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VETO  作者: 水谷一志
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三 父親と兄貴

 ※ ※ ※ ※

 「しかし、タツヤも大したことはないですね。新人に負けるとは。」

「ええ。」

マサキは、タツヤの敗戦を知り、一つため息を吐きながら、こう言った。また、それにユウマが、答えた。

「ただ、先日のタツヤの対戦相手、丸川高司は、veto参加が初めてとは思えないほど、素晴らしいプレイをしたようです。特に、終盤の魔法の使い方が、秀逸であったと報告を受けています。」

「なるほど。

 それで、次の対戦相手をどうするかですね…。

 ユウマ、行けますか?」

マサキからその言葉を聞き、ユウマは少し驚いた表情を見せたが、すぐに気を取り直し、こう言った。

 「もちろんです!いくらタツヤを破ったからといって、彼、丸川高司はまだ若輩者です。私なら、絶対に負けません。そして、マサキさんの期待に、必ず答えて見せます!」

 「それは頼もしいですね。次のゲームが、楽しみです。」

マサキは、落ち着いた様子でユウマにそう言った。その物腰は柔らかで、紳士的と捉えられなくもないが、口元には、残忍な笑みがこぼれている。

 「あと…、タツヤなんですが、どうしたものかと。」

「マサキさん、それは私、ユウマにお任せください。

 私に考えがあります。」

そう言ってユウマも、残忍な笑みを見せた。


※ ※ ※ ※

 「えっ!?1億6,021万円が、うちに入ってくるのかい?」

高司の母、昌子は、高司に説明を受けると、驚愕の表情になった。

 「そうなんだ。まあ一応、そこから引かれる分はあるけど…。

 それで父さん、実は1,000万円の借金を背負ってたみたいなんだけど、これで、借金も返せるよ。」

「…やっぱり父さん、借金してたんだね。

 でも、どうしてそんな大金が、うちに入って来るんだい?」

「いや、そ、それは…。」

高司は、「veto」なるゲーム、ギャンブルのことを、正直に昌子に打ち明けようかどうか迷ったが、心配をかけたくないという気持ちが勝り、言い出せなかった。

 「…あんたもしかして、いつものギャンブルゲームに、お金を賭けたんじゃないだろうね?

 それなら、今回は勝ったみたいだからいいけど、次回からは…、」

「わ、分かったよ!

 もうお金を賭けたりはしないから!」

「やっぱりそうだったのかい!」

昌子は、呆れ顔になった。そして、

「もう金輪際、お金を賭けちゃあダメだよ!」

と、高司にクギを刺した。

 その後、

「はい!」

と高司は答えたが、その胸中は、複雑であった。

 『母さん、間違いなく俺がいつもやってる、ブラックジャックと勘違いしてるな…。

 もちろん、vetoなんて俺も知らなかったし、それは当然のことだけど…。

 でも、父さんがvetoが原因で殺されて、俺もそのゲームに参加した、って母さんが知ったら、母さん、怒るというより悲しむだろうな…。

 このことは、絶対に母さんには言えないな。』

高司はそう考え、絶対にvetoのことを母には伝えないと、決めた。

 『でも、父さんの情報を得るために、俺はもう1度、vetoをプレイしないといけない…。』

高司はまた、そう思い、気を引き締めた。


 「そういえば高司、この前、どこ行ってたの?」

高司はその日、美里に急にそう訊かれ、たじろいだ。

 「え、いや、別に、どこというわけではないけど…。」

「もう、ホントに高司、分かりやすいんだから~。

 何か、隠してるでしょ?」

「べ、別に…。」

「まさか、浮気とか!?」

「いやいや、それはないよ!」

美里の小悪魔的な探りに、高司はタジタジであった。

 「うーんなるほど。浮気の線はなしか。

 じゃあ、いったい何なんだろうね?」

「だから、大したことじゃないって…。」

「そう?まあいっか。

 じゃあこの後私、バイトがあるから、またね!」

「うん、美里。またね!」

そう言って、2人はその日はお開きとなった。

 『vetoのことは、美里にも言えないな…。

 心配かけたくないし…。』

高司は、そう思った。


 そして、高司の携帯に、見知らぬ電話番号からの電話がかかって来たのは、それから数日後のことであった。

 「…もしもし、丸川高司ですが…。」

番号は見知らぬものであったが、その時の高司には、要件を察することは容易であった。

 「はじめまして。私は、ユウマという者です。

 今日は高司様に、次回のvetoのゲーム参加について、お電話させて頂きました。」

その言葉を聞き、高司は身構えた。

 「では単刀直入に。

 次回、高司様がvetoに参加される場合ですが、相手は私、ユウマとなります。

 そして、高司様が勝利された場合、約束通り、我々が持っている、お父様の竜雄様に関する情報を、ご提供させて頂きます。

 では、参加の有無を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

高司は、落ち着いた表情でユウマと名乗る男の声を聞いた。そして、高司には、迷う余地はなかった。

 「はい。もちろん参加します。」

「分かりました。では明日、前の説明の時と同じ時間に、同じビルで、お待ちしておりますので気をつけてお越しください。」

「…分かりました。」

ユウマはそれだけを言い残し、電話を切った。そして高司は、来る決戦に備え、その日は眠りについた。


※ ※ ※ ※

 『丸川高司…。確かに、前のvetoのゲームではうまくやったかもしれないが、それも今回で終わりだ。

 必ず私、ユウマが、彼を打ち破って見せる!

