二 veto
『ここが、vetoの会場か…。』
高司は、初めて訪れたvetoの会場の雰囲気に、呑まれそうになっていた。そこは男性客が圧倒的に多く、客たちはおそらくお酒も入っているのであろう、そんな雰囲気であった。
「初めまして。私は今日のゲームの司会をさせて頂く、松葉という者です。
まず、機材の説明ですが…、」
「おい、松葉さんよう、そんなダラダラした説明しないで、さっさとゲーム、始めようぜえ!」
松葉が説明を始めてからすぐ、今日の高司の対戦相手の、タツヤがそう叫んだ。そして、タツヤは何度かこのゲームの経験があるのか、落ち着いた様子で下卑た笑みを浮かべており、また、タツヤの左手には、ポップコーンを入れた容器がある。
「よう兄ちゃん、タカシ、だったっけなあ?ここのポップコーン、うまいぜ?いるか?」
どうやらそのポップコーンは、この部屋の飲食物を売っている所で、買ったらしい。
「いえ、結構です。」
「何だよ兄ちゃん。ってかお前、緊張してんのか?おっもしれえ~。」
「すみませんが、まだ説明は全部終わっていません。」
タツヤが吹っかけてきた話を松葉が中断して、残りの説明を始めた。
「レディース・アンド・ジェントルメン!
お待たせ致しました!ただいまより、本日のvetoのゲームを、始めさせて頂きたいと思います!」
「オォー!」
松葉のそのコールと共に、観客は歓声をあげた。
「ってかここ、レディースはほとんどいねえじゃねえかよ?つまんねえなあ!」
それと同時に、勝手を知った顔のタツヤが大声をあげ、それがタツヤのピンマイクから、会場全体に拡散する。
「すみません。プレイヤーの方は、ゲームが始まるまで静かにしてください。」
松葉は、一瞬困った顔をしたが、すぐにタツヤにマイクでそう伝えた。そして会場は、そんな2人のやりとりを見て、笑っている。
「では気をとり直して。
今回のゲームの参加者は、タツヤさん、そして、高司さんです!」
「オォー!」
観客が声をあげると、タツヤがまたそれに口を挟んだ。
「言っとくが、俺はこの兄ちゃんには負けねえ!みんな、賭けるなら俺の方にしとけよ!」
「あの…、ですからプレイヤーの方は、指示があるまで静かにしてください。」
松葉も、タツヤのこの態度には、呆れ顔である。
「はい!
では、本日からのゲームの、審査員を紹介させて頂きたいと思います。」
松葉は審査員の、丈秀・元和・井庵の3人を紹介し、さらに説明を続けた。
「そして…気になる今回の賭け金ですが…、
なんと、1,000万円です!」
「す、すげえ…。」
あまりの賭け金の多さに、観客たちも息を呑んでいる。
「まあ、この1,000万円は、俺のもんだけどな!」
「タツヤさん、まだ説明の途中です!」
松葉はこう言ったが、タツヤを止めることは、半ば諦めているようであった。
「それでは今から、ゲーム開始です!皆さん、準備はいいですか?」
「オォー!」
松葉の煽りに、観客が応える。高司はその歓声を聞き、『もう後戻りはできない。』と気を引き締めた。
〈バトル1〉
「では、バトル1です!お二方の写真を、一斉に…ドン!」
観客は、スクリーンに映し出された2枚の写真を見た。
「まず、タツヤさんですが…、これは猫の写真ですね!素晴らしい!」
松葉はタツヤにそう言い、観客も、それに同調する反応であった。
また、タツヤの写真には、両サイドにフレームと思われる黒い2本の太い線が、入っている。
「そして、高司さんですが…、
これは、どこの風景ですか?」
「家の近くを、撮影しました。」
松葉からの質問に、高司が冷静に、そう答えた…ように見えたが、高司は相手の写真を見て、またその写真に熱狂する観客を見て、少し焦っていた。
『彼、ちゃらんぽらんなお調子者に見えるけど、写真の腕は、本物だ…。』
それは、写真を少し嗜んでいる高司も、認めざるを得ないものであった。
「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。
お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」
「兄ちゃん、怖けりゃこのバトル、降りてもいいんだぜえ?」
尚もポップコーンを食べながらプレイしているタツヤは、上機嫌であった。
『このバトル、タツヤさんの写真が良いから、負ける可能性が高いかもしれない…。
でも、ここで逃げていたら、このゲームには勝てない!』
高司は瞬時にそう判断し、挙手をした。
「はい、では、お二方ともバトルですね!
