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VETO  作者: 水谷一志
3/5

二 veto

 『ここが、vetoの会場か…。』

高司は、初めて訪れたvetoの会場の雰囲気に、呑まれそうになっていた。そこは男性客が圧倒的に多く、客たちはおそらくお酒も入っているのであろう、そんな雰囲気であった。

 「初めまして。私は今日のゲームの司会をさせて頂く、松葉という者です。

 まず、機材の説明ですが…、」

「おい、松葉さんよう、そんなダラダラした説明しないで、さっさとゲーム、始めようぜえ!」

松葉が説明を始めてからすぐ、今日の高司の対戦相手の、タツヤがそう叫んだ。そして、タツヤは何度かこのゲームの経験があるのか、落ち着いた様子で下卑た笑みを浮かべており、また、タツヤの左手には、ポップコーンを入れた容器がある。

 「よう兄ちゃん、タカシ、だったっけなあ?ここのポップコーン、うまいぜ?いるか?」

どうやらそのポップコーンは、この部屋の飲食物を売っている所で、買ったらしい。

 「いえ、結構です。」

「何だよ兄ちゃん。ってかお前、緊張してんのか?おっもしれえ~。」

「すみませんが、まだ説明は全部終わっていません。」

タツヤが吹っかけてきた話を松葉が中断して、残りの説明を始めた。


 「レディース・アンド・ジェントルメン!

 お待たせ致しました!ただいまより、本日のvetoのゲームを、始めさせて頂きたいと思います!」

「オォー!」

松葉のそのコールと共に、観客は歓声をあげた。

「ってかここ、レディースはほとんどいねえじゃねえかよ?つまんねえなあ!」

それと同時に、勝手を知った顔のタツヤが大声をあげ、それがタツヤのピンマイクから、会場全体に拡散する。

 「すみません。プレイヤーの方は、ゲームが始まるまで静かにしてください。」

松葉は、一瞬困った顔をしたが、すぐにタツヤにマイクでそう伝えた。そして会場は、そんな2人のやりとりを見て、笑っている。

 「では気をとり直して。

 今回のゲームの参加者は、タツヤさん、そして、高司さんです!」

「オォー!」

観客が声をあげると、タツヤがまたそれに口を挟んだ。

「言っとくが、俺はこの兄ちゃんには負けねえ!みんな、賭けるなら俺の方にしとけよ!」

「あの…、ですからプレイヤーの方は、指示があるまで静かにしてください。」

松葉も、タツヤのこの態度には、呆れ顔である。

「はい!

