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10-2

 湖の国からクリサンタの町へと、ヴィーに乗って返ってきた。


 ヴィーは着陸後すぐに小さくなって、定位置である僕の頭の上におさまった。


 ミドリお祖母ちゃんの家に向かうと、庭で水やりをしていたモエちゃんが一番に僕たちに気づいて、走って家に戻っていった。


「お祖母ちゃーん。冒険者さんのお兄ちゃんとお姉ちゃん帰ってきたよ!」


 入れ替わりでミドリお祖母ちゃんが出てきて、エプロンを脱ぎながら迎え入れてくれた。


「まあまあ、呼び出しちゃってごめんなさい」


「都合で急にホワイトワールドやめないといけなくなっちゃって」


「でも、どんな花が見つかったのか、気になってしょうがなかったの」


「それとね、パーティーをしようと思うのよ。お別れパーティー。私の。うふふ」


「パーティーにも来て欲しくって、そんなわけで無理を言ってしまったの。本当にごめんなさい」


 初めて会った時のように、ミドリお祖母ちゃんが一気にまくしたてた。


「無理なんかしてませんよ。ここまで送ってくれた者がいましたので」


 頭の上を指さす。


「ヴィーと申す」


「え? この……ニワトリさん?」


「ヴィーじゃ」


「えーと、ヴィーさん?」


「うむ」


「まあ、ステキなお友達ね。昔おうちの庭にもいたわ。よく追いかけられたのよねえ」


「ええ、よく追いかけられます痛い!」


「ほんに口が減らんのう」


「じゃあ、ヴィーさん、ヴィーさんもパーティーにいらしてくださいな」


「うむ」


「何か好みとかおありですか? 逆にダメなものとか」


「何でも良い。が、当分ムカデは見とうないな」」


「ムカデ? うふふ、わかりましたわ」


「それでね、ショータさん、アイさん。お二人に見つけてきていただいたお花なんですけど、今夜のパーティーで披露していただけません?」


「え、今夜? そんな場でですか?」


「ええ。今は準備で忙しくって、ぜーんぶ終わったら次はパーティーですもの。今晩しかないわ。だからお願いね」


「は、はあ」


 何をどんな順番で報告しよう。全速力で考えなきゃ。


 そのとき、玄関の方で人の気配がした。


「あ、フィオねーさんも帰ってきた」


 モエちゃんが玄関に向かって走っていく。


「グハハハハハ、貴様も糖度を測ってやろうかー」


「キャー」


 港町のフィオさんがモエちゃんの頭をわしづかみにしながら家に入ってきた。

 そしてその後ろからは先生が。


「あ、先生」


「おお、ショータ君にアイ君、君たちもいたのか」


「先生? ビステカさん、先生って呼ばれているの? すてきね」


「ミドリさん、お恥ずかしい限りです」


「ビステカ……さん?」


「ああ、ショータ君、まだ名乗ってなかったね。僕はビステカっていうんだ。僕とミドリさんは同期、最初期のテストプレイヤーでね、付き合いが少し長いんだよ」


「ビステカさんは野菜や果物にこだわってらしてね。育てるのにどうすればいいのか、よくお話ししたものね」


「そうですね。あの頃の手探りな感じも今思えば楽しかった」


「そうそう、それでね、パーティーにビステカさんもお呼びしたのよ。そうしたらお料理を作るっておっしゃってくださって」


「ええ、腕によりをかけますよ」


「私の新魔法も大炸裂ですぞー」


「フィオねーさん、新しい魔法って?」


「お鍋の中身を50℃から200℃までの任意の温度にできるのでーす。魔法の名前はノバチャンでーす」


「フィオねーさんすごーい」


「先……ビステカさん、フィオさんって何なんですか?」


「優秀な助手だ」


「…………あ、そうだ、ビステカさん。これ手に入れたんですよ、これ」


「これは……米じゃないか!」


「ええ」


「お米? 以前ビステカさんが作ろうとずいぶん苦労してらっしゃったけど」


「はい。結局お米を作ることはできなかったんですよ。それをショータ君、でかした!」


「たまたま栽培している国に行く機会がありまして」


「いやいや、素晴らしい。だが、パーティーメニューを大幅に変更する必要があるな! アイ君、君とモエ君とで野菜を買ってきてくれないか? リストとお金を渡すから」


「喜んで」


「わかったー」


 二人が駆け出していった。


「こうなると味噌が間に合わなかったのが悔やまれる。味噌玉から豆味噌を作っているのだが最低でもあと半年は必要だ。フィオに超音波熟成魔法を覚えさせるべきだったか……」