 私は、マサキさんの顔に泥を塗るようなことは、しない!』

 ユウマは、高司に電話をかけ終えた後、物思いに耽っていた。

 『マサキさん…。』

 彼、ユウマには、マサキに救われた過去がある。

 ユウマは、マサキと出会う前、会社員として働いていた時から、その物腰に似合わずギャンブルが好きで、違法カジノのバカラなどを、好んでプレイしていた。そして、それらのゲームにユウマは強く、(具体的な金額は言えないが)かなりの金額を、ユウマは違法バカラで稼いでいた。

 ちなみにバカラは、他のカジノゲームと比べても、「運」の要素が強いと言われている。しかし、ユウマはそんなバカラでも、連戦連勝していた。それは、ユウマの持ち前の「勝負勘」が、働いていたからだろう。

 しかし、そんなユウマの、会社員としての表の顔と、バカラ賭博に興じる裏の顔とを併せ持った二重生活にも、終わりが訪れることになったのである。

 その日、ユウマはいつものように違法賭博場に行き、バカラを中心に、プレイをしていた。そして、その日もユウマは好調で、かなりの金額を、稼ぎ出していた。

 そんなプレイの最中に、警察がやって来た。

ユウマは、どちらかというと鼻が利く方で、今まで警察の違法賭博場への捜査に居合わせたことはなく、いつも捜査のある日には決まって、その場所にはいなかった。しかし、その日の数日前から、ユウマは連勝しており、そこから来る油断が、ユウマの心の中にはあったのかもしれない。

 そして、ユウマはその日、警察に現行犯逮捕された。その後今までの違法賭博についても捜査が続けられ、最終的に、常習賭博罪として、懲役3年の刑が、言い渡された。

 もちろん、ユウマは逮捕され、その判決を受けた時点で、勤めていた会社からは、懲戒解雇を言い渡された。こうして、ユウマは、自分の持っている、全てのものを失った。

 その後、ユウマは刑務所内で、模範囚として3年間を過ごした。その時のユウマは、ギャンブラーとしての顔ではなく、どちらかというと生真面目な、会社員としての顔を見せていた。

 「今までごくろうさん。もう2度と、罪を犯すんじゃねえぞ!」

これは、刑期を終え、ユウマが出所する時に、看守からかけられた言葉である。その時ユウマは、

「はい。もう2度と、ギャンブルなんてしません。」

 と答え、これからの人生は、まっとうに生きよう、そう決意していた。

 そして、ユウマは再就職先を探したが…、ユウマを雇ってくれる会社は、なかった。

『やっぱり、刑務所に入っていた人間を雇う会社なんて、ないのか…。』

ユウマはこの時、「現実」というものをひしひしと感じていた。

 そして、職探しにも疲れ、途方にくれている時、

 ある青年に、声をかけられた。

「すみません、あなた、柳瀬有真やなせゆうまさんですね?」

その青年は、物腰はユウマと同じく柔らかであったが、その表情の裏には、自分への自信が見え隠れする、そんな青年であった。

「はじめまして。私は、マサキと言います。失礼ですが、あなた、刑期を終えてから、再就職先は見つかっていませんね?」

「え、どうしてそれを…。」

「それくらいのことは、調べればすぐに分かります。

 今日はあなたに、就職の提案をしに来ました。

 ユウマさん、うちで、働きませんか?」

過去にギャンブルをしていた関係で、鼻が利くユウマは、すぐにマサキはいわゆるまっとうな人間ではなく、マサキの言う就職先も、一般的な会社ではない、と見破った。

『でも、この提案を断ったら、自分には本当に、就職先がなくなる…。』

そう思ったユウマは、話を聞くことに、決めた。

 そして、案の定、それはギャンブル関係の仕事であった。一応警察公認の、公営ギャンブルということであるが、それすらもどこまで信用していいか分からない。しかし、自分には選択肢はない―。ユウマは、少し迷ったが、結局、マサキの下で、働くことに決めた。

 そこからのユウマの快進撃は、すごかった。

ユウマはすぐに、「veto」なるゲームの勘所を掴み、並み居る敵を、撃破し続けた。やはり、かつて違法賭博場で、バカラを中心に連戦連勝し続けたユウマは、健在であった。

