エピローグ
※ ※ ※ ※
「いつもありがとうございます、マサキさん。」
「いえいえ。こちらこそ。
我々も、あなたがた警察の方の協力がなければ、ここまでvetoを大きくすることはできなかったでしょう。これは、そのお礼です。遠慮なくお受け取りください。」
「すみませんね。では、遠慮なく…。
ところでマサキさん、最近、新参者の『veto荒らし』が出たというのは本当ですか?」
「さすが、警察の方は情報が速いですね。
まあ、『veto荒らし』と言う程の者ではないですが、1人、うちの連中に2連勝した人間がいまして…。」
「そうですか。それは将来有望ですね。」
「どうでしょうか。彼にその気があれば、の話ですが…。」
マサキはとある場所での極秘の話し合いを終えた後、ユウマと話をした。
「しかし、タツヤも余計なことをしたものですね。
素直に、こちらの指示通りに動いていればいいものを…。」
「はい。それでタツヤの件ですが、私にお任せ願えないでしょうか?」
「…分かりました。ではユウマにお任せします。」
ユウマは、マサキからのその一言を聞き、涙が出そうになるのを必死でこらえた。
「マサキさん、私は…。」
「ユウマ、私とユウマの仲ではないですか。
今後とも、しっかり頼みますよ。」
「はい!」
ユウマは、力強く返事した。
「しかし、ユウマをこのままにして、いいのですか?マサキ様。」
「ええ、宗像。
彼はタツヤとは違い、私に対する忠誠心が強い。そういった人間を、利用しない手はありません。」
「やはり、マサキ様はマサキ様ですね…。
もちろん、これはお褒めの言葉です。」
「では、そのように受け取っておきます。
…でも、彼は忠誠心だけではないですよ。彼はタツヤとは違い、本物の実力がある。今回はたまたま丸川高司に敗れはしましたが、その1敗だけで彼を切るのは、惜しい気がします。」
「これは、マサキ様にしては珍しい…。」
「そうですか?」
こう言って、マサキは、ユウマが帰った後の、宗像との話し合いを終えた。
※ ※ ※ ※
タツヤが遺体で発見されたのは、高司がユウマとのvetoの対戦を終えて、しばらくした後のことであった。
「でも、あの男の人、殺されたのかな…。」
「ああ、多分そうだと思うよ。」
その日、高司は恋人の美里と、大学内のレストランで食事をしていた。
「一応ニュースによると、高司のお父さんの、竜雄さん殺しの件を認めた遺書が、その男の人のポケットから発見されて、警察は自殺の方向で捜査してるらしいけど…。」
「そうみたいだね。
でも、そんなの当てにならないよ。
絶対、そのマサキとかいう奴の仕業に決まってるよ。
あと、俺、父さんが殺されたことに関して、1つ気になることがあるんだ。」
「え、何!?」
「タツヤは、『ある取引』をするために、父さんを西駅に呼び出した、って言ってたけど…。
どうしてわざわざ、場所を西駅にしたんだろう?」
「それは、西駅が無人駅で、人が少ないからなんじゃ…。」
「確かに西駅は無人駅だよ?でも、駅は駅なんだから、電車は確実に通るじゃん。それで、今回はタツヤの姿はすぐには発見されなかったけど、もしかしたらその場で、犯人のタツヤも電車の運転手に見つかって、逮捕されていたかもしれないよ?」
「なるほど…。」
「普通、そんな場所で大事な取引なんかするかな?
俺だったら、本当に人が来そうにない所を取引場所に指定するけどね。」
「それもそうだね…。
でも、高司はもう、あんなとこには行かないよね?」
「…それがね…。美里には話すけど…。」
そう言って高司は、ユウマから持ちかけられた、取引の内容を、話し始めた。(ちなみに、このことは高司の母の昌子には言っておらず、口外するのは美里が初めてであった。)
「高司、そんなの止めた方がいいよ。絶対、罠に決まってるよ。だから…、
もうあいつらと、関わるのはよして。」
「…美里には悪いんだけど、俺、父さんを殺した奴が、許せないんだ。もちろん、直接手をくだしたタツヤは死んだ。でも、あの場でタツヤも言ってたけど、マサキって奴が、父さんをvetoの世界に引きずりこんだんだ。
だから、俺はマサキと戦わなきゃいけない、ような気がする…。それに…、」
ここまで言いかけて、高司は口をつぐんだ。
「何!?どうしたの?」
「いや、どうでもいい話なんだけど…。」
「どうでもよくないよ!教えて!」
「…俺、vetoが楽しかったんだ。実際にお金を賭けて、知略を尽くしてゲームをするのが…、」
「…それって、本当なの!?」
「いやいや、今のは冗談。忘れて!
さっ、食べよ食べよ!暗い話は、これで終わり、ってことで!」
「…そうだね。」
その後も高司と美里は、レストランで食事デートを楽しんだ。
竜雄の友人が、丸川家を訪ねて来たのは、それからさらに数日後のことであった。
「丸川さん、この度は、ご愁傷様でした。
…それで、こんな時に何なんですが、竜雄さんの500万円の借金のことは、ご存知ですか?」
友人は昌子にそう切り出し、それを側で見ていた高司が、友人にこう伝えた。
「ありがとうございます。
ええ、それなら今すぐ返す用意がありますので。」
すると友人は、少し驚いた様子になったが、すぐに気を取り直してこう言った。
「実は、これは竜雄さんが生前に、言い残していたことなんですが…。
竜雄さんの借金の理由は、ご存知でしょうか?」
「…それは、パチンコで負けたからじゃ…。」
「違います。これだけははっきり言っておきます。
竜雄さんは、決してギャンブルのために借金をしたわけではありません。
竜雄さんは生前、こう言われていました。
『このお金で、うちのひなびた写真館をリフォームして、今風の、東京にもありそうな『フォト・スタジオ』にするんだ!
そうしたら、俺の息子の高司も、そこで働きやすくなるだろうからね!
なあに、高司は写真の腕は抜群だ。大学を卒業したら、優秀なカメラマンになるよ。そうしたらフォト・スタジオも繁盛して、すぐに借金は、返せるさ。
だから、借金返済は、その時にしてくれないかな?
俺、今まで父親らしいこと、なんにもしてやれなかったけど、どうしてもあの子のために、父親らしいことしてやりたいんだ!』」
友人からそれを聞いた昌子は、涙声になりながら、こう言った。
「高司、私、お父さんのこと勘違いしてたよ…。
やり方は間違ってるとは思うけど、あの人、あんたのためを思ってたんだね…。」
「やっぱり父さんはバカだよ。俺、カメラマンになるなんて一言も言ってないのに、勝手に決めつけて、挙げ句の果てに死んじゃうなんて…。
ホント、バカだよ…。」
それを聞き、高司も、泣いた。
「ではこれで、失礼します。」
父の友人が帰った後、高司は、ある思いに、強く支配された。
『俺は、父さんを死なせた、マサキを絶対に許さない。今まで迷ってたけど、さっきの話を聞いて、決めた。
俺は、vetoにもう1度参加する。そして、必ずマサキを、倒してやる!
俺は、絶対に諦めない!』
高司は心の中で、そう誓いを立てた。そして、再びvetoに参加するために、veto会場のあるビルに、行くことに決めた。(終)
※「VETO2(仮)」近日公開予定!