「まあまあ、ビステカさん、お米があるだけで十分ですわ。精米と炊くのは私にまかせてくださいな。昔とったる杵柄です」


「お願いします。じゃあ、味付けは塩と魚醤ベースで……」


「あと日本酒もありますよ」


「ショータ君、君は最高だな!」


「よし、準備を始めよう。フィオ、来てくれ!」


「あいあーい」


 キッチンが戦争状態になった。


 僕は役に立てそうもないので、庭に出る。


 ヴィーも僕の頭から下りて、庭へと駆け出していった。

 ニワトリだし。いや、こっち睨まなくていいから。


「花が、ずいぶん増えたんだな……」


 最初に訪問したときと比べて、花畑が見違えて華やかになっていた。


 背の高い花、低い花。

 赤い花、白い花、黄色い花。

 香りもいろいろただよって、蝶やハチが飛んでいる。


 以前、お茶をいただいたベンチに行ってみる。


 以前と同じようにネコが眠っていた。

 静かにその隣に座る。


 ベンチからは庭が一望できる。


 ミドリお祖母ちゃんがどれだけ手を入れてきたのか、想像もつかない。


「お祖母ちゃんが引退したら、このお花畑、どうなるんだろう……」


 独り言が出た。


「あら、ショータさん、こちらにいらしたのね」


 ミドリお祖母ちゃんがやってきた。


「ショータさんにお渡ししたいものがあって、探していたのよ」


「はあ、すみません」


「どうぞ、すわったままで結構ですわよ」


 立ち上がろうとしたら制された。


「あのね、花を探してもらうお願いをしたときに、お礼の話もしたでしょ?」


「その約束のものをお渡ししようと思って」


「え? えーと……ああ!」


 思い出した。


「思い出しました? 受け取ってもらえるとうれしいんだけど」


「ええ、もちろん。喜んで! アイ姉もきっと喜びます」


「なら良かった。大事に……ここぞってところで使ってね」


 ミドリお祖母ちゃんがガッツポーズした。


「あ、ははは、はい。わかりました。そうします。ありがとうございます」


「ああ、よかった。また一つ肩の荷が下りたわ」


「それにしても、引退って急な話ですね」


「ええ、どうしても続けることができなくなっちゃったの。最後までお付き合いできなくて、ホールワールドの方にも申し訳ないと思ってるのよ」


「お花畑、ここまで立派になったのに」


「だれか手入れしてくれるのかしら……あら、ショータさん、家ごと差し上げてもよろしくてよ」


「え? えーと、んーと、それは……」


 正直荷が重い。

 これだけの花畑を維持できる自信がまったくない。


「うふふ、冗談よ」


「すみません……」


 乗り気じゃない心を読まれたようで、申し訳ない。


「おばあちゃーん!」


「あら、アイさんが帰ってきたわ」


「ショータ、ただいま」


「おかえり。アイ姉」


「さあて、材料がそろったことだし、これからもうひと頑張りしなきゃ」


 お祖母ちゃんが先頭に立って、モエちゃんとアイ姉を連れて家に戻っていった。


 僕は、やはり役に立ちそうもないので、庭をながめていた。


 さて、その夜は大変な盛り上がりだった。


 食べ物は先生渾身の和食が並んだ。

 白米のご飯に梅干し、海苔、魚の干物、魚の塩煮、卵焼き、厚揚げと菜っ葉を魚醤で軽く煮たもの、貝と海藻の酢の物、鶏肉の梅酢で煮たもの、茹でた野菜をクルミ・ゴマ・豆腐であえたもの、お刺身はお酒と梅干で作ったというタレがついてきた。