 そしてそんなユウマを、マサキは自分の部下として重宝し、ユウマも、次第に自分を拾ってくれたマサキに感謝し、忠誠心を持つようになった。

 『あの時マサキさんに声をかけられていなかったら、今の自分は存在していない。自分は、マサキさんに救われたんだ。

 だから…、自分はマサキさんのためなら、何だってできる!』

ユウマは、いつしかそう考えるようになり、マサキを心の底から慕うようになっていた。


 『私はタツヤとは違う。丸川高司だろうが誰だろうが、タツヤみたいに調子に乗らず、落ち着いてプレイすれば、必ず勝てる!』

ユウマはそう思い、その日は眠りについた。


※ ※ ※ ※

 「お待ちしておりました、丸川高司様。」

高司が前と同じ、veto会場のあるビルに行くと、前と同じ老紳士が、高司を出迎えた。そしてその隣には、初めて見る、高司より年齢は少し上であろう青年が、立っていた。

 「はじめまして。私は、昨日お電話させて頂いた、ユウマという者です。」

高司はユウマの声を聞き、『ああ、この人の声か。』と、心の中で思った。

 そして、老紳士は高司に椅子に座るように勧め、自らもユウマと共に椅子に座り、説明をした。

 「次回のゲームは、明日から、そして前回と同じ時間からとなります。

 そしてその対戦相手は、彼、ユウマとなります。」

「高司さん。どうぞ、お手柔らかに。」

ユウマは高司に丁寧に挨拶した。

「こちらこそ。」

そう言いながら高司は、この人は前回の、タツヤさんとは違う、と直感的に思った。

 「そして、賭け金の方ですが…、

 今回は500万円で、いかがでしょう?」

「もちろん、私は大丈夫です。」

ユウマはそう答え、高司の返答を待った。

 『500万円なら、このゲームに負けたとしても1億円以上はうちに入って来るんだし、大丈夫だな。

 もちろん、ここで負けるわけにはいかないけど…。』

高司はそう考え、

「分かりました。僕も大丈夫です。」

と、答えた。

 「…では、これで説明を終わります。

 また明日、よろしくお願いします。」

そう言って老紳士は、説明を終えた。

 『次のゲームも、絶対に勝って、父さんの情報を、掴むんだ!』

高司はそう思い、その日は家に帰った。


 「丸川、高司さんは…、どこですか?」

「俺ですか?ここです。」

この日は、vetoによるユウマとの対決の日だ。そして高司は、ユウマに呼び止められた。

「あ、高司さんはあなたでしたね。

もうすぐゲーム開始です。では、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

相手は紳士的に応対してきたが、気を許すわけにはいかない。もしかしたら、相手は気を許すことを狙って、戦意を削ぐのが狙いかもしれない…。高司はそう思い、ゲーム開始を待った。

 

 〈バトル1〉

 「ではこれより、本日のvetoを開始します!

 …バトル1です!お二方の写真を、一斉に…ドン!」

高司はこの日、大学の知り合いの、ハーフの女性の写真を撮って来ていた。そして今回の写真は、ISOイソやシャッタースピード等にもこだわり、自分なりにはよくできた1枚である、と高司は思っている。

 「兄ちゃん、この、かわいいなあ!」

「兄ちゃんの彼女か?」

高司は、この写真が観客の前に出た直後からの、観客の品のないヤジにも、無言で動じる気配はない。

 「…それはさておき、これは素晴らしい写真です!」

この日も司会を務める松葉は、高司の写真をそう言って絶賛した。

 「そして、ユウマさんの写真ですが…。

 これはサッカーですね!こちらも素晴らしい!」

観客は、ユウマの撮った写真にも、息を呑んだ。それはサッカーで、ちょうど1人の選手がゴールを決める瞬間の、写真であった。

 「これは、少し前にスタジアムでサッカー観戦をしていた時に撮った写真です。」

ユウマは、自分の写真にそう付け加えた。そしてそれは、1人の選手がゴールを決める時の躍動感、さらに言えばサッカーという競技の魅力を、1枚に詰め込んだような写真であった。

 「お二方、挙手ということで、ではこれより採点の方を…、」

松葉がそう言いかけた時、

「ちょっと待ってください!」

ユウマが、それに口を挟んだ。

 「本来なら、点数が出た後に、魔法を使うのが正しい手順ですが、今回、先に自分の魔法を、使ってもよろしいでしょうか?」

ユウマの提案に、会場がどよめく。

 そして、その日も審査員を務める丈秀・元和・井庵が、その件についての審議を開始した。

 「…うむ。いいだろう。」

どうやら、審査員の許可は出たようである。

 「では、5ベット、5万円分で魔法を発動します。

 これはサッカーの写真ですが、このストライカーは、アウェーのチームの選手です。その選手のゴールということで、『アウェーゴール2倍ルール』を適用したいと思います。

 つまり、今回のゲームでは、点数は10点満点ではなく、20点満点にしたいと思います!」

 『なるほど。そう来たか。』

勘の良い高司は、ユウマの魔法発動を聞いた後、その意図をすぐに理解した。

『相手は、俺が点数を読んでプレイすることを恐れている。

 20点満点になれば、確かに点数は読みづらくなる。ということは、前回の『革命』みたいに、自分の点数と魔法とを、絡めることは難しいな。

 やっぱり相手は、このゲームの俺の前のデータを、入手しているってことだ。…となると、前のタツヤと今のユウマは、裏でつながっている、ってことか…。

 と言うか俺も、そこまで高度に点数を読めるわけじゃないんだけどな。』

高司は、瞬時にそう考えた。

 「では気を取り直して、採点の方に行きたいと思います!

