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目をゆっくり開いた。
ダイブする時の椅子に座ったままだった。
ダイブの際に身につけていたブーツや手袋、ヘルメットは消えていた。
椅子から降りて立ち上がる。
椅子以外には何もないガランとした部屋。
さっきまで横にいたコウヘイさんや、アシスタントの女性の姿もない。
自分の格好は与えられた仕事着、Tシャツとトランクスのままだった。
「あれ?ダイブできてない?」
困惑していると人工音声が流れてきた。
『プレイヤーメイクを開始します』
目の前に、もう一人の自分が現れた。
顔も背格好も俺。ただし服装はゲーム世界のものだ。
手を伸ばすと触ることができた。
そこに存在しているかのようだ。
「すごい、もう始まってた」
キャラクターメイクを始めてみた。
金髪長身超絶イケメンを作ってみたり、ガッシリした体格の壁役や小柄な盗賊役などを作ってみたりした。
「……どれも違うなあ」
ピンとこない。後からでも変えられるだろうし、最初は自分でいこう。
そう考えると、ふたたび自分そのままのキャラクターが表れた。
「とはいうものの、こうやって見ると俺、冴えないなー」
キラキラしたキャラクター達を見た後ではかなり見劣りする。
「まあ、まず、若くしよう。15歳だ」
んーと、もう少し筋肉つけようかな。モンスターと戦うこともあるだろうし。
身長を少しだけ高くして、いやいや、足を長くだ。
そして眉毛をちょっとだけ濃くして……目もちょっとクッキリと……良い感じだ。
名前も「ショータ」だ。よし。
「決定!」
すると決定した自キャラが消え、また違うモデルが現れた。
髪も顔も服もない。
人体モデルに縦横の線が入っている。
デッサン人形か自動車衝突実験のダミー人形の様だ。
『パートナーメイクを開始します』
再び人工音声が聞こえた。
モデル周辺に浮いているウインドウの一つ、『人種』を選ぶ。
『どのような姿をお望みですか?』
音声が帰ってきた。どうやら自由度が高いせいか、選択肢ではなく音声入力するらしい」
「鳥」
目の前のデッサン人形が小さくなって鳥の形になった。
ワシ、サギ、白鳥、フクロウ、ハチドリ、オウム…と姿が次々に変わる。
しゃべるオウムってのもありかな。
こどもの頃に読んだ動物と話すお医者さんの物語を思い出した。
「車」
『世界観にそぐわないため対応できません』
話して変形するスーパーカーはさすがに無理らしい。当たり前か。
「人間の女性」
目の前のオウムが女性のシルエットになった。
ドキっとした。
スライドバーを上下左右して、身長を高くしたり低くしたり、3サイズもいろいろ変えてみる。
ドキドキした。
シルエットだけというのが妙に興奮を誘う。
全身タイツというかラバースーツというか、新たな性癖の扉が開きそうだ。
それはさておき、自分の好みが形にできるわけだ。
どうしよう。
他のプレイヤーからも見られるよな。
性癖まる出しのパートナーを連れていたら周りにドン引きされるな。
いろいろ考えたあと、自キャラよりもちょっと低い身長、常識的な範囲で好みのスタイルにした。
実に良い感じだ。
次は上から行くと髪の毛かなあ、とボックスに触れると、髪の毛の長さ・太さ・ボリューム・色合い・髪型と膨大なツリーが広がった。
眉、目、鼻も同様だ。
これは無理だ。
女の子の姿とかそこまで詳しく観察してないし、どうすれば好みになるのかさっぱり分からない。
頭をかかえていると、それを察したのか音声がした。
『プリセットをお試しください』
プリセットを選ぶと、キャラクターというか役回りの視点でツリーが広がっていった。
最初は性別か。女性、と。
年齢は……年下、同じ、年上……じゃあ年上……2歳差で。
……次は関係性?
親子は無し。
夫婦? 15と17で? そーゆー時代設定ならあり?
恋人? いやいやいや早すぎるでしょ。
友人以上恋人未満……ナマナマしいな。
姉弟……いとこ……幼なじみ……これだ!
近所のお姉さんだ。
男のあこがれ、幼なじみのお姉さんにしよう。
性格……年上幼なじみだし、ちょっと世話焼きな感じで……あ、メイクボタンが出た。
じゃあメイク!
目の前の人形がいきなり人間に変わった。
髪から服から靴まで全身が揃っている。
布の服や革靴はゲーム内の標準装備っぽい。
背格好は最初に作ったもの。
身長は自分よりすこし低め。
出るところが出ている、太っても、痩せてもいない、実に魅力的なスタイルだ。
髪の毛はオレンジがかったブラウン、長さは肩より下くらい、後ろでまとめている。
顔は目をつぶってるけど優しげな美人だ。間違い無い。
横に並んでみたり、頭に手をおいてみたり、なでてみたり。
さあてそれではと胸に手を伸ばそうとしたところで『テスト』のボタンが表示された。
ドキドキしながらテストボタンに触れる。
女の子が目を開けた。
顔が俺の方を向き、目の焦点が俺に合って、にっこりと笑った。
「おはよう、ショータ。一緒に冒険するの、楽しみだね!」
ぐはっ
良い。これは良い。たまらん。
女性から好意にあふれた言葉を聞くのは生まれてこのかた初めてで、いや、母親くらいは……いやいや、とにかく衝撃が半端無い。
もうこれで良い気がする。
……でもまあ、一応違うのも試しておこうか。
えーとプリセットプリセット……
「ショータおにいちゃん、私のことちゃんと守ってね」
「ショータと冒険? どうしてもって言うならしょうがないけどさ」
「冒険。楽しみ。とても」
「ショータ、あんた荷物持ちね荷物もち。あと全部私がやるからよけいなことしないでよね! わたしの後をついてくればいいから!」」
「ショータ殿、ふつつか者ではありますがよろしくお願いします。死が二人を分かつまで!」
……きりがないな。
よし!最初の!
そう思うのと同時に目の前のパートナーが幼なじみお姉さんに戻った。
名前をどうしようかな…
『アイ』だ。
『アイ姉』っって呼ぼう。
じゃあ『決定』!
目の前のアイ姉が動き出した。
「ショータ、これで冒険の準備が整ったわ」
「椅子に座ってくれる? ここはゲームの準備部屋。今度が本当のダイブだから」
いきなりだなあと思いつつ。アイ姉に言われるまま椅子に座る。
「ショータ、目をつぶって。私にまかせて。始めるよ。5、4、3、2、1、ゼロ!」
2月4日 短くするため部分的に削除しました