 では、本日からのゲームの、審査員を紹介させて頂きたいと思います。」

松葉は審査員の、丈秀・元和・井庵の3人を紹介し、さらに説明を続けた。

 「そして…気になる今回の賭け金ですが…、

なんと、1,000万円です!」

「す、すげえ…。」

あまりの賭け金の多さに、観客たちも息を呑んでいる。

 「まあ、この1,000万円は、俺のもんだけどな!」

「タツヤさん、まだ説明の途中です!」

松葉はこう言ったが、タツヤを止めることは、半ば諦めているようであった。


 「それでは今から、ゲーム開始です!皆さん、準備はいいですか?」

「オォー!」

松葉の煽りに、観客が応える。高司はその歓声を聞き、『もう後戻りはできない。』と気を引き締めた。


 〈バトル1〉

 「では、バトル1です!お二方の写真を、一斉に…ドン!」

観客は、スクリーンに映し出された2枚の写真を見た。

 「まず、タツヤさんですが…、これは猫の写真ですね!素晴らしい!」

 松葉はタツヤにそう言い、観客も、それに同調する反応であった。

 また、タツヤの写真には、両サイドにフレームと思われる黒い2本の太い線が、入っている。

 「そして、高司さんですが…、

 これは、どこの風景ですか?」

「家の近くを、撮影しました。」

松葉からの質問に、高司が冷静に、そう答えた…ように見えたが、高司は相手の写真を見て、またその写真に熱狂する観客を見て、少し焦っていた。

 『彼、ちゃらんぽらんなお調子者に見えるけど、写真の腕は、本物だ…。』

それは、写真を少し嗜んでいる高司も、認めざるを得ないものであった。

 「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。

 お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」

 「兄ちゃん、怖けりゃこのバトル、降りてもいいんだぜえ?」

尚もポップコーンを食べながらプレイしているタツヤは、上機嫌であった。

『このバトル、タツヤさんの写真が良いから、負ける可能性が高いかもしれない…。

 でも、ここで逃げていたら、このゲームには勝てない!』

高司は瞬時にそう判断し、挙手をした。

 「はい、では、お二方ともバトルですね!

では写真の点数の方を、このゲームの審査員の丈秀・元和・井庵の3人の合議で、決めて頂きます。」

そしてしばらくの審議の後、この日の代表の丈秀が、点数を発表した。

 「まず…、高司氏の方は…、7点!」

「オォー!」

一部の観客はそう歓声をあげたが、大半の観客は、その点数を妥当なものとみなしているようだ。

『ちょっと、点数が足りないかな…。』

高司は、心の中でそう思った。

 「そして、タツヤ氏は…、9点!」

「オォー!」

「ちぇっ、満点じゃねえのかよ。」

観客はその点数を聞き、大きく歓声をあげたが、当のタツヤは、それに満足していない様子である。

 「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

「はい、使いません。」

高司はそう答えたが、タツヤは、待ってましたとばかりに、声を出した。

 「おい、松葉さんよう!ここで、俺から魔法だ!」

「おっ!いきなり、タツヤさんからの魔法になります!

 では、その内容は?」

観客も静まりかえり、タツヤの発言を待っている。

 「まず、これは1ベット、1万円でどうだ?

 この写真の両側に、フレームがついてるよな?

 これで、『絶対値』発動だ!というわけで、それぞれの写真の点数は『絶対値換算』になって、マイナスにはならねえ!だから、今日の俺の点数は、『マイナス9』じゃなく、そのまま『9点』だ!

 『絶対値』って、知ってっか兄ちゃん?」

「…はい。昔数学で勉強しました。」

「何だ。知ってんのかよ!

 …それで、兄ちゃんには何のことか分からねえかもしれねえが、持ち点数を反対にする、『マイナス技』は使えねえぜ!」

「タツヤさん、過去のゲームの話をプレイヤーがするのは、御法度です。」

松葉がタツヤをそうたしなめ、タツヤは『仕方ねえなあ。』という様子で黙った。

 

 「さあ、他に魔法は?」

「おっと、俺からもう1発だ!」

「おっと、タツヤさんまだ魔法を使うのですか!」

 周囲の驚きの表情をよそに、タツヤは説明をした。

 「これは…、5ベットでどうだ?

 このフレームは、2本の棒にも見えるよな?

 というわけで、賭け金を2倍、2,000万円でどうだ?」

「ウオォー!」

「2,000万円!?マジか?」

観客は、タツヤの口から「2,000万円」という言葉を聞き、さらにどよめいた。

 そして、その言葉、金額は、高司にさらなる動揺を与えた。

 「どうした兄ちゃん?嫌ならこの魔法、vetoしてもいいんだぜえ?」

タツヤは、挑戦的な目つきで、笑いながら高司を睨んでいる。

 『もしこの勝負に負ければ、2,000万円の借金を背負うことになる。それは、何としても避けたい…。

 でも、相手はこのゲームに慣れている。ここでvetoを使っても、対抗魔法で、結局金額はまた2,000万円にされるかもしれない…。

 ここは我慢して、vetoは大事な時にとっておいた方がいい!』

高司はそう考え、

「いえ、vetoは使いません。」

と、発言した。

 「おお~いい度胸じゃねえか!