 先生の厳選素材はどれも抜群に美味しかった。


「お米なんて、本当に久しぶりねえ。とてもおいしいわ。それに塩味で煮たお魚もおいしいのね。初めていただいたけれど」


「ええ、沖縄料理でマース煮というのですよ。本当は醤油味のものもごちそうしたかったのですが……」


「ええ、ええ、その気持ちだけで充分ですわ」


 フィオさんも大活躍だった。

 36時間、鍋を抱えて作ったというローストビーフが出てきたり、パーティー中は鍋の油を180℃で維持、先生といっしょにお好み天ぷら屋台をひらいたりしていた。

 ワインを使った蒸留酒も出た。フィオさんの魔法は蒸留酒づくりでも有用らしい。

 先生は『次はやはり熟成魔法だ』と言っていたが、どこまで便利な人なんだろう。


 モエちゃんは食べ物や飲み物をもってリビングと台所を行ったり来たり、飛び回っていた。


 クリサンタの町から次々と客がやってきて、飲んで、食べて、そしてお祖母ちゃんに挨拶をしていった。

 お祖母ちゃんはその全員に花束であったり、鉢植えであったりを手渡していた。


 来客が落ち着いたころから、僕とアイ姉、そしてヴィーで見つけてきた花の紹介を始めた。

 インベントリから花を出しては、それがどんなところで生えていたのかを説明する。

 途中のグランリバーやロゾ湖、洞窟、湖の国などの話もした。


 ミドリお祖母ちゃんはもちろん、先生やフィオさんも、料理の残りでお酒を飲みながら、僕たちの話を聞いていた。


「洞窟の中の花、実際に見てみたかったわねえ」


「すみません。1本しかなかったものですから、持ってこれませんでした」


「いいのよ、それでいいの。周りのコケも全部もってこないとダメでしょうし、それでもうまく育てられたかわからないもの。でも、これ、きれいねえ」


 アイ姉が急に腕を振って、みんなの注目を集めてから、右手の人差し指を立てて口に当てた。

 そしてその指をとなりに向けると、モエちゃんがコックリコックリと舟をこいでいた。


「そろそろお開きにしますか」


 先生が言った。


「片付けは明日私がしますから、食器はそのままでいいでーす」


 フィオさんがまともなことを言った。


「あらあら、ごめんなさいね。みなさん、今日は本当にありがとうございました」


 ミドリお祖母ちゃんが深々と頭を下げた。


「とても楽しい時間を過ごすことができましたわ」


「僕達も楽しかったです。そういえば、あと何日くらいこちらに?」


「そうねえ、あと2日くらいね。今日いただいたお花を庭に植えて、お客様がまだいらっしゃるから、その人たちともお話して、それからかしら」


「そうですか」


「ショータさん、いろんな、いっぱいのお花、うれしかったわ」


「いえ」


「アイさんも」


「どういたしまして」


「ヴィーさんも、今日はありがとうございました」


「うむ」


 お祖母ちゃんに続いて先生が挨拶した。


「ショータ君、僕たちはミドリさんちに泊まっていくから、これで」


「あ、はい」


「また港町に来ることがあったら寄っていってくれてまえ」


「はい、そうします」


「それじゃあ、気を付けてお帰りくださいね」


「はい、さようなら、ミドリお祖母ちゃん。おやすみなさい」


「おやすみなさーい」


 僕とアイ姉は挨拶をして、ミドリお祖母ちゃんの家を後にした。


 僕は黙って歩いた。


 ヴィーは頭の上だ。


 アイ姉は僕の左腕をとり、自分の腕に挟み込んで、よりかかりながら、ちょっとぶら下がりながら歩く。


「アイ姉、重い」


「うん。重いよ」


「……重い……」


「うん。重いのだ」


 重い。でも、なぜか、少しその重さがうれしい気がした。


「アイ姉」


「ん?」


「明日、一緒に行きたい場所があるんだけど」


「いいよ。連れてって」


「わかった。ありがとう」


 そこからは僕もアイ姉も黙って、並んで宿までの道を歩いていった。

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