 …では、本日の代表の井庵の方より、点数を、発表させて頂きます!」

「本日は、魔法の効果により、20点満点とする!

 まず、高司氏の点数であるが、…18点!」

「オォー!」

なかなかの高得点に、観客もどよめいた。

 「そして、ユウマ氏の点数は、…19点!」

「オォー!」

しかし、ユウマは高司の点数を、1点だけ上回った。

 『これなら、10点満点なら同じポイントになっていたかもしれないな…。』

高司はそう思ったが、魔法が発動された以上、文句は言えない。

 「ではお二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

「はい、俺、魔法を使います!」

高司は、松葉のその言葉に素早く反応した。

 「この女性は、ハーフの女性です。なので、5ベット追加で、賭け金を、ハーフ、つまり半分の250万円にしてください!」

高司としては、確かに1億円以上は自分の懐に入って来るものの、母親のこともあり、できるだけ賭け金は少なくしておきたい、というのが本音であった。

 そして、そこから1分も経たないうちに、ユウマが手を挙げ、口を開いた。

 「異議あり!

 そうですね…。この女性の髪型は、アップスタイルですよね?

 と、いうわけで、賭け金アップを提案します。金額は、ちょうどハーフということですし、半分アップ、1.5倍でどうでしょうか?

 これは5ベット追加でお願いします。」

 「こっちの兄ちゃん、反応速え~!」

「あったまいい~!」

観客からは、ユウマの反応の素早さを讃えるヤジが、とんでいる。

 『くそっ!確かに、相手の反応は速いな…。

それに、相手はこっちの魔法の効果を、徹底的につぶしていく作戦らしい…。

 魔法が使いにくいってことは、写真で勝負になるけど、相手の写真も侮れないな…。』

高司は、そう考えた。

 「では、19―18で、本日はユウマさんに19点が入ります!」

松葉がそう言い、その日のバトルは終わった。


 〈バトル2〉

 「えっと…、丸川高司さんは…。」

「俺はここですよ!」

ユウマと高司は、その日も挨拶をし、バトル2に臨んだ。

 「…それでは、バトル2を開始します!

 お二方の写真を一斉に…ドン!」

2人の写真が、モニターに写し出される。そして、今回のユウマの写真は…、

「おっ、これはハンバーガーの写真ですね!少しジャンクな感じもしますが、良い写真です!」

そして、ユウマの写真の背景は、ぼかされている。

『この、ユウマも、背景をぼかして、余計な魔法の効果を使わせないようにする気だな…。』

高司はその写真を見て、そう思った。

 「そして、高司さんの写真は…、これはフランス国旗ですね!

 あと、これはフィルム越しに撮っているのでしょうか?」

「はい、少し工夫しました。」

司会の松葉の質問に、高司は答えた。

 「なるほど工夫ですか…。今回の写真は、お二方共変わったものなので、魔法合戦が今から楽しみですね!

 …それでは、審査員の方に点数をつけて頂きます!

 …点数が決まったようなので、本日の代表の丈秀より、点数を発表させて頂きます。」

「では、発表させてもらう。まず、ユウマ氏の写真は…、19点!」

「オォー!」

連日のユウマの高得点に、観客もざわめいた。

「そして、高司氏の写真は…、18点!」

「兄ちゃん、惜しいなあ~!」

高司の写真も高得点であったが、今回もユウマに1点及ばなかった。

 「それではお二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

 「では、魔法を使います!」

ユウマが松葉の言葉を聞き、挙手をした。

「このハンバーガーは、クォーターパウンダーです。…と、いうわけで、『クォーター』、4分の1により、5ベット追加で賭け金を最初の金額の『4分の1』分だけ追加して、計500万円、元の賭け金に戻したいと思います!」

 『くそっ、相手はそのために、わざわざハンバーガーの写真を用意したのか…。

相手は、徹底的にこちら側の魔法を潰してくる気だ…。』

高司は、ユウマの魔法発動を見て、そう思った。

 しかし、高司も負けてはいられない。

「はい!」

と叫び、高司もこの日考えて来た、魔法を発動した。

 「今日の俺の写真は、フランス国旗、三色旗です。…というわけで、10ベット追加で、相手の得点を3分の1にしたいと思います!」

 この時点で、得点は高司が18点、ユウマが19点の3分の1の、6と3分の1点だ。

「やるなあ兄ちゃん!」

それを聞いた観客からは歓声がとんだが、ユウマは動じる気配はない。

 「…異議あり!そうですね…確かフランス国旗は、『自由・平等・博愛』を、表していたはずです。…なので、『平等』ということで、相手の点数も3分の1にすることを提案します!