 おもしれえ!じゃあ明日も、楽しみにしてるぜ!」

 その日のバトルは、この局面で終わり、となった。


 〈バトル2〉

 「ではでは、本日はバトル2です!お二方の写真を、一斉に…ドン!」

高司は、前の日のバトルが終わった後すぐに写真の題材を探し、家の近くを回った。そして、家の近くに流れる、田舎風情のある小川の写真を、撮ったのであった。

『よし、これで少なくとも、昨日よりかは良い写真がとれたぞ!』

高司は写真を撮り終えた後、そう思った。しかし…、

 「おっ、今日のタツヤさんの写真は、…ビルですか?これも、素晴らしい!」

タツヤの写真は、その高司の写真を完全に凌駕する物であった。そこには、ツインタワーのビルが、写りこんでいた。

「まっ、俺の腕前を持ってすれば、これくらい朝飯前よ!」

タツヤは、松葉に写真を「素晴らしい」と言われ、また観客の反応を見て、かなり上機嫌になっている。また、その左手には、相変わらずポップコーンを入れた容器が、あった。

 『彼、昨日の写真はまぐれじゃない。本当に、写真を撮るのが上手だ…。』

高司は、そう思った。

 「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。

 お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」

「はい、はーい、っと!」

タツヤは、おどけた様子で手を挙げた。それは、完全にこの場を楽しむ顔であった。

「はい!」

そして高司も手を挙げ、バトルに参加する意思表示をする。

 「おお兄ちゃん、いいねえ!その闘争心、褒めてやるよ!ただ、兄ちゃんにはちょっと、無鉄砲なとこもあるみたいだねえ!」

タツヤはそう言って、ゲラゲラ笑っている。

 「ではお二方ともバトルということで、点数の方を、丈秀・元和・井庵の3人に、決めて頂きます!

 …それでは、点数が決まったようです。では、本日の代表者の元和より、点数を発表させて頂きます!」

 観客は、昨日と同じく、静まりかえって点数を待っている。

 「では、発表させてもらう。

 まず、タツヤ氏は…、10点、満点!」

「オォー!」

「さすがだな!」

観客のどこからともなく聞こえてくるそういった反応に、

「ま、俺が本気出せば、満点くらい余裕だな!」

とタツヤが答え、その言葉がさらに観客を煽る。これは、タツヤや観客にとっては気分がいいことかもしれないが、高司側からすれば、「煽りの悪循環」だ。

 「そして、高司氏は…8点!」

「オォー!」

「兄ちゃんもやるな!」

周りの観客は、高司にこう声をかけた。確かに高司の点数は、昨日と比べて1点増えたが、それでもタツヤには、及ばない点数だ。

 「いいねえ兄ちゃん!腕、ちょっと上げたんじゃねえの?」

タツヤはその点数を聞き、余裕綽々(しゃくしゃく)の表情でそう言った。

 そして、高司の顔は、悔しさで少し歪んでしまった。

 「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

「おっと、俺は魔法を使わせてもらうぜ!」

タツヤがそう声を出した時、高司は嫌な予感がした。…いや、その嫌な予感は、高司がタツヤの写真を見た瞬間から、高司の心に芽生えたものであった。

 「この写真、ツインタワーだよな?

 というわけで、5ベット追加で、賭け金をもう2倍、計4,000万円でどうだ!?」

「よ、4,000万円…。」

観客は、タツヤの魔法による金額、またそれを出したタツヤの自信満々な態度に、息を呑んだ。

 『やっぱり、ツインタワーを撮ったのは、そういう狙いがあったんだ。

 …前の写真と一緒だ。』

高司の予感は的中したが、もちろん高司はそれを喜ぶ気にはなれなかった。

 「さあ、どうする、兄ちゃんよ?」

そして、タツヤは高司に、挑戦的な視線を浴びせ続けている。

 「すみません…、俺、vetoします!」

「ふん!さすがに、4,000万円には怖気づいたかなあ!?」

「いえ、俺は、タツヤさんの今回の点数、10点をvetoで無効にします!」

「オォー!」

「じゃ、4,000万円は確定だな!」

周りの人間たちは、高司の判断と、ギリギリの精神力を、賞賛した。

 「ちっ、ちょっとはビビってくれねえと、面白くねえなあ!

