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3日後、ホワールドの車で研究施設に連れてこられた。
「やあ、翔太君、よく来てくれたね」
施設内の部屋に入ると男性がデスクから立ち上がって迎えてくれた。
喫茶店で俺に仕事の説明をした人だ。
「ここは翔太君にテストプレイをしてもらう部屋。僕はコウヘイって言うんだけど、君がテストプレイしている様子を横でモニターする役目」
「明日からのテストプレイの前に、簡単にゲームの説明をするね」
大型ディスプレイにゲーム内のイメージ動画を流しながら、コウヘイさんが説明を始めた。
ゲームのタイトルは『ホワイト・ワールド』。
多人数が同時にゲーム世界にダイブして、自由に行動できる仮想世界。
剣と魔法の世界が舞台で、その中で何をしても良い。
探検やモンスター退治、謎解き、宝探しなんかに挑むこともできるし、農家や鍛冶屋などの生産職になってもいい。
「テストプレイだけど、して欲しいことがあるわけじゃない。好きにしてくれていいよ。何もしなくたっていい」
「さて、君が初めてダイブして、一番最初にしてもらうのがキャラクターメイクだ。アバターとも言うね。ゲーム内での君の姿格好を決めてもらう。名前も。性別を変えたって問題ないよ。人間以外の種族はまだ実装できてないけどね」
「それから、パートナーをメイクしてもらう」
「パートナーですか?」
「そう。君にいろいろアドバイスしたり教えてくれたりする、マニュアル兼ルールブック兼チューター兼初期パーティーだ」
「パートナーは本当に好きに作ってくれて構わない。世界観に反しない限りだけど、人形でも鳥でも、しゃべる魔法の帽子とかでもいい」
「パートナーメイクから先はパートナーが案内してくれる。そしてその案内に従うも従わないも自由だ。好きに過ごしてくれ」
「というわけで、今日の残った時間は、自分のキャラクターとかパートナーとかプレイスタイルを想像してみて。ワールド内の風景とかゲームイメージを君のタブレットに送っておくから」
「明日は朝の健康チェックが終わったら初ダイブだよ」
施設内のコンビニで弁当を買ったあと、自分に与えられた部屋に戻った。
カップラーメンにお湯を注いで待つ間に、コウヘイが送ってきたイメージを見てみる。
最初はドローンで撮影したような上空からの風景だった。
城壁に囲まれた都市、高原の村、岩山に並ぶ洞窟住居。
いろいろな世界を背景に畑を耕す人、馬車と護衛らしき騎士たち、大きな荷物を背負った冒険者。
さまざまな活動風景が写っている。
さらにページを送るとモンスターとの戦闘風景になった。
森の中では巨大な熊と戦士がタイマン、湖のほとりではローブ姿の女性が鰻の化け物に魔法を放っている。
砂漠ではサソリのようなモンスターと冒険者パーティーが戦っていた。
その後は酒屋で盛り上がる冒険者達、鍛冶屋で鎚をふるう職人、花びらが舞う中を歩くカップル。
っと、ラーメンが伸びてしまった。
浸み浸みのラーメンを食べながら考える。
何をしよう……何がしたいんだろう。
『自由にやれ! 好きにしろ!』と言われるのは生まれて初めてだ。
正直なところ戸惑っている。
攻略情報がゼロだから何の職業を選ぶのが良いかとか、パートナーはどうすれば効率的だとかもわからない。
夕食を終えても、風呂に入っても、歯をみがいても、これといった方針は生まれてこなかった。
自由と言われてもなあ……とか考えているうちに眠りに落ちた。
次の日、午前中は健康診断と直前のブリーフィング。
昼食をはさんで、初のダイブとなった。
「じゃあ、椅子に座って、足を裸足のままブーツに。次は手をグローブに入れて」
「後ろによりかかって。そうそう。安全のために手足を固定するよ。マウスピースも。よし。じゃあ最後にヘルメット。そう、ゆっくり下ろして」
大きいヘルメットがかぶさってきた。目の前は少し開いているが視界はとても狭い。
「いろいろセンサー付けるね、一瞬冷たいよ」
胸やら脇腹やらにいろいろ取り付けられた。
「さて準備はできた。翔太君、気分はどうだい?」
「えーっほ、ほひほひひへはふ」
「はは、悪くなさそうだね」
「ひょっほほあいへふ」
「それはそうだね、初めてのダイブは僕もそうだった」
「気休めになるかどうか、ダイブといっても実際に飛び込むわけじゃない。眠って、目覚めたら別世界だよ」
「あい」
「というわけで早速始めよう。目をつぶって」
「最初に僕がカウントダウンする。ゼロになったら続けて君が1、2、3とカウントアップしてくれ。するとダイブだ。次にこうやって話すのは1時間後、君にとっては1日後くらいかな」
「じゃあダイブプログラムをスタートする。5、4、3、2、1、ゼロ、」
「いひ、に、はん、よ……」
2月4日 文章を短くするために部分的に削除しました。