 10ベット追加でお願いします。」

この時点で、得点は高司が3分の1の6点、ユウマが6と3分の1点で、ユウマが再びリードした。

「オォー!」

観客は、2人の魔法の応酬を楽しんでいたが、高司の魔法を次々と消していくユウマに、少し分があると踏んでいるようだ。

 『その日見た写真で、その場でここまでの

魔法を出せるなんて…。

 やっぱり相手は、只者ではない…。』

高司も、相手の技に感嘆せざるを得ない。

 そして、

「すみません、vetoを発動します!ユウマさんの、『平等』の魔法にvetoです!」

高司は、ここでvetoを使わざるを得なくなった。

 この時点では、高司の点数は18点に戻り、ユウマが6と3分の1点で、高司の再びのリードであった。

 すると、いや案の定と言うべきか、ユウマは対抗魔法を使用する。

「対抗魔法です!

 確かフランス革命の頃は、『三部会』が開かれ、身分の平等が叫ばれたはずです。…そこで、『三部会の身分がなくなる』ことにかけて、分母の3を、取り払いたいと思います!」

この時点で、点数は1番始めと同じ、ユウマ:19点、高司:18点に戻った。

 「そっちの兄ちゃん、すげえ!」

「知識も、頭の回転も抜群だな!」

観客からも、ユウマに対して惜しみない賛辞が送られる。

 「…それでは、本日はよろしいですか?」

「待ってください!」

高司は、再び挙手した。

 「俺から20ベット追加で、魔法を発動します!

 このフランス国旗の写真は、フィルム越しに撮ったものです。…なので、次回のバトル3では、『フィルム』にかけて、写真ではなく、映像で勝負したいと思います!」

 「映像か!」

「斬新だな!」

観客は、高司の提案にどよめいた。

 『さあ、相手は俺の提案に、乗ってくるか?それとも異議ありで消し去るか?』

高司はそう思い、相手の出方を窺った。

 そして、

「いいでしょう。その提案、受けて立ちます!」

ユウマは、高司の提案を了承した。

 「ではお二方、もう魔法はよろしいですね?

 では、バトル2はこれで終了します!バトル3は、明日、同じ時間になりますので、よろしくお願いします!」

松葉はそう言って、その日を締めた。


 〈バトル3〉

 「高司!」

高司はバトル3の開催日、またユウマとのゲームの最後の日、veto会場内で美里に呼び止められた。

 「お、おい美里、何でここに…。」

「前に言わなかった?私のお父さんって、探偵やってるんだ。それで、ここ数日の高司の様子がおかしい、って相談したら、お父さんが、調べてくれて…。

 高司、今、『veto』ってゲーム、やってるんだよね?それで、高司のお父さんを殺したかもしれない犯人が、分かるかもしれないんだよね?」

「そこまで知ってんのか…。

 一応言っとくけど、止めても無駄だからね。」

「そう言うと思った。

 私、高司のこと、応援するよ!誰だって、自分の家族が殺されたら、ショックだよ…。それで、その犯人が分かるかもしれない、って言われたら、私でも、こうすると思う。

 だから高司、今日は、頑張ってね!」

『俺は、美里の言葉に、何度勇気づけられただろう。』

高司は美里の発言を聞きそう思ったが、瞬時に気持ちを切り替えて、こう言った。

 「ありがとう。美里の気持ち、嬉しいよ。

でも、ここは男ばっかのとこだし、危ないよ。やっぱり、美里は帰った方が…、」

「何言ってんの!私、柔道で県大会に出場したこともあるんだよ!

 私、ここで高司のこと、応援するから!ちゃんと、見守ってるから!

 だから高司は私の心配なんかしないで、ゲームに集中して。」

「…分かった。ありがとう、美里。」

高司は、美里の気持ちを素直に受け取った。


 一方、ユウマの方も、今日のバトル3、そしてこのゲームに全てをかけていた。

 『自分は、マサキさんに救われた。だから、マサキさんのためにも、今日は負けるわけにはいかない!

 何が『映像で勝負』だ。そんな小細工、私が粉砕してやる!

 そして、そんな細工にも対応できる、という所をマサキさんに見せて、もっと、マサキさんに認められたい!」

ユウマはユウマなりに、それ相応の覚悟を持って、このゲームに挑んでいた。


 「それでは、バトル3を開始致します!本日は、魔法の効果により、写真でのバトルではなく、映像でのバトルとなります。従って、一斉にではなく、順番に映像を流して、審査の方をお願い致します。

 まずは、ユウマさんの映像から…ドン!」

司会の松葉がそうアナウンスし、ユウマの映像がスクリーンに映し出された。

 その映像は、大都会のビルを、映した物であった。今までvetoで映像が使われた例はないので、ユウマも映像に関しては素人であると思われたが、ユウマの撮ったビル群はきれいで、芸術的とも思われる映像であった。

 「すげえ!兄ちゃん、映像もいけるのかよ!」

観客からも、感嘆の声が漏れている。

 「素晴らしいですね~。器用な人は、何をやらせてもうまい、ということでしょうか?