 まあいいや。あと、対抗魔法は使わねえぜ!」

 「分かりました。では、今回のバトルは、両者ポイントなし、そして現時点での途中経過は、9―0で、タツヤさんのリード、となります!

 では明日はゲーム最終日です!明日も、よろしくお願いします!」

松葉はこう言って、その日を締めた。


 『おそらく、金額にvetoしていたら、対抗魔法を使われていただろう。

 ということは、こうするしかなかった…にしても、4,000万円は大金過ぎる…。

 こうなったら、3日目のバトル3で、何とかするしかない!』

 高司は、後に退けない思いと共に、自分自身に気合を入れた。


 〈バトル3〉

 「では、本日がこのゲーム、最終日となります!

 早速、お二方の写真を一斉に…ドン!」

松葉はこう告げ、高司の、運命を賭けた最後のバトルが、始まった。

 「では、高司さんの写真ですが…、これはウィスキーですか?それに、トランプも写ってますね!

 何とも、ギャンブル会場にふさわしい写真です!」

松葉はこう言い、高司の写真を讃えた。そして観客からも、

「兄ちゃん、だんだん腕、上げてるんじゃねえか?」

といった声が、聞こえてくる。

 そして、それを聞いたタツヤは、

「ふん!確かに腕は上げてるかもしれねえが、もう間に合わねえんじゃねえの?」

と、お決まりのポップコーンと共に吐き捨てた。

 「次は、タツヤさんの写真ですが…、

 これはうって変わって、抽象的な写真ですね…。同じ人が撮った物とは、思えません…。

でも、素晴らしい写真です!」

タツヤのその日の写真は、写実的だった今までとは打って変わり、芸術性の高い物であった。

「まあ、素晴らしいのは、お前に言われなくても分かってるよ!」

タツヤは、気を良くした態度でこう言い、その言葉が観客の熱気をさらに上げる。

 『確かにこの写真は、前回に勝るとも劣らない、いい写真だ。

 でも、彼がこういう写真を撮ったのは、単に芸術性を求めたからだけじゃない…。

 この抽象的な1枚じゃ、俺は相手の写真から考える、魔法を使いづらい…。言ってみれば、これは絵柄のないカードと同じだ。そうして魔法を使う余地を少なくして、彼は今の点数で、逃げ切りを図る気だ…。

 やっぱり彼は、このゲームに慣れている…。』

高司は、そう考えた。そして、気を引き締めた。

 「ではお二方、このタイミングで、バトルするかどうか、決めて頂きます。

 お二方、バトルするなら、挙手をお願いします!」

そう松葉が言うと、タツヤはもちろん、もう逃げることのできない高司も、手を挙げた。

 そして、その日の代表の井庵から、点数が発表された。

 「まず、高司氏は…8点!」

その点数を聞き、タツヤは笑いをこらえることができない様子である。

「そして、タツヤ氏は…、10点、満点!」

「オォー!」

「このタツヤって、何でもできるんだな!」

観客はタツヤの写真を見、点数を聞いて、感心した様子である。

 「ふん!これで勝負も終わりだな!

 兄ちゃん、じゃあ4,000万頼むぜ!

 俺はビタ一文負けねえからな!」

まだゲームは終わっていないが、タツヤは勝ち誇った様子である。

 「さて、お二方、veto、魔法の方はよろしいですか?」

松葉がそう言うと、高司が、手を挙げた。

 「すみません、俺、魔法を使います!

 この写真、ウィスキーが写ってますよね?この飲み方は、トワイスアップです!…と、いうわけで、トワイス、2回分ということで、バトルをもう1回分、増やすことを提案します!

 …これは5ベットで!」

「オォー!」

「もう1回か!」

観客は高司の魔法を聞き、興奮したが、タツヤの様子は全く変わらない。

 「よう兄ちゃん。それで、逃げたつもりか?

