ、運動部は難しいじゃん?入るのだったらうちの」


「たのもー!!じゃなかった失礼しまーす。転校生の天道シゲル君はいますかー?」


と、クラスに溶け込み楽しく話していたところへ、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。


一瞬、ざわ、とした空気が流れるが、ほんとに一瞬だった。が、何故だろう。先ほどから話していたクラ


スメイト達の顔に浮かぶ憐れみと諦めの表情。完全に嫌な予感しかない。


「そっか。もう目をつけられていたんだね…」


「え」


「まぁ悪い人ではないからうん」


「ちょ」


「天道知ってるのかあの人のこと」


「いや」


「そうか。まぁ諦めるんだな。あの人はうちの学校のハ〇ヒみたいな人だから。大変だろうけど応援して


るSE!」


「えー………」


昼休み。こうして、俺は訳知り顔なクラスメイトに見送られながら引きずられていくのであった。


所変わって昨日来たはずであろう教室に連れてこられた。というか資料室とか書いてあったけど?


「いやあ無事クラスに溶け込めてそうで何より。実はちょっっっっっとは心配したんだよ」


そんなにちょっとをアピールしたいのかわざわざ親指と人差し指で小さく、限りなく小さくアピールして


くる。なんなんだ。


「いやだったらほっといといてくださいよ?なんかあなたの登場のせいでさっそく馴染みかけてた


クラスから浮きそうなんですけど?!」


「まあまあ大丈夫。君の日常までは壊しはしないからさ」


「え、だってハ〇ヒなんでしょ?自称なの?自称で周りにハ〇ヒなんて呼ばせてるの」


「誰がハ〇ヒか誰が!いや周りが勝手に呼んでるだけだし」


「けどその割にはわけわかんない能力?みたいなの昨日使ってたよね?もうきのせいかと思い込もうとし


てたのに。まさか、秘密を知った俺を巻き込もうと…やっぱハ〇ヒじゃん!!」


「ハ〇ヒハ〇ヒ言うな!!それに君絶対ハ〇ヒ読んでないよねその感じだとアニメでもいいから見ろ?」


「わかりましたよ。という事は俺を呼び出したのには何か理由があるんですね」


「そう。話がハ〇ヒのせいで脱線しかけたけど戻ってよかった。…では改めて、天道シゲル!私の『世界バ


グ研究会』に入りなさい!!」


「やっぱハ〇ヒじゃん!!」


こうして、俺はこの、わけのわからないバグとの生活が始まるのだった。

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