 では次は、高司さんの映像を…ドン!」

次に、高司の映像が、映された。

 「何?エンドか?」

まず、スクリーンに映し出されたのは、黒地に白い文字で「END」と映し出された映像であった。

 「これは、今回の作品タイトルです…ちょうど、このバトル3でゲームが終わりなので、それにかけて作りました。」

高司がそう、観客達に説明する。

 そして、映し出されたのは、高司の住んでいる、地域の風景の映像であった。こちらは、ユウマのものとは打って変わり、田舎の風景を映した物である。近くの商店、小川、そして無人駅―。その映像には風情があり、また高司の地元に対する愛が、にじみ出た物であった。

 「オォー。」

「こっちの映像も、きれいだな!」

観客の反応は、「甲乙つけがたい。」というものであった。

 そして、2人分の映像は終了し、それぞれの映像のラストシーンが、スクリーン上で横に並べて、映されていた。

 「ではここで、採点に移りたいと思います!

 …では、点数が決まったようなので、本日の代表者の元和より、点数を発表させて頂きます!」

 「オォー!」

映像という、初の試みに対して審査員はどういう点数をつけるのか、観客は注目した。

 「まず、ユウマ氏の映像だが…17点!」

それは決して悪い点数という訳ではないが、ユウマは少し、悔しそうな表情をした。

 「そして、高司氏の点数は…18点!」

高司はその点数を見ても、眉一つ動かさない。

 「…ただ今の結果、高司さんに18点が入り、両者のポイントは、現時点でユウマ氏38点、高司氏18点となります!

 お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

 このままだと勝利が確定するユウマは動かないが、敗北が確定する高司はもちろん、挙手をした。

 「魔法を使わせてもらいます!

 まず、俺の映像のエンドクレジットには、『監督』と書いてあります。…と、いうわけで、監督はもちろん人間なので、UMA:ユーマ(未確認生物)の映像で魔法は使えない、つまり、ユウマさんの映像では魔法が使えない、ということでよろしいでしょうか?

 10ベット追加でお願いします!」

「分かりました。ちなみに、細かいルールの説明になりますが、この場合、魔法の効力が先に発動されますので、『異議あり』も高司さんの映像から、お願いします。」

 「あと、もう1つ!5ベット追加でお願いします。

 エンドクレジットを今回は用意しました。…というわけで、『エンド』にかけて、映像を見るのは、今回で最後、1回切りでお願いします!」

「…分かりました。また、細かいルールの説明になりますが、この魔法の効力も先に発動されますので、異議ありを出される場合も、映像をもう1度見ることはできません。」

 『何か、癪にさわる魔法だな。『異議あり』を発動するか。』

ユウマはそう思ったが…、アイデアが、出てこない。

 『チッ!

 でも、ここでvetoを使ったら、後でさらに魔法を仕掛けてくるのは目に見えている。

とりあえず、様子を見るか。』

ユウマは、そう考えた。

 さらに、高司は続けた。

「もう1つ!10ベットさらに追加です。この監督の下の欄に、『反』という文字が書かれています。これは、俺のペンネームのつもりですが…。

 それはさておき、と、いうわけで、お互いの点数を反対にしたいと思います!」

 「分かりました。この魔法の効果により、ユウマさんが18点、そして高司さんが38点となります!」

 「オォーなるほど!」

「で、兄ちゃんは、どんな異議ありを使うんだ!?」

観客は、2人の魔法の応酬を、期待した。

 『ここは異議ありだ!』

ユウマはそう思ったが…、アイデアが、浮かんでこない。

 高司の方の映像のラストシーンは、黒地に『監督 反』とだけ白字で書かれており、その画からは、さすがのユウマでも異議ありを発動することができない。

 「おっ、ユウマさん、お手上げですか?」

必死で計略を練るユウマに、高司が声をかけた。

 「…ってか、ここで俺の点数を反対にする魔法をvetoするのって、誰にでもできますよね!?」

『フン!それぐらいのことは、私も考えていた。私に対して挑発は無駄だ。ここはvetoして、手堅く…、』

 そう瞬時に考え、vetoを発動しようとしたユウマに対して、高司がさらに声をかけた。

 「そんなプレイで、上司の方は納得するんですか?」

 『…こいつ、私とマサキさんのことを知っている!?

 いやいやそんなはずはない。じゃあカマをかけられている?

 挑発にのってはダメだ!

 でも…、』

ユウマは、少しの間、思案した。

 『あいつの言うことは、一理ある。

 そうだ!もう1度あいつの、映像を流せばいいんだ!そうすれば、異議ありだろうが何だろうが、いくらでも発動することができる!

 基本的に終わったターンを蒸し返すプレイはできないが、ベットを積んでvetoをすれば、大丈夫だ!

 これで、俺の対応力の高さを、マサキさんに見せられる!』

 ユウマはそう思い、

 「すみません、vetoを発動し、『エンドクレジット』の効果、映像を1度しか見られない効果を、取り消します!