 まあ兄ちゃんにしてはよく考えたし、もう1回バトルに付き合ってやってもいいが、やっぱりめんどくせえ!

 その魔法、vetoだ!

 あと、俺からも5ベット追加で魔法だ!トワイスアップなら、トワイス、2倍で賭け金も2倍、計8倍で8,000万円、はどうだ?」

 観客は、その金額に再度、度肝を抜かれた。

「ふん!兄ちゃん!自分の魔法が、裏目に出たな!じゃあ8,000万、頼むぜ!」

とタツヤが言い終わらないうちに、高司はさらに仕掛けた。

 「では、俺から対抗魔法を使います!

 今から、8倍を無効にします。

 このトランプゲームは、大富豪です。と、いうわけで、8切りが成立、したがって8倍は無効になることを、提案します!」

 「オォー!」

「兄ちゃん、意外と頭いいなあ!」

観客は、ここまでの魔法の応酬、頭脳戦に、酔いしれた様子である。

 「何!?1倍の賭け金だと?

 ふざけんじゃねえ!それだと7,000万円も損するじゃねえか!

 いいだろう。異議ありだ!5ベット追加だ!それで、大富豪で1番強いカード、そこに写りこんでいるカード、2を使わせてもらうぜ!

 と、いうわけで、賭け金をもう2倍、16倍の1億6,000万円でどうだ!?

 これで、8倍じゃねえから8切りは使えねえ!

 お前の姑息な魔法も、これで終わりだ!」

しかし、高司はそれを聞いた後も、冷静であった。

 「何だ?落ち込まねえのか?どう考えてもこれでお前は終わり…。」

「タツヤさん、あなたのその魔法、待ってました。

 僕から10ベット追加で、魔法を発動します。

 大富豪には、『革命』というルールがあります。

 と、いうわけで、本物の大富豪の革命と同じく、強さを入れ替えます。

 この、vetoに当てはめると、それはポイントになりますね。

 なので、ポイント入れ替えを、提案します!」

「すげえ兄ちゃん!頭いいなあ!」

観客は、この2人の読み合いを、心から楽しんでいた。

 「な、何だと!

 異議ありだ!確か『革命』は、カードが4つ揃ってないと発動されねえよな?だから無効だ!

 5ベット追加だ!」

タツヤは、反射的にそう叫んだ。そして、タツヤにいつもの余裕はなく、手に持ったポップコーンも、少し前から口には運んでいない。

 「分かりました。では、4つ何かを揃えれば、革命は成立ですね?

 審査員の方、それでいいですか?」

「もちろんだ。ベットも払ったことだし、何かを4つ揃えれば、魔法は有効だ。」

「何が4つだ。往生際がわりぃぞ!この中で、4つ揃ったものなんて…、」

「聞いてください、タツヤさん。

 まず、今回の現時点での賭け金は、元の賭け金の16倍ですよね?」

「お、おう…。」

「そして、8切りは無効になったわけではありません。そこで8です。」

「だから何だってんだよ?」

「そして、俺の点数、8点を加えると、

『1、6、8、8』

になります。これで、『4つ揃いました。』」

「ハハハ!何言ってんだよ!?」

タツヤは、そう言って、笑いながら口を開いた。

 「そんなもん、デタラメに数字を並べただけじゃねえか!?それで4つ揃えたなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ!」

「タツヤさん、この『1688』の意味、ご存知ないみたいですね?」

「あん!?」

「では今から説明します。

 これは、イギリスで、『名誉革命』という革命が起こった年です。ここでは関係がないので、それがどういった革命であったかの説明は省きます。

 ただ、これで4つの数字が揃い、『革命』というキーワードも入ったので、革命は成立、ということでいいでしょうか?」

「うむ、問題はない。」

「ウオォー!」

「兄ちゃん、知識も豊富だなあ!」

観客は、この逆転劇を間近で見ることができ、さらに興奮した。

 「ちょ、ちょっと待て!異議ありだ!魔法だ!」

 そう言ったタツヤの顔からは、血の気がひいている。

「ではタツヤさん、2分以内で異議ありの魔法をお願いします!」

「いや、そ、それは…。」

しかし、タツヤの口から、魔法が告げられることはなかった。

 「それでは、これでゲーム終了となります!このゲームは、魔法の効果、『革命』によるポイント入れ替えの結果、19―0で高司さんの勝利となります!