では写真の点数の方を、このゲームの審査員の丈秀・元和・井庵の3人の合議で、決めて頂きます。」
そしてしばらくの審議の後、この日の代表の丈秀が、点数を発表した。
「まず…、高司氏の方は…、7点!」
「オォー!」
一部の観客はそう歓声をあげたが、大半の観客は、その点数を妥当なものとみなしているようだ。
『ちょっと、点数が足りないかな…。』
高司は、心の中でそう思った。
「そして、タツヤ氏は…、9点!」
「オォー!」
「ちぇっ、満点じゃねえのかよ。」
観客はその点数を聞き、大きく歓声をあげたが、当のタツヤは、それに満足していない様子である。
「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」
「はい、使いません。」
高司はそう答えたが、タツヤは、待ってましたとばかりに、声を出した。
「おい、松葉さんよう!ここで、俺から魔法だ!」
「おっ!いきなり、タツヤさんからの魔法になります!
では、その内容は?」
観客も静まりかえり、タツヤの発言を待っている。
「まず、これは1ベット、1万円でどうだ?
この写真の両側に、フレームがついてるよな?
これで、『絶対値』発動だ!というわけで、それぞれの写真の点数は『絶対値換算』になって、マイナスにはならねえ!だから、今日の俺の点数は、『マイナス9』じゃなく、そのまま『9点』だ!
『絶対値』って、知ってっか兄ちゃん?」
「…はい。昔数学で勉強しました。」
「何だ。知ってんのかよ!
…それで、兄ちゃんには何のことか分からねえかもしれねえが、持ち点数を反対にする、『マイナス技』は使えねえぜ!」
「タツヤさん、過去のゲームの話をプレイヤーがするのは、御法度です。」
松葉がタツヤをそうたしなめ、タツヤは『仕方ねえなあ。』という様子で黙った。
「さあ、他に魔法は?」
「おっと、俺からもう1発だ!」
「おっと、タツヤさんまだ魔法を使うのですか!」
周囲の驚きの表情をよそに、タツヤは説明をした。
「これは…、5ベットでどうだ?
このフレームは、2本の棒にも見えるよな?
というわけで、賭け金を2倍、2,000万円でどうだ?」
「ウオォー!」
「2,000万円!?マジか?」
観客は、タツヤの口から「2,000万円」という言葉を聞き、さらにどよめいた。
そして、その言葉、金額は、高司にさらなる動揺を与えた。
「どうした兄ちゃん?嫌ならこの魔法、vetoしてもいいんだぜえ?」
タツヤは、挑戦的な目つきで、笑いながら高司を睨んでいる。
『もしこの勝負に負ければ、2,000万円の借金を背負うことになる。それは、何としても避けたい…。
でも、相手はこのゲームに慣れている。ここでvetoを使っても、対抗魔法で、結局金額はまた2,000万円にされるかもしれない…。
ここは我慢して、vetoは大事な時にとっておいた方がいい!』
高司はそう考え、
「いえ、vetoは使いません。」
と、発言した。
「おお~いい度胸じゃねえか!