 これは前のターンの効果の蒸し返しになるので、さらに20ベットを追加しますが…よろしいでしょうか?」

 審査員は審議の後、

「うむ。問題ない。」

とユウマに告げた。

 「では、もう一度、高司さんの映像を、流します!あと補足ですが、最初の魔法の効果により、ユウマさんの映像は、もう使うことはできません。」

 そして、高司の映像が最初から流れた瞬間…。

 『あっ!』

ユウマの体は、硬直した。なぜならユウマは、次の高司の一手が、見えてしまったからだ。

高司の映像の冒頭。そこには、黒地で白の「END」の文字が、タイトルとして書かれている。

「ここで、対抗魔法を使用します!

『END』の文字にかけて、この映像をエンド、つまりこの部分で終わりにします!

映像、止めてください。」

 ユウマにとっては無情なことに、映像は、再び黒地に白の文字で、止まった。

 「さあユウマさん、もうvetoは使えませんよ。異議ありを使われるなら、どうぞ。」

 しかし、ユウマは、動けない。ユウマは、さっき見た高司の映像を、全く覚えていなかった。

 「…いえ、異議ありは使いません。

 この勝負、私の負けです。」

「オォー!」

「すげえぞ兄ちゃん!」

ユウマの一言を聞き、周りからは、高司に対して歓声がとぶ。

 「おめでとうございます!それではこの勝負、高司さんの勝ちとなります!

 そして、ユウマさんには、賭け金500万円と、追加の45ベット分、計545万円を、高司さんに支払って頂きます!

 では本日も皆さん、お疲れ…、」

「いつからだ!」

松葉がその日を締めようとする前に、ユウマが、叫んだ。

「お前はいつから、こうなることを読んでいた?」

 「そうですね…とりあえず、映像の勝負にしようと考えたのは、初日です。」

「初日だと!?」

「はい。

 ユウマさん、バトル1の前日に顔合わせをしたのに、俺の顔、忘れてたでしょ?それは、初日の態度で分かりましたよ。あと、2日目も、俺の顔はうろ覚えでしたね。

 だからこの人、頭の回転は速いけど、物覚えが悪いんじゃないかと思って、今回の作戦を考えました。

 あと、ついでに言っときますが、ユウマさんが上司に対して忠実なのは、ユウマさんの態度を見て、推測しました。ユウマさん、見た目は完全にあっち系の人間ですが、物腰は、柔らかですよね?だから、上下関係の厳しい所にいるんじゃないか、って思って…。

 しかも、ユウマさんはそのことを苦にしていない様子でした。だから、ユウマさんは上司の方を尊敬してるのかな、って思いました。

 まあ、俺の推測は、当たってましたかね?」

「そうか。なるほど。

 私の完敗だ。」

そこまで聞いたユウマは、負けを認めざるを得ない。

 『すみません、マサキさん…。こいつを、止められなくて…。

 思えばマサキさんは、私にとって兄貴のような存在でした。』

ユウマは、心の中で、泣いた。


 「それでは丸川様、約束通り、竜雄様の情報を…、」

 高司がピンマイクを外し、老紳士から今後のことについて説明を受けようとした時、

 「ちょっと待てよ!」

veto会場に、乱入者が現れた。


 「おいユウマ、マサキはどこだよ?マサキを出せよ!」

 その乱入者のことは、高司もよく覚えていた。彼は、高司が初めてvetoで対戦した相手…タツヤだ。

 「君は確か…タツヤとか言ったかな?

マサキ…さん?何のことだかさっぱり…。」

「とぼけてんじゃねえよ!何だ!?みんなの前では言えねえってか?

 言っとくけどお前らに選択肢はねえ!お前らがシラを切りとおすつもりなら、俺は自首して、洗いざらい話してやるからな!」

ユウマや老紳士は、タツヤのその一言を聞き、少し硬直した様子である。また、タツヤはそこまで話した後、高司の存在に気づいた。

 「お前は…確か丸川高司だったな?その様子じゃ、ユウマにvetoで勝ったんだな。

 まあいい。今日はお前にとっても大事な、話をしに来たんだ!」

 「警備員さん、何をしているんですか!?早くこの侵入者を…、」

老紳士がそう言ったが、それをユウマは制した。どうやらユウマはこの侵入者が現れてから、誰かに携帯で連絡をとっているらしい。

 「そうだよな!迂闊に俺を連れ出せねえよな!何せ、俺は大事な情報を、握ってるんだからよお!」

 その様子を見たタツヤは、さらに饒舌になった。

 「いいか、よく聴け!

 お前の父親、丸川竜雄を殺したのは、俺だよ!」

 その一言を聴いた高司の背中には、戦慄が走った。

 「何?ビビッてんのか?

 フン!お前がビビろうがどうなろうが、今の俺にはどうでもいい。

 俺は、マサキに頼まれたんだよ!