 今回負けたタツヤさんには、賭け金1億6,000万円と、タツヤさんが提示した21ベット分の21万円、計1億6,021万円を、お支払い頂きます!」

松葉がこう、タツヤに告げた。しかしタツヤは、負けを認めようとしない。

 「何だよそれ!?こんなの、売り言葉に買い言葉じゃねえか!まぐれだまぐれ!」

 しかし、当の高司はいたって冷静である。

「タツヤさん、俺はタツヤさんの今回の出方、読んでましたよ。」

「ふざけんなよてめえ!じゃああれか、あの『革命』も、読んでたのかよ!?

 そうだ、あれはお前の写真の点数、8点がねえと、成立しねえ!いくら俺の動きを読んだところで、結局それとは関係ねえ、点数頼みだった、ってことだよ!

 …!?」

ここまで言ってタツヤは、タツヤの頭の中に浮かんだ、ある疑問を口にした。

 「…まさかお前、自分の写真の点数まで、読んでたのかよ!?」

その口ぶりは、今までの高圧的なものとは、対照的なものであった。

 「もちろん。

 まあ、前回の写真で8点だったので、今回はそれと同じレベルのものを撮っただけです。

そんなに、深い読みではないと思いますけどね。」

 タツヤはその言葉を聞き、この、自分より年下であろう高司が、恐ろしくなった。

 しかし、タツヤは少しの畏怖と沈黙の後、理性のスイッチが外れたかのように、喚き散らした。

 「ふざけんな!こんなゲーム、イカサマだ!何がvetoだ!俺は絶対、金なんか払わねえぞ!

 な、頼むよ兄ちゃん。俺だって苦しいんだよ。だから、今回のゲームはなかったことに…、」

 「では、タツヤ様がお帰りです。丁重に、お見送りしてください。」

すると、その様子を見ていた老紳士が、警備員にそう言い、タツヤは、強引に会場から引っ張られ、外へ連れ出されていった。

 「アァー!」

その間、タツヤはまるで処刑される前であるかのように、大声を出して抵抗したが、外へ連れ出され、会場からその声は聞こえなくなった。


 「おめでとうございます、高司様。これであなたの手元に、1億6,021万円から、控除率を引いた分が入ります。

 これで借金も返せますね。では、この後のことは、追ってご連絡致します。

 今日はお疲れでしょうから、ゆっくり、お休みください。」

 「あ、あの、それで父のことは…。」

「もちろん、後日連絡致しますよ。」

高司はそれを聞き、一安心した。そして、その日は実家へと、帰っていった。


 高司は実家に戻った後、一眠りしようとして、ベッドに潜り込んだ。しかし、ついさっきまでのゲームで興奮していたせいか、全く眠りにつくことが、できない。

 『それにしても、勝てて良かった…。

 でも、はっきり言って俺の戦略は、大きな賭けだった。俺は相手の性格と戦術を読んで、ベストを尽くしたつもりだけど、

 8切りで『賭け金8倍』を無効にした時、相手が冷静になって、『賭け金は1,000万円でいい。』って言ってたら、俺、終わりだった。

 もちろん俺は相手の気性を読んで、そうはならないって踏んだ。でも、あの時点で勝負がひっくり返ったわけじゃない。そう思うと…。

 ああ、まあいっか!とりあえず、勝ったんだし…。』

高司は、そこで考えるのを止めた。そして、「父の死に関する情報を持っている」という、老紳士からの連絡を、待つことにした。

 また、この「veto」が高司にとって、初めてのお金を賭けたギャンブルであった。

そして、この時の高司は、自分の中に芽生えたある感情に、自分でも気づいていなかった。


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