おもしれえ!じゃあ明日も、楽しみにしてるぜ!」
その日のバトルは、この局面で終わり、となった。
〈バトル2〉
「ではでは、本日はバトル2です!お二方の写真を、一斉に…ドン!」
高司は、前の日のバトルが終わった後すぐに写真の題材を探し、家の近くを回った。そして、家の近くに流れる、田舎風情のある小川の写真を、撮ったのであった。
『よし、これで少なくとも、昨日よりかは良い写真がとれたぞ!』
高司は写真を撮り終えた後、そう思った。しかし…、
「おっ、今日のタツヤさんの写真は、…ビルですか?これも、素晴らしい!」
タツヤの写真は、その高司の写真を完全に凌駕する物であった。そこには、ツインタワーのビルが、写りこんでいた。
「まっ、俺の腕前を持ってすれば、これくらい朝飯前よ!」
タツヤは、松葉に写真を「素晴らしい」と言われ、また観客の反応を見て、かなり上機嫌になっている。また、その左手には、相変わらずポップコーンを入れた容器が、あった。
『彼、昨日の写真はまぐれじゃない。本当に、写真を撮るのが上手だ…。』
高司は、そう思った。
「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。
お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」
「はい、はーい、っと!」
タツヤは、おどけた様子で手を挙げた。それは、完全にこの場を楽しむ顔であった。
「はい!」
そして高司も手を挙げ、バトルに参加する意思表示をする。
「おお兄ちゃん、いいねえ!その闘争心、褒めてやるよ!ただ、兄ちゃんにはちょっと、無鉄砲なとこもあるみたいだねえ!」
タツヤはそう言って、ゲラゲラ笑っている。
「ではお二方ともバトルということで、点数の方を、丈秀・元和・井庵の3人に、決めて頂きます!
…それでは、点数が決まったようです。では、本日の代表者の元和より、点数を発表させて頂きます!」
観客は、昨日と同じく、静まりかえって点数を待っている。
「では、発表させてもらう。
まず、タツヤ氏は…、10点、満点!」
「オォー!」
「さすがだな!」
観客のどこからともなく聞こえてくるそういった反応に、
「ま、俺が本気出せば、満点くらい余裕だな!」
とタツヤが答え、その言葉がさらに観客を煽る。これは、タツヤや観客にとっては気分がいいことかもしれないが、高司側からすれば、「煽りの悪循環」だ。
「そして、高司氏は…8点!」
「オォー!」
「兄ちゃんもやるな!」
周りの観客は、高司にこう声をかけた。確かに高司の点数は、昨日と比べて1点増えたが、それでもタツヤには、及ばない点数だ。
「いいねえ兄ちゃん!腕、ちょっと上げたんじゃねえの?」
タツヤはその点数を聞き、余裕綽々(しゃくしゃく)の表情でそう言った。
そして、高司の顔は、悔しさで少し歪んでしまった。
「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」
「おっと、俺は魔法を使わせてもらうぜ!」
タツヤがそう声を出した時、高司は嫌な予感がした。…いや、その嫌な予感は、高司がタツヤの写真を見た瞬間から、高司の心に芽生えたものであった。
「この写真、ツインタワーだよな?
というわけで、5ベット追加で、賭け金をもう2倍、計4,000万円でどうだ!?」
「よ、4,000万円…。」
観客は、タツヤの魔法による金額、またそれを出したタツヤの自信満々な態度に、息を呑んだ。
『やっぱり、ツインタワーを撮ったのは、そういう狙いがあったんだ。
…前の写真と一緒だ。』
高司の予感は的中したが、もちろん高司はそれを喜ぶ気にはなれなかった。
「さあ、どうする、兄ちゃんよ?」
そして、タツヤは高司に、挑戦的な視線を浴びせ続けている。
「すみません…、俺、vetoします!」
「ふん!さすがに、4,000万円には怖気づいたかなあ!?」
「いえ、俺は、タツヤさんの今回の点数、10点をvetoで無効にします!」
「オォー!」
「じゃ、4,000万円は確定だな!」
周りの人間たちは、高司の判断と、ギリギリの精神力を、賞賛した。
「ちっ、ちょっとはビビってくれねえと、面白くねえなあ!
まあいいや。あと、対抗魔法は使わねえぜ!」
「分かりました。では、今回のバトルは、両者ポイントなし、そして現時点での途中経過は、9―0で、タツヤさんのリード、となります!
では明日はゲーム最終日です!明日も、よろしくお願いします!」
松葉はこう言って、その日を締めた。
『おそらく、金額にvetoしていたら、対抗魔法を使われていただろう。
ということは、こうするしかなかった…にしても、4,000万円は大金過ぎる…。
こうなったら、3日目のバトル3で、何とかするしかない!』
高司は、後に退けない思いと共に、自分自身に気合を入れた。
〈バトル3〉
「では、本日がこのゲーム、最終日となります!
早速、お二方の写真を一斉に…ドン!」
松葉はこう告げ、高司の、運命を賭けた最後のバトルが、始まった。
「では、高司さんの写真ですが…、これはウィスキーですか?それに、トランプも写ってますね!
何とも、ギャンブル会場にふさわしい写真です!」
松葉はこう言い、高司の写真を讃えた。そして観客からも、
「兄ちゃん、だんだん腕、上げてるんじゃねえか?」
といった声が、聞こえてくる。
そして、それを聞いたタツヤは、
「ふん!確かに腕は上げてるかもしれねえが、もう間に合わねえんじゃねえの?」
と、お決まりのポップコーンと共に吐き捨てた。
「次は、タツヤさんの写真ですが…、
これはうって変わって、抽象的な写真ですね…。同じ人が撮った物とは、思えません…。
でも、素晴らしい写真です!」
タツヤのその日の写真は、写実的だった今までとは打って変わり、芸術性の高い物であった。
「まあ、素晴らしいのは、お前に言われなくても分かってるよ!」
タツヤは、気を良くした態度でこう言い、その言葉が観客の熱気をさらに上げる。
『確かにこの写真は、前回に勝るとも劣らない、いい写真だ。
でも、彼がこういう写真を撮ったのは、単に芸術性を求めたからだけじゃない…。
この抽象的な1枚じゃ、俺は相手の写真から考える、魔法を使いづらい…。言ってみれば、これは絵柄のないカードと同じだ。そうして魔法を使う余地を少なくして、彼は今の点数で、逃げ切りを図る気だ…。
やっぱり彼は、このゲームに慣れている…。』
高司は、そう考えた。そして、気を引き締めた。
「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。
お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」
そう松葉が言うと、タツヤはもちろん、もう逃げることのできない高司も、手を挙げた。
そして、その日の代表の井庵から、点数が発表された。
「まず、高司氏は…8点!」
その点数を聞き、タツヤは笑いをこらえることができない様子である。
「そして、タツヤ氏は…、10点、満点!」
「オォー!」
「このタツヤって、何でもできるんだな!」
観客はタツヤの写真を見、点数を聞いて、感心した様子である。
「ふん!これで勝負も終わりだな!
兄ちゃん、じゃあ4,000万頼むぜ!
俺はビタ一文負けねえからな!」
まだゲームは終わっていないが、タツヤは勝ち誇った様子である。
「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」
松葉がそう言うと、高司が、手を挙げた。
「すみません、俺、魔法を使います!
この写真、ウィスキーが写ってますよね?この飲み方は、トワイスアップです!…と、いうわけで、トワイス、2回分ということで、バトルをもう1回分、増やすことを提案します!
…これは5ベットで!」
「オォー!」
「もう1回か!」
観客は高司の魔法を聞き、興奮したが、タツヤの様子は全く変わらない。
「よう兄ちゃん。それで、逃げたつもりか?
まあ兄ちゃんにしてはよく考えたし、もう1回バトルに付き合ってやってもいいが、やっぱりめんどくせえ!
その魔法、vetoだ!
あと、俺からも5ベット追加で魔法だ!トワイスアップなら、トワイス、2倍で賭け金も2倍、計8倍で8,000万円、はどうだ?」
観客は、その金額に再度、度肝を抜かれた。
「ふん!兄ちゃん!自分の魔法が、裏目に出たな!じゃあ8,000万、頼むぜ!」
とタツヤが言い終わらないうちに、高司はさらに仕掛けた。
「では、俺から対抗魔法を使います!
今から、8倍を無効にします。
このトランプゲームは、大富豪です。と、いうわけで、8切りが成立、したがって8倍は無効になることを、提案します!」
「オォー!」
「兄ちゃん、意外と頭いいなあ!」
観客は、ここまでの魔法の応酬、頭脳戦に、酔いしれた様子である。
「何!?1倍の賭け金だと?
ふざけんじゃねえ!それだと7,000万円も損するじゃねえか!
いいだろう。異議ありだ!5ベット追加だ!それで、大富豪で1番強いカード、そこに写りこんでいるカード、2を使わせてもらうぜ!
と、いうわけで、賭け金をもう2倍、16倍の1億6,000万円でどうだ!?
これで、8倍じゃねえから8切りは使えねえ!
お前の姑息な魔法も、これで終わりだ!」
しかし、高司はそれを聞いた後も、冷静であった。
「何だ?落ち込まねえのか?どう考えてもこれでお前は終わり…。」
「タツヤさん、あなたのその魔法、待ってました。
僕から10ベット追加で、魔法を発動します。
大富豪には、『革命』というルールがあります。
と、いうわけで、本物の大富豪の革命と同じく、強さを入れ替えます。
この、vetoに当てはめると、それはポイントになりますね。
なので、ポイント入れ替えを、提案します!」
「すげえ兄ちゃん!頭いいなあ!」
観客は、この2人の読み合いを、心から楽しんでいた。
「な、何だと!
異議ありだ!確か『革命』は、カードが4つ揃ってないと発動されねえよな?だから無効だ!
5ベット追加だ!」
タツヤは、反射的にそう叫んだ。そして、タツヤにいつもの余裕はなく、手に持ったポップコーンも、少し前から口には運んでいない。
「分かりました。では、4つ何かを揃えれば、革命は成立ですね?
審査員の方、それでいいですか?」
「もちろんだ。ベットも払ったことだし、何かを4つ揃えれば、魔法は有効だ。」
「何が4つだ。往生際がわりぃぞ!この中で、4つ揃ったものなんて…、」
「聞いてください、タツヤさん。
まず、今回の現時点での賭け金は、元の賭け金の16倍ですよね?」
「お、おう…。」
「そして、8切りは無効になったわけではありません。そこで8です。」
「だから何だってんだよ?」
「そして、俺の点数、8点を加えると、
『1、6、8、8』
になります。これで、『4つ揃いました。』」
「ハハハ!何言ってんだよ!?」
タツヤは、そう言って、笑いながら口を開いた。
「そんなもん、デタラメに数字を並べただけじゃねえか!?それで4つ揃えたなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ!」
「タツヤさん、この『1688』の意味、ご存知ないみたいですね?」
「あん!?」
「では今から説明します。
これは、イギリスで、『名誉革命』という革命が起こった年です。ここでは関係がないので、それがどういった革命であったかの説明は省きます。
ただ、これで4つの数字が揃い、『革命』というキーワードも入ったので、革命は成立、ということでいいでしょうか?」
「うむ、問題はない。」
「ウオォー!」
「兄ちゃん、知識も豊富だなあ!」
観客は、この逆転劇を間近で見ることができ、さらに興奮した。
「ちょ、ちょっと待て!異議ありだ!魔法だ!」
そう言ったタツヤの顔からは、血の気がひいている。
「ではタツヤさん、2分以内で異議ありの魔法をお願いします!」
「いや、そ、それは…。」
しかし、タツヤの口から、魔法が告げられることはなかった。
「それでは、これでゲーム終了となります!このゲームは、魔法の効果、『革命』によるポイント入れ替えの結果、19―0で高司さんの勝利となります!