『竜雄様が『ある物』を出してくれさえすれば、合計1,000万円の借金は、こちらで肩代わりします。』

ってのがマサキからの伝言だ!それで、俺がその取引に出向くことになって、その場所は、人通りの少ない無人駅の、西駅に決まったんだよ!」

タツヤは、話を続けた。

「でもよお、俺もバカじゃねえ!ちょっとくらい、その竜雄の野郎から、チップをふんだくってもいいだろう?それで、俺は竜雄に、

とりあえず100万よこすように言ったんだよ!

 そしたらあのオッサン、

『それでは、話が違います!』

って、言い出したんだよ!それで、借金は自分で返すって言い出して、取引そのものをなしにしよう、って言い出すもんだから…、

 ちょうど電車が来た時に、俺が竜雄の野郎を、プラットフォームから突き落としてやったんだよ!

 それも、こうなることも予測して、事前に遺書まで偽造して、そのオッサンともみ合いをしてオッサンのポケットにそれをしのばせてだ!しかも、西駅は無人駅だから、目撃者なんていやしねえ!電車の乗客も、ほとんどいなかったし、俺はすぐに隠れたしなあ!なあ、俺って、頭いいだろう!?

 でも、それをマサキの野郎に、

『丸川竜雄さんは、借金と取引を苦にして、自殺しました。』

って報告しても、あいつ、信じやしねえ!それで挙句の果てには、

 『君を、うちに置いておくわけにはいきません。』

ってぬかしやがる!

 マサキにとっては、俺なんてトカゲの尻尾、ただの駒だったんだよ!俺は今回の件で、そのことをよおく思い知らされたね!

 もう謝ったって無駄だぞ!俺は自首して、お前らの悪事、洗いざらい話してやるからな!」

 高司は、突然知らされた父の事件の真相に、ただただ驚くしかなかった。しかし、タツヤの言うことが全て本当なら、悪いのは「マサキ」とかいう奴だけではない。タツヤも、自分勝手な理由で人を殺しているではないか、高司はそう思った。

 「あと、付け加えだ。そのマサキなんだけどよお、vetoで、お前の父親と対戦して勝って、500万円の借金を背負わせてるんだぜ!

 何でも、vetoに誘ったのもマサキの計略らしいじゃねえか!」

 『そうか、そのマサキって奴が、父さんをvetoの世界に引きずりこんだのか…。』

高司はそれを聴き、憤りを隠せない。

 そして、高司はタツヤに、ある質問をした。

「その…借金の肩代わりの交換条件の、『ある物』って、何なんですか?」

 「さあな、俺も詳しくは知らねえけど、何かの写真…、」

「警備員さん、連れ出してください!」

タツヤがそれを言いかけた瞬間、ユウマが警備員に命令し、タツヤは取り押さえられた。

 「おいユウマ、そんなことしていいのかよ?絶対に後悔するぜ!なあ、俺も悪いことは言わねえ。俺との取引に応じてくれれば、俺もちょっとは考え…、」

「追い出してください!」

「おいユウマ、聴いてんのか!?お前…、お前だって、俺とおんなじようにマサキに切られ…、」

タツヤはさらに何かを言いかけたが、そのまま警備員に、連れ出されていった。


 「これはこれは、見苦しい所をお見せしてしまいました。

 しかし、警備の者は、いったい何をやっていたんでしょう?あんな乱入者1人くらい、事前に止められそうなものですが…。

 それはさておき、お父様の、丸川竜雄様の件ですが…、」

「さっきのタツヤさんの発言で、だいたいの真相は分かりました。」

「そうですか。我々が持っている情報も、あの、『タツヤが竜雄氏を殺した。』というものです。

 では、これで交渉は終了、ということで…。」

 「あの、『ある物』って、何なんですか?」

高司は老紳士に質問をしたが、老紳士はいたって冷静である。

 「それは私どもも、存じあげておりません…。」

「嘘ですよね?」

「たとえ嘘でも、それをあなた様にお伝えする義務は、我々にはありません。

 そんな交渉は、した覚えがありませんしね。」

老紳士は笑みを見せながらそう高司に答えた。そしてその老紳士の内面は、「笑み」とは正反対の、とても冷酷なものであるように、高司には感じられた。

 「宗像。その件に関して、この場で取引を、高司様としたいのですが…、」

ユウマは、宗像と呼ばれた老紳士を呼びとめた。そして、高司に語りかけた。

 「高司様。次回、vetoにご参加頂ければ、さらにこちらの持っている情報を、高司様にお伝え致します。

 …この件、今すぐにとは言いませんので、ご検討ください。」

「…分かりました。考えてみます。」

高司は、そう返答した。


 「高司、大丈夫?」

美里は、高司がユウマや老紳士と話し終えた後、高司に近づき、心配そうにこう高司に訊いた。

「…俺は大丈夫だよ。それより…、美里の方こそ大丈夫だった?

いきなりこんなの見たら、びっくりするよね?」

「大丈夫だって!私、こう見えて強いんだから!」

気丈な美里の声は、高司を安心させるには十分であった。

「それより、早く出よ?こんなとこ…。」

「それもそうだね。」

こう言って高司と美里の2人は、veto会場を後にした。


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