今回負けたタツヤさんには、賭け金1億6,000万円と、タツヤさんが提示した21ベット分の21万円、計1億6,021万円を、お支払い頂きます!」
松葉がこう、タツヤに告げた。しかしタツヤは、負けを認めようとしない。
「何だよそれ!?こんなの、売り言葉に買い言葉じゃねえか!まぐれだまぐれ!」
しかし、当の高司はいたって冷静である。
「タツヤさん、俺はタツヤさんの今回の出方、読んでましたよ。」
「ふざけんなよてめえ!じゃああれか、あの『革命』も、読んでたのかよ!?
そうだ、あれはお前の写真の点数、8点がねえと、成立しねえ!いくら俺の動きを読んだところで、結局それとは関係ねえ、点数頼みだった、ってことだよ!
…!?」
ここまで言ってタツヤは、タツヤの頭の中に浮かんだ、ある疑問を口にした。
「…まさかお前、自分の写真の点数まで、読んでたのかよ!?」
その口ぶりは、今までの高圧的なものとは、対照的なものであった。
「もちろん。
まあ、前回の写真で8点だったので、今回はそれと同じレベルのものを撮っただけです。
そんなに、深い読みではないと思いますけどね。」
タツヤはその言葉を聞き、この、自分より年下であろう高司が、恐ろしくなった。
しかし、タツヤは少しの畏怖と沈黙の後、理性のスイッチが外れたかのように、喚き散らした。
「ふざけんな!こんなゲーム、イカサマだ!何がvetoだ!俺は絶対、金なんか払わねえぞ!
な、頼むよ兄ちゃん。俺だって苦しいんだよ。だから、今回のゲームはなかったことに…、」
「では、タツヤ様がお帰りです。丁重に、お見送りしてください。」
すると、その様子を見ていた老紳士が、警備員にそう言い、タツヤは、強引に会場から引っ張られ、外へ連れ出されていった。
「アァー!」
その間、タツヤはまるで処刑される前であるかのように、大声を出して抵抗したが、外へ連れ出され、会場からその声は聞こえなくなった。
「おめでとうございます、高司様。これであなたの手元に、1億6,021万円から、控除率を引いた分が入ります。
これで借金も返せますね。では、この後のことは、追ってご連絡致します。
今日はお疲れでしょうから、ゆっくり、お休みください。」
「あ、あの、それで父のことは…。」
「もちろん、後日連絡致しますよ。」
高司はそれを聞き、一安心した。そして、その日は実家へと、帰っていった。
高司は実家に戻った後、一眠りしようとして、ベッドに潜り込んだ。しかし、ついさっきまでのゲームで興奮していたせいか、全く眠りにつくことが、できない。
『それにしても、勝てて良かった…。
でも、はっきり言って俺の戦略は、大きな賭けだった。俺は相手の性格と戦術を読んで、ベストを尽くしたつもりだけど、
8切りで『賭け金8倍』を無効にした時、相手が冷静になって、『賭け金は1,000万円でいい。』って言ってたら、俺、終わりだった。
もちろん俺は相手の気性を読んで、そうはならないって踏んだ。でも、あの時点で勝負がひっくり返ったわけじゃない。そう思うと…。
ああ、まあいっか!とりあえず、勝ったんだし…。』
高司は、そこで考えるのを止めた。そして、「父の死に関する情報を持っている」という、老紳士からの連絡を、待つことにした。
また、この「veto」が高司にとって、初めてのお金を賭けたギャンブルであった。
そして、この時の高司は、自分の中に芽生えたある感情に、自分でも気